「うん、二人とも良い顔。リフレッシュになったかな」
なんだか長い夏休みを過ごしたような満足感です。お土産のキーホルダーをユウさんに渡すと笑顔で受け取ってくれて、早速カバンに付けていました。そんな浮かれた気分も程々に、重要な連絡が伝えられました。
「次走のことなんだけど、アリアンスがアネモネステークス、ウールが弥生賞で考えているんだけど、どうだろう」
アネモネステークスは桜花賞のトライアルレースの中で、唯一重賞ではありません。そしてウールちゃんの弥生賞は言わずと知れた皐月賞のトライアルレース。なんといっても皐月賞と条件が一緒です。このレースの結果は皐月賞に大きくつながっていきます。少しずつ私たちにクラシックが近づいていることが実感されます。
「他の選択肢として、アリアンスはフィリーズレビューやコープコートちゃんが出走するチューリップ賞もありだと思ってる」
チューリップ賞は桜花賞と条件が同じで、直接桜花賞に繋がる大切なレースです。なぜユウさんはアネモネステークスを次走にするつもりなのでしょうか。
「コープコートちゃんとチューリップ賞でわざわざ戦う必要はないと僕は思う。今のところアネモネステークスの出走予定にアリアンスと互角に戦えるウマ娘はいない。それなら舞台は違っても色々と試してみようと思うんだ。もちろん、アリアンスの意見を尊重したい」
なかなか難しい判断でした。チューリップ賞でコートちゃんと戦う、つまりそれはもう桜花賞本番とピッタリ状況が同じなのです。私が桜花賞を勝つためには、コートちゃんは超えなければいけない大きな大きな壁です。阪神ジュベナイルフィリーズでは、私の作戦も含めて正攻法で叩きのめされてしまいました。それなのに、チューリップ賞で戦ってしまえば、手の内を全て晒すことになってしまいます。それなら、やはりアネモネステークスの方が良いのでしょうか。
「多分だけど、コープコートちゃんは前哨戦とはいえ手は抜かず全力で戦うと思う。アネモネステークスで作戦を立てて、それをチューリップ賞の走りを見ながらじっくり煮詰めていく」
ユウさんの言う通りにすれば、きっと最高のパフォーマンスが生まれるのかもしれません。けど、私が阪神ジュベナイルフィリーズで感じた絶望の差を打ち砕くための作戦は、やっぱり直接ぶつかってみないと見出せない気がするのです。
「私、チューリップ賞に出走したいです。コートちゃんと直接走るのが、私には一番合っているような気がして……」
ユウさんは大きく頷いて、簡単に了承してくれました。もう少し色々と聞かれると思っていたので、少し意外です。
「よし、アリアンスの次走はチューリップ賞にしよう。作戦とかは後でじっくり考えるとして、次はウール。弥生賞にしようと思うんだけど、どうだろう。ナイズちゃんやミールラプソディは出てこない。その代わり一人、とんでもなさそうなのがやってくるんだけど……」
「聞きましたよ、共同通信杯の覇者、サンドルーンちゃんですよね。あたしも見ました。正直、ゾッとします」
最近行われた重賞レース、共同通信杯で勝利したサンドルーンちゃん。毎年強豪が集う共同通信杯ですが、今年のレベルは特に高かったみたいで、その中でも抜けていたそうです。トレセン学園でもその評価は広がり、皐月賞は勝確だと言う人もいます。
「ちょうど良かったです。そんなに強い子と本番前で戦えるなんて。あたしの実力があの子にどこまで届くか、試してみたいです」
「よし、その意気だ。弥生賞に登録しておくよ。とりあえずこれで今日話したいことは全部だから、ここからは練習メニューのことなんだけど」
次走も決まって、早速トレーニングに移っていきました。
アネモネステークス(L)…中山で行われる芝1600mの競争。上位二着以内のウマ娘に桜花賞の優先出走権が与えられる。
フィリーズレビュー(G2)…阪神で行われる芝1400mの重賞。上位三着以内のウマ娘に桜花賞の優先出走権が与えられる。
弥生賞(G2)…中山で行われる芝2000mの重賞。上位三着以内のウマ娘に皐月賞の優先出走権が与えられる。