レース後、アリアンスが前のようにタオルと水を持ってこちらへ駆け寄ってきた。
「ただいま、アリアンス」
「おかえり、おかえりアイちゃん!」
彼女から水を優しく受け取って、一気に飲み干した。夕焼けで眩んでいた視界も少しずつ落ち着いてきて、レースの興奮も少しずつ温くなってきた。私は彼女に真っ先に言うべきことがあった。
「やっと立ち直れた。全部アリアンスのおかげ。今まで酷いことばかり言って本当にごめんなさい。あなたはいつでも私を助けようとしてくれていたのに、全て冷たくあしらってしまった」
「ううん、いいの。さっきのアイちゃん、とっても楽しそうで、とってもかっこよかった……!」
改めて近くで見る彼女は、気後れしてしまうほど美しかった。こんなに瞳を輝かせて私を見つめている。私が今まで彼女に浴びせてきた心無い発言も簡単に許してしまう、どこまでも優しい子。どうして彼女のこの優しさを今まで無視してしまっていたのだろう。
「私のお節介なんかなくても、アイちゃんは強いのに、私は何も知らずに付きまとっちゃって……。ごめんなさい」
「違う、それは違う!」
輝きに満ちた彼女が暗い顔をするのが嫌だった。もう前のような声を出してほしくなくて、そんな姿見たくなくて。考えるより先に身体が行動し、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
「それは違う。私は本当にあなたに助けられた。あなたのおかげで走れるようになった。あなたのために走りたいと思った。全部、全部アリアンスが変えてくれた」
無口な私にしては饒舌だと思われたかもしれない。けれど彼女は私の中でかけがえのない存在になってしまった。とにかく感謝を伝えたくて仕方がなかった。
「うふふっ、良かった。私、アイちゃんのこと、少しは理解できたかな」
その笑顔に私はすっかり魅入られてしまった。ひたすら周りを大事にして、レースで皆の思いを背負うことができる心優しいウマ娘のアリアンスだから、周りから注目されても無理はない。その周りの一人に私はなってしまった。そして今、彼女の強さが少し分かったような気がする。この笑顔は、彼女の強さの象徴だった。よりいっそう彼女のために走りたいという思いが強くなっていく。
「私は、アリアンスのためなら走れる。だから、私を見ていてほしい」
「えへへ、もちろん。私もアイちゃんのレースが大好きだから。あの、アイちゃん」
もじもじしながらアリアンスが言った。
「あだ名で呼んでほしいな、なんて……。ごめんね、嫌だよね」
せっかくなら誰も使っていないような名前で呼びたかった。私はじっくり考えて、答えた。
「アン。アリアンスだから、アン。私だけのあだ名」
「かわいい名前。なんだか照れちゃうね。でもアイちゃんに呼んでもらえるなんて、嬉しい」
私も耳を真っ赤に染めて、尻尾をぶんぶんと振って、恥ずかしさが取れなかった。でも、嬉しかった。しばらく沈黙が流れて、私は恥ずかしそうにタオルを受け取り汗を拭いた。かわいい刺繍が施されていて、アンらしいと思った。そして何回か深呼吸をして、二人で控え室に戻った。
「行こ、アン」
「待って待って、二人ってそんなに仲よかった!?」
週が明けて、私は真っ先にアンのもとへ向かった。アンの話をもっと聞きたかった。そう思っていたのだけれど、アンと仲が良いショートウールがやってきた。
「静かにして、せっかく話してたのに」
「いやだって、前まであんなんだったあんたがなんでアーちゃんと一緒にいるのさ」
「アンは優しい。それだけ」
「待って待って、どういうこと?あだ名まで付けちゃって」
ショートウールは何が何だか分からない様子だった。確かに意外かもしれない。でも、彼女の前だと色々と話したくなってしまうし、表情も柔らかくなってしまう。私のことを彼女が知りたいと思ってくれたように、私も彼女のことを知りたかった。だから話していたら、ショートウールがやってきたのだ。もう少し二人で話したかったのに。
「アーちゃんがいいなら別にいいんだけど、あたしにももう少し優しくしてくれればいいのに」
「ごめん、そんなつもりはなかった」
「え、ああ、謝ってくれるならいいんだけど。まさかフルアダイヤーがこんなに丸くなるなんて。アーちゃんは本当にすごい」
彼女は少し困惑していた。アンのおかげで私は前に進むことができた。立ち止まることはあっても、もう後退しない。目の前で笑っている彼女のために、自分ができる最大限のレースをしてみせる。私は改めてそう誓った。そしてもう一つ、彼女に渡したい物があった。
「アン、これ、受け取って。飴、貰ってばかりは嫌だから」
「わあ、嬉しい。えへへ、ありがとう、アイちゃん」