秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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軽快、リステッド

「おいおい聞いたか?アリアンスの次走は紅梅ステークスだってよ」

「まじか、去年あのレベルの走りをしたんだから、その程度簡単に勝っちまうよ」

「やっぱりそう思うよな。当日は断然一番人気だろうな」

 

街を歩いていると、そんな声が耳に入ってくる。彼女にしてみれば、正直今回のレースは少し物足りないくらいかもしれなかった。阪神ジュベナイルフィリーズでの走りに皆魅了されて、期待してくれているのだ。並のウマ娘では相手にならないだろうあのコープコートとあれだけの接戦を繰り広げたのだから、当然の評価ではあった。けれど、ギリギリで届かなかった。それは一つの事実として確かに存在して、彼女は完璧なレースをしたのに負けてしまった。そこから反省点を見つけ出すのは容易ではないけれど、僕もアリアンスも、また一つステップアップするためには、現状に甘んじている暇はなかった。年末、今までのレースや練習をひたすら見直した。体力や瞬発力、パワーが足りない、そんな基礎の能力の部分の限界なんてものは、焦ったところでどうにかなるものではなく、そもそもそこでは彼女はコートちゃんに大きく劣ってはいなかった。ならどこが違ったのか、見れば見るほどアリアンスが勝っている部分しか発見できなかったが、一つだけ見つけた気がした。熱が出るほど考えた割には、あまりにも簡単なことだった。しかしそれは、トリプルティアラの第一関門である桜花賞は、非常に厳しい戦いになることを暗に示していた。

 

 

「全然気負うことはないから、好きなように走ってほしい。この前コートちゃんと戦った時よりも、アリアンスはさらに強くなっている。何も心配はいらない」

 

ユウさんに背中を押されて、いざターフへ。この前の勝負服が少し懐かしかったです。ウールちゃんは、今日は大丈夫だろうと言って、コートちゃんと一足先に観客席に向かっていました。

 

「圧倒的一番人気のアリアンスが姿を現しました。記憶に新しいあの一戦を見せられて、他のウマ娘たちはどのような戦いをするのでしょうか。重賞ではないですが、多くの観客が中京に訪れています」

 

私のクラシックはここから始まります。一番人気らしい威風堂々した佇まいで、ゲートに歩き出しました。

 

 

 

「アリアンス差し切ってゴールイン!一番人気の期待に見事応えました!やはりコープコートとの接戦は間違いなかったのか!次走が今から楽しみです!」

 

情熱的に称賛する声もあれば、このくらいは当然の結果だとクールな人もいて、久しぶりに浴びる歓声は心地良かったです。応援に来ていたウールちゃんたちも、笑顔で迎えてくれました。

 

「うん、いい感じだ。二位との差は一バ身ほどだけど、この差は大きなものだと思う。お疲れ様」

 

私としても、落ち着いたレース運びで最大限の力を発揮することができたと思います。控え室に戻ろうとすると、一緒に走った子に呼び止められました。

 

「やっぱりアリアンスちゃんは強いね。この距離なら私の得意分野だし、うまくいけば勝てると思ったんだけどな。けど良い経験になった、ありがと!」

 

負けたはずなのに、むしろ私よりも清々しい笑顔でした。私がコートちゃんと戦った時と同じです。尊敬する誰かを超えたくて、本気で戦えることが嬉しくて。だから私にはこの子の気持ちがよく分かります。けれど、私が誰かの目標とされて、超えたい壁として意識されるなんて、全く思ってもいないことでした。心の底から嬉しいことのはずなのに、小恥ずかしい気持ちもありました。ただ、湧き上がるこの気持ちは、なんとも快いものでした。

 

「もちろんだよ。私もすっごく楽しかった、ありがとう」

 

レース自体はもう何回も走っているはずなのに、今回は初めてのことばかりで、初心を思い出すような、そんな一日になりました。

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