「なんなのあいつ。マジで感じ悪い。トレーナー、あんなの相手にしちゃいけませんよ。あたしは知ってます。トレーナーが誰よりもあたしのことを考えてくれていること。それに、あたしのレーススタイルを見つけてくれたのは、他でもないあなたです。こう見えて、ウールちゃん感謝してるんですよ。何てことない石ころを、ダイヤの原石にしてくれたこと」
やっぱり今のなし、と顔を紅潮させて慌てています。何もできなかった私とは違って、ウールちゃんは自分の言葉でピッドのトレーナーさんを追い返していました。自分に酷く呆れると同時に、ウールちゃんが女神様のようにも見えました。
「ウールちゃん、とってもかっこよかった。私なんて何もできなくて……。本当にごめんね」
「いいよいいよ、そもそもこれはあたしの問題だからね。けどイライラするよね、ほんと。何もかも馬鹿にして、今度は絶対に負けない!ほら、トレーナーもそんな顔しないでください。あたしもアーちゃんも、トレーナーを尊敬してますし、大好きですよ。ね、アーちゃん?」
ユウさんは俯いたまま黙っていましたが、ウールちゃんの言葉で、なんとか意識が戻ってきたようでした。
「二人とも、迷惑かけてごめん。嫌だと言うなら、いつでも僕は二人のトレーナーを降りる気でいるし、代わりの人だって探すから、いつでも言ってほしい」
「普段は頼りになるのに、こういう時ばっかり弱々しいんですから。アーちゃんからも何か言ってあげて?」
ウールちゃんからバトンを受け取った私は、机から動こうとしないユウさんの近くまで歩いて、おとぎ話を語り聞かせるように、声をかけました。
「ユウさんは、私の走りに助けられたって言ってくださったことがあります。けど、私もユウさんに見つけてもらえて、助けられました。ユウさんじゃないと、私を見つけてくれたユウさんじゃないとダメなんです。だから、それ以上言わないでください。大切なトレーナーを悪く言うのは、私が許しません」
「ここまでアーちゃんに言わせるなんて、トレーナーは罪な男だよね。だから反省も兼ねて、今日はおいしい店奢ってくださいね」
ようやく顔を上げてくれましたが、その顔は涙で滲んでいて、不安でいっぱいでした。耳を真っ赤に染めて、ユウさんが答えます。
「僕も、二人の担当になれて本当に良かった」
そう呟いて、何度も何度も、ハンカチで涙を拭っていました。やがて日が暮れ始めた頃、いつものユウさんの顔が戻ってきました。レースのことばかり考えていて、私たちのレース映像を何回も何回も見直して、練習記録用のノートを数日で真っ黒に染めてしまう、そんな素敵な私たちのトレーナーさんの顔でした。
「自信を持つのは、お互いの課題ですね」
ウールちゃんがささやくように言いました。少しずつ夜更けが遅くなっていくのを感じます。もうこんな時間なのに、太陽は落ち切っていませんでした。
その日の夜ご飯は、ウールちゃんの希望でまたまた回らない高級寿司店となりました。ちなみにコートちゃんも参戦です。サーモンばかり食べていました。私はというと、鯛や鮪がおいしくて、ひたすらつまんでいました。ウールちゃんはコートちゃんの二倍の量を平らげています。
「トレーナー、まだ頼んでいいですよね。まあいざというときのためにコート連れてきたんだし」
「ちょっと、それどういうこと?私は貯金箱じゃないわ。それに今日はお客様だから、一円も払う気はないわよ」
「私、少しなら出せるよ。今日はウールちゃんに助けられちゃったから、足りなくなったら私に言ってね」
「アーちゃんは出さなくていいから!そんな残酷なことあたしにはできない!トレーナー、マジでなんとかしてくださいね!」
その様子を見て、僕は特に給料が少ないから、数ヶ月はもやし生活だよと笑っているユウさんの顔は、今日一番の笑顔でした。艶のあるネタを頬張りながら、電灯の下の皆の笑顔は何よりも美しかったです。