秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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トウカイテイオー

「ずっとフルアダイヤーさんのことを気にかけていたもの。ようやく距離を縮められたようでなによりだわ」

「ちょっとあたしにも優しくなったしね。アーちゃん様々だよ。縮め過ぎてる気もするけど」

「いよいよ明後日。私はトライアルでも手は抜かない。アリアンスさんにはアリアンスさんの作戦があるだろうけど、本気だったら嬉しいわ」

「じゃああたしから二人にプレゼント」

 

後ろからバニラアイスが差し出されました。ウールちゃんが気を利かせて買ってきてくれたのです。

 

「ちょっと時期が早かったかな」

「ううん、嬉しい」

 

久しぶりのアイスは脳に染みます。甘さと共に清涼感が駆け抜けていって、昼食後の睡眠欲が飛んでいきました。

 

「さ、今日もトレーニング行こっか。じゃあまたね」

「コートちゃん、さよなら」

 

コートちゃんも早くレースがしたくてソワソワしていました。

 

 

「今日は主にアリアンスのために、なんとかお願いして特別ゲストを連れてきた」

 

ターフにはユウさんともう一人、誰もが知るウマ娘の姿がありました。

 

「君が噂のアリアンスちゃんかー。はじめまして、ボクはトウカイテイオーだよ!」

 

クラシック二冠を達成し、絶望からの奇跡の復活。その物語のような逆転劇は皆の心に刻まれました。そんな誰もが知る最強ウマ娘。トウカイテイオーさんがそこにはいました。わざわざ自己紹介をしなくても、溢れ出る覇気が最強を物語っています。

 

「な、なんでトウカイテイオーさんが」

 

これには三人とも驚きを隠せません。ユウさんは自慢げに説明します。

 

「トウカイテイオーは今のアリアンスの練習相手にうってつけだと思う。何回も頼み込んで、一緒に走ってくれることになった。ぜひこの機会をチューリップ賞に活かしてほしい」

「アリアンスちゃんはカイチョーのお気に入りだからね。ボクも気になっちゃってさ。ほらほら、早く準備しないと、待ちくたびれちゃったよー」

 

気さくに会話をするトウカイテイオーさんでしたが、強者のオーラは隠し切れません。今の私では到底叶うはずもない相手なのに、どうしてユウさんは併走相手に選んだのでしょうか。

 

「アリアンス、今回の併走の一番の目的は、勝つためにあがく、これを覚えることだ。実力や実績が自分より上の相手に対してどうアプローチしていくか、どうやって一杯食わせるか、レースの駆け引きの細かい部分を肌で感じてほしい」

 

私は緊張しながらも白線が引かれたスタートラインの前に立ちます。すぐ隣にはあのトウカイテイオーさんがいて、私は今から真っ向勝負を仕掛けようとしているのです。君のタイミングで良いよ、そう言ってくれました。震える足を落ち着かせて、深呼吸をして、芝を思いきり蹴りました。併走が始まって数百メートル、私を試すように横にピッタリ張りついています。

 

「トウカイテイオーに相手を頼んだのはもう一つ理由があるんだ」

「アーちゃんの足の柔軟さ、まさにトウカイテイオーさんの武器と同じですよね」

 

一キロを過ぎても全く動きはありません。トウカイテイオーさんは相変わらず私の横にピッタリと張りついて離れません。私の前で逃げるわけでもなく、後ろからプレッシャーをかけるわけでもありません。最後の直線の末脚だけで決着をつけるために。実力だけで私を倒すために。二人は全く同じタイミングでスパートをかけました。少しずつ少しずつ差が開いていきます。私は必死で追いますが、その努力は虚しく一向に縮まりません。三バ身以上つけられて、私はようやくゴールしました。

 

「お疲れ様、今回負けたからといって、落ち込んでる暇は無いよ!」

「はい、ありがとうございました……」

 

まだ体力は余っているのに、終始トウカイテイオーさんに主導権を握られていたような感じがして、なんだか納得のいかないレースになりました。相手が自分より圧倒的に強いって分かってしまうと、こうも萎縮してしまうものなんだと思いました。

 

「アーちゃん、お疲れ様。とりあえずユウトレーナーから話聞こっか」

「色々と体験したことない感覚に陥ったと思う。結果として作戦らしいことはできなかったかもしれないけど、その感覚を大事にしてほしい。強い子と何度も本気でぶつかり合うことで、きっと活路は開ける。ちなみにアイちゃんだったらどうしてた?」

「逃げてると思います。直線の末脚で勝てないなら、ペースを乱して体力勝負に持ち込むしかない」

「それもありだった。アリアンスが今回それをしなかったのは、緊張していて何も考えれなかったか、最初から勝つことを諦めていたか、逃げは得意じゃないから置きにいってしまった、あとは実力で戦いたかったとか。厳しい言い方になっちゃったし、たくさん挙げちゃって混乱してるかもしれないけど、圧倒的な実力差を持つ子と戦う感覚を知ってもらえたら今回は御の字だと思う」

 

今日一日の練習で、私の常識が崩されたような衝撃を受けました。同時に一気に成長したような気もしました。私にとって圧倒的な力の差というのは、きっと今はコープコートちゃんのことだと思います。ユウさんは決して言わないですが、きっと桜花賞でコープコートちゃんを越えるための練習として、さっきの併走を組んだのです。そして私は何もできなかった。これを克服しなければ、いつまで経ってもコートちゃんには勝てません。でも、それは飛び越えるには大き過ぎる崖でした。さっきのトウカイテイオーさんとの一戦だって、今考えてもどうすれば勝てるか浮かばないのです。そんな私が、ましてレース中に打開策を見出すなんて不可能なのです。私は、私はいったいどうすればいいのでしょうか。

 

「思い詰めちゃダメだ。簡単に答えが見つかるなら、皆苦労しない。とても難しい課題だから、まずは今日はその不安を意識できただけでもすごいことだと思う」

「うんうん、アーちゃんはかっこよかったよ!」

「ボクも最後の粘りには驚かされちゃった。またカイチョーに伝えないとね。それじゃボクははちみー買って帰るから、ばいばーい」

 

トウカイテイオーさんはさっき、何を考えていたのでしょうか。それを聞くことができずに今日の練習はお開きとなってしまいました。帰り道、心に石のような塊が残ってしまって、嫌な気持ちが取れませんでした。

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