秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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狂犬とコート

「それでさ、聞いてよ!あいつあたしの胸が小さいって馬鹿にしてきたんだって!まだまだこれから大きくなるのに!」

「胸の大きさより器の大きさだと私は思うわ。いくら胸が大きくても、あんたみたいな性格じゃ耐えられないもの。あと多分大きくならない気がするわ」

「ごめん、よく聞こえなかった。まあいいや、大きい奴と話したって仕方ない。アーちゃんはあたしの胸これから大きくなると思うよね?」

「私はウールちゃんなら大きくても小さくても素敵だと思うな」

「うう」

「やっぱり敵わないわね。さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら」

 

勝ち誇った顔でコートちゃんが見つめています。ウールちゃんは寒さに耐えるように縮こまって頰を紅潮させていました。やっぱりウールちゃんは大きい胸に憧れがあるのでしょうか。私は貧相なので分かりません。今からでももっともっと食事に気を使えば、私の小さな胸も大きくなるのでしょうか。

 

「まったく、食事中になんて会話をしているの。ほら、あんたのせいでアリアンスさんが気まずそうにしてるじゃない」

「わわわ、違うんだって!変な話してごめんね、ほら、アイス奢るから!」

 

意識してしまうと少し悲しくなってしまいます。コートちゃんはあんなに大きいのに。やっぱり皆胸が大きいウマ娘の方が良いのでしょうか。

 

「いってえな。周り見て歩けよ。そうだ、お前弥生賞勝ったんだって?その程度勝ったくらいでいきがってたら、そりゃ周り見る余裕なんてないか。走ることしか脳がないもんな」

 

どんっ、何かがぶつかる音がしました。アイスを買いにいこうと席を立ったウールちゃんがぶつかったのです。相手は、宿敵とも言っていいミールラプソディちゃん。ウールちゃんを目の敵にしているのか、こちらを睨みつけます。ウールちゃんが弥生賞を勝ったのが気に食わないようで、さらに冷たい悪口まで放ってきました。さすがのウールちゃんも黙っていません。眉間に皺を寄せて、負けじと睨みつけました。

 

「あたしに先着したことないくせによく言うよね。そっちこそ、もっとレースに脳みそ使わないと誰からも相手にされなくなっちゃうよ」

「お前、調子乗んなよ。まぐれで勝っただけのザコのくせに!」

 

ミールラプソディちゃんの怒りは最高潮に達して、ウールちゃんに殴りかかりました。突然の事態に私は全く動けません。あわあわと慌てるばかりで、やめて、そんな声すら恐怖で引っ込んでしまいました。けれど、隣のコートちゃんは違いました。颯爽と間に入って拳を軽々と受け止めたのです。その風圧で栗髪が舞いました。本気で殴りかかっているのに、腕を掴むコートちゃんはびくともしません。周囲のウマ娘たちも騒然としています。何が起きたの、どうしたの、私も聞きたいくらいでした。

 

「いい加減にして。皆が憩いの時間を過ごす場所で殴りかかるだなんて、本当にみっともないわ。あなたの強さ、少しは尊敬していたけれど、私の目が間違っていたみたい。これ以上私の友人を傷つけたいと言うのなら、私ももう遠慮しない」

 

コートちゃんの緋色の瞳に睨まれて、まるでメドゥーサに見つめられたかのように動くことができません。その静かな怒りがたぎる剣幕は、確かにミールラプソディちゃんを畏怖させたのです。ごめんなさい、それを言うことができないくらい、コートちゃんの周囲は凍っていました。

 

「お前、ちっ、コープコートかよ。ジュベナイルを勝ったくらいでイキリやがって。言っとくけど、こいつにクラシックを勝ち上がる強さはねえよ。運だけでここまで期待されて、本番が楽しみだ」

「失望した。その口、一回黙らせないといけないかしら」

 

赤眼がいっそう鋭く、鈍く光りました。これはもうコートちゃんの怒りの沸点を遥かに超えています。まるで犯罪者を蔑むような顔をしています。さすがにまずいと思ったのか、ミールラプソディちゃんが少し怯んで目を逸らしました。

 

「ちっ、ボンボンが。どいつもこいつも気に食わない」

 

舌打ちをして、ようやく去っていきました。猫背が強調されるその後ろ姿は、見ていて心地良いものではありません。けれど、彼女が去ったことで周りの空気がすっと軽くなりました。私は肩の力が抜けて、コートちゃんもいつもの調子で、やれやれと呆れていました。

 

「ほんと、助かった。コートがいなかったらどうなっていたことやら」

「あんな奴気にする必要はないわ。それに手を上げるなんて言語道断。断じて許されることではないもの」

「コートちゃん、とってもかっこよかった!」

「ほんとだよねー。私ももう遠慮しない、だってさ!きゃー!ちょっとときめいちゃったじゃん!」

「か、からかわないで。私も少し大人気無かったと反省してるんだから」

 

さっきのルビーのような瞳の赤が移ったように、コートちゃんの頬がほんのり桃色です。咄嗟の判断と勇気を見せた冷静でクールなコートちゃんがいたおかげで、今かわいらしく照れているコートちゃんがいっそう際立って見えました。

 

「でも、本当に気にしなくていいわ。あなたは強い。この私が認めているもの。全部聞き流してやればいいわ」

「もちろん分かってるって。大切な親友の言葉が一番だからね!」

 

ウールちゃんの満面の笑みに、さらに桃色を濃くしていました。コートちゃんがここまで表情を乱すのも珍しいです。やけに素直なウールちゃんにペースが乱されているみたいです。さっきまではウールちゃんがからかわれていたので、仕返しかもしれません。

 

「でも、ほんとにありがと!」

「まったく、いいって言ってるでしょ。お礼ならアイスで勘弁してあげるわ。もちろん、アリアンスさんにもね」

 

もちろんと元気に返事をして、ウールちゃんはスキップをしながら購買に向かっていきました。

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