秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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三人の仲間として

「よし、改めて桜花賞までの計画を立てよう」

 

その一言で空気が一変しました。きっと今日、クラシックへの最終的な練習プランが決まります。私とアイちゃんは桜花賞、ウールちゃんは皐月賞、夢への大きな扉は、少しずつ近づいているのです。

 

「アイちゃんはまずは芝の感触に慣れなきゃいけない。そしてそこからG1で戦うレベルになるには、かなり苦しいメニューを強いることになってしまう。どうか許してほしい。けど、常識は崩そうと思った瞬間、あっけなく崩れ落ちる。芝とダートの境界を破壊してきたウマ娘を、三人は僕以上によく知ってると思う」

 

三人の表情は授業中のように真剣です。前置きが長くなってしまった、そう言っていつものようにホワイトボードに書き込み始めました。三月も中旬、高松宮記念を始めとした春のG1シーズンがやってきます。桜花賞までに私ができることを一つ一つ着実に積み重ねていきたい、そう思います。

 

「硬い芝でいきなり全力は危ない、だからアイちゃんはしばらくはポリトラックを使ってトレーニングしていこう。そしてウールは持久力の向上のためにさらに負荷をかけよう。これからのメニューはノートに残しておくから、この後練習に向かう時に見ていってほしい」

 

私はどうすれば良いのでしょうか、そう尋ねる前にユウさんはこの前のチューリップ賞の映像を用意して、私に見せました。

 

「そして、アリアンス。この前のチューリップ賞でアリアンスは大きく成長した。元々そのセンスはトップレベルだったけど、今回で無駄な力の消費が一切無くなって、フォームが全く変わった。まるで先日並走したトウカイテイオーのように、足の柔軟さの有利を百パーセント出し切ることができるようになったと思う。踏み込みを最小限にして、それでいて最大限に遠くまで」

 

最後の直線で私は、また一つレースというものを理解したと思います。ふっと風を切って、戯れるようにコートちゃんとぶつかり合いました。そのおかげか、光に導かれるように良いレースができたのです。ユウさんが指摘したように、緊張や責任感から来る余計な力みが消えたのかもしれません。ユウさんは言っていました。チューリップ賞を使って本当によかったと。何度もレース映像を見返していた理由がわかりました。

 

「だからこそ、最後の仕上げで磨いてほしいものは最高速度。単純なスピード。そんな当たり前のことを言われても困る、そう思うかもしれないけど、逆を言えば桜花賞において一番必要なスピードにまだ伸びしろがある状態で世代最強の鬼才、コープコートをあそこまで追いつめた。勝利まではあとほんの一歩だよ。そしてその一歩はあまりにも小さい」

 

ユウさんの分析に圧倒されてしばらく何も言えませんでした。コホン、饒舌を恥じるように咳払いをして、ユウさんが続けます。

 

「スピードに関する技術はたくさんあるけど、とりあえず短めの距離を何回も走ってみよう。もちろんタイムを意識しながら。あとはもう一つ、考えていることがあるんだけど、これはまた追って連絡する。三人とも、本番までもう一踏ん張り、頑張っていこう」

 

一通り話し終えたあと、ユウさんが黒い鞄から三つ、何かを取り出しました。目を泳がせて辿々しくそれを差し出します。

 

「僕はこういうの慣れてなくて、三人の技術には到底及ばないけど、バレンタインデーのお返し、受け取ってほしい」

「え、なになに〜?これ、ユウトレーナーが?へぇ〜、ふ〜ん。かわいいところ、ありますね!」

 

ウールちゃんが一瞬の間に飛びついてきました。美術品を観察するようにじっくりと、そして茶化すような表情で見つめています。ユウさんからのお返しはクッキーでした。美しい均一な茶ではなくところどころ黒い焦げが顔を見せているのが、私たちのために何回も作り直してくれたことを示しています。業務で忙しいはずなのに私たちのために。その思いがラッピング越しでも確かに伝わってきました。

 

「味も多分市販の物の方がおいしいし、見た目も焦げてて美しくない。無理して食べなくたって全然構わない」

「まさか、もちろんおいしく食べちゃいますよ。それに、こういうのは味じゃないんです。ね、アーちゃん?」

「うん!お返し、とっても嬉しいです。ユウさんの気持ち、ちゃんと伝わりました」

「私は、受け取れません。そもそも私はまだこのチームにいなかった。バレンタインとかホワイトデーとか、興味ないです」

「そういうこと言わないの、もうあんただって仲間なんだから、もらっちゃうべきです!」

 

いいってば、そうあしらうアイちゃんにウールちゃんが無理やり押しつけました。ユウさんは苦笑いしていましたが、受け取った本人は言葉ほど嫌そうな表情は見せていません。むしろ少し頬を赤らめていました。

 

「あれあれー、なんか嬉しそうじゃない?やっぱり欲しかったんじゃん!」

「違う、チームに認められて嬉しいとか、そんなこと思ってない」

「心の声漏れてるし」

 

さっきまでのシリアスなムードとは一転。いつも通りの和やかなトレーナー室になりました。アイちゃんはもう本当に私たちの仲間として、三人で一歩ずつ踏み出していくのです。

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