「ユウトレーナー。あたし、どうやったらあいつに勝てるかな」
あいつというのはもちろん、サンドルーンのことだった。私は結構あいつとの実力差を感じている。瞬発力、粘り、スタート、多分どれを取っても負けていると思う。あたしも一応重賞を制したウマ娘だし、ホープフルステークスでも結果を残しているけれど、そんなの関係ないくらいの強さを共同通信杯では見せていた。あのレベルのウマ娘が揃った中での圧勝劇。全く歯が立たない可能性もゼロではなかった。正直不安に押しつぶされそうなくらいだったけれど、ユウトレーナーは意外と簡単そうに言った。
「全然勝てる。これはおだてて言っているわけでも、ふざけてるわけでもない。もちろん彼女の強さはよく知ってるけど、今回の弥生賞に関しては、勝つ確率はこっちの方が高いくらいだ」
自信に満ち溢れた表情で言うから、私が不安を抱えているのを見透かして、誇張しているように見えてしまった。でも何回聞いてもその自信は変わらない。でも、嬉しかった。今ここで少しでも不安な発言をされていたら、さらに心が荒んでしまったから。あんなに実力差がどうとか言っていたのに、実は勝てるって言ってほしかったとか、どういうことって言われるかもしれないけれど、それが乙女心です。乙女は弱ってる時こそ強い言葉が欲しいものなのです。
「陣営はあまり間隔が空いていないのに弥生賞に出走させようとしている。本番の皐月賞に直行させないのは、何か不安があるからだ。そしてもちろんその不安は、距離の問題。そして中山の短い直線と二度の急坂。彼女にも疲れが残っていることを考えたら、全く勝てない相手じゃない。ウールはホープフルで経験してるしね」
頼もしい言葉だった。さすがはあたし達のトレーナー。ユウトレーナーは周りから悪く言われてるみたいな噂を聞くけれど、そんなの関係ない。あたし達はこの人の教えで強くなれているのだから。
「じゃあじゃあ、勝ったらご飯奢ってくださいね!なんか勝てる気がしてきました。他には、他には何か無いんですか」
「じゃあ作戦の話をしよう。今回はいつもより前でレースを進めても良いと思う。僕の見立てでは、サンドルーンちゃんは間違いなく粘るウールを捕まえられない。前走は強かったけど、逆を言えばあれが今の最大値。ウールには届かない」
ボードを使いながらの説明を受けていると、アーちゃんとフルアダイヤーがやってきた。相変わらずアーちゃんにくっついている。ウマ娘ってこんなに変わるものなんだって思う。アンのために走るって言ってたけれど、アーちゃんはいったいどんな言葉をかけたんだろう。今じゃ見違えるくらい成長して、G1制覇も期待されるくらいの走りに、フルアダイヤーはなっている。もっともっとあたしも頑張らないと。
「ウールちゃん、ナタリーさんがおいしい紅茶をくれたの。あ、今忙しいよね、ごめんね。ソファで待ってるね」
弥生賞はアーちゃんのチューリップ賞の次の日。アーちゃんもあたしも勝って、良い流れでクラシックを迎えたい。さっき言っていた紅茶の匂いがこっちまで流れてきて、ふわっと優しい匂いがした。見てみるとアーちゃんが優雅に紅茶を飲んでいる。なんだかメジロ家のお嬢様みたいだった。一応コートも高貴な身分だけど、色々と庶民的でとっつきやすい感じはする。ダメだダメだ、集中しないと。
「ちょっと話し過ぎちゃったかな。よし、大切なことは大方話したから今日は少し走って終わろう」
「ふう、どうですか、タイム」
「うん、良い感じだ。坂も問題ない。三人とも、今日はこれで終わりにしよう。アリアンスもウールも、本番は焦らないこと。これだけは覚えておいてほしい。二人は強い、誰よりも。負けるならお互いだけだよ」
「はい!」