秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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少しだけ時が遡ってバレンタインの一幕です。


バレンタインのチョコ作り

2月14日。そう、バレンタインデーです。誰がなんと言おうと、バレンタインデーその日なのです。大好きなみんなにチョコを渡したくて、こっそり準備していました。王道のハート型のチョコや、イチゴの乗ったタルトなんかを、少しお高め、色とりどりの包装袋でラッピングして、一緒に撮ったプリクラも貼っちゃったりして。浮かれすぎじゃないでしょうか。一人一人の好みに合わせたお菓子を作ったつもりです。ウールちゃんにはいっぱいのハートを散りばめて、アーモンドも混ぜ込んで。コートちゃんは甘さ控えめです、ダークミルクチョコにして、少しビターで大人な味わいに仕上げてみました。もちろんアイちゃんの分もあります、まだ両思いのお友達とは言えないかもしれないですが、私の気持ちは伝わるはずです。ハズレがないようにくどくない甘さのブラウニーにしました。けど実はこのお菓子を作っている時、ナタリーさんとちょうど鉢合わせしてしまったのです。

 

「アーちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、これ、何してるの?」

「あの、その、これは」

 

料理中だったので隠すこともできなくて、でも隠したい思いが暴れていたので、言葉が出てきませんでした。ナタリーさんはそういうことかとニヤリとほほえみます。

 

「なるほどね、これは良くないタイミングだったかも。どれどれ、このチョコ、アーちゃんが作ったの?」

 

ウールちゃんにプレゼントする予定だったチョコを見ていました。じっくりと眺めて、感心したように唸っています。私は火を止めて、色々と説明しました。

 

「めちゃくちゃオシャレじゃん!アーちゃんお菓子作り得意なんだ、さすが。あたい本気で感心しちゃった。そんなアーちゃんに折り入って相談があるんだけど……」

 

申し訳ないという気持ち全開で手を揃えて、頭を下げました。

 

「おねがい!あたいの先生になって!お菓子作りとか料理とか、ほとんどやったことがなくて、けど他の子にも頼みづらくてさ、どうかこの通り」

「そんな、ナタリーさんのお手伝いならいつでも大歓迎です。一緒においしいお菓子、作りたいです」

 

ほんと、ほんと助かる!そう言って部屋までエプロンを取りに行ってしまいました。ナタリーさんはどんなお菓子が納得がいくでしょうか。レシピ本を見ながら様々な思考を巡らせます。材料の残りを確認していると、髪を結んでやる気満々のナタリーさんが戻ってきました。

 

「あたい、アーちゃんが想像してる何倍も初心者だから、なるべく優しく教えてほしいな、ね?」

「もちろんです。ナタリーさんが納得できるまで、何回でもお付き合いします」

「ほんとアーちゃんは優しいね。あたいもほんとはその本に載ってるようなやつを作れたらいいんだけど」

「渡したい方はいますか?」

「お世話になってるトレーナーとか、あとはルドルフにも渡したいなー。あの子は他からもたくさんもらうだろうけど、全部食べてその分運動だから大変だよね」

 

分かりました!まるで先生になった気分で、初心者用のレシピ本を取り出してパラパラとめくります。まずはシンボリルドルフ会長です。他の人からももらうかもしれないなら、きっとオーソドックスな味は飽きてしまうかもしれません。そして、目を惹くような味わいと見た目を生み出す必要があります。付箋を頼りに頭でイメージした条件に合致したページを探していると、とある一ページ、ナタリーさんが身を光らせました。

 

「これいいね。これにしよう!でも、あたいでも作れるかな」

 

指差したのは、コーンフレークを使ったクランチでした。

 

「絶対大丈夫です、ナタリーさんのおいしいプレゼント、私が失敗させません!」

「くくっ、今日のアーちゃんはいつにも増して心強いね。あたいもやる気出てきちゃった。さ、やるぞー」

「まずは、コーンフレークとくるみとバナナチップスを砕いて……」

 

雄弁に饒舌に、探偵のように指を立てたりしてポイントを説明しました。お菓子作りはまるで料理教室のように進んでいきました。

 

「ふう、何とかできたー。やってみると意外とできるもんだね。アーちゃんのおかげで良い感じのプレゼントが渡せそう」

 

私の分と合わせて、千差万別のお菓子ができました。ナタリーさんも最初は緊張していましたが、途中からはレシピを見ながら楽しそうに勤しんでいました。

 

「今日は本当にありがと!お礼と言ったらなんだけど、はい」

 

ナタリーさんはクランチを一粒摘んで差し出しました。ぱくっ、まるでポテトを食べさせ合うカップルみたいに、一口いただきました。クランチ特有のザクザクとした食感と、確かなミルクチョコの甘みがほのかに、それでいてダイレクトに伝わってきます。ナタリーさんの猪突猛進さが表現された完璧なお菓子だと思いました。これは誰が食べても百点満点を叩き出すに決まっています。

 

「どうどう?おいしい?良かったー。実はちょっと不安だったから。あのパティシエのアーちゃんが言うなら間違いない、自信持ってみんなに渡せる」

「もう、パティシエだなんて、言い過ぎですよ。でも嬉しいです……」

 

ナタリーさんの笑顔が眩しくて、なんだか少し照れくさかったです。私のお菓子を何回も褒めてくれて、私の技術を何回も羨ましく思ってくれて、いつもは私が憧れる側だったので、ナタリーさんからこんなに言ってもらえるのは新鮮でした。

 

「じゃあじゃあ、色々道具片付けちゃおっか」

「一枚だけ、ナタリーさんと思い出つくりたいです」

 

スマホのカメラを向けて、パシャパシャと自撮りしました。写真には髪を結んでエプロンを付けた二人のウマ娘がいます。一人はホイッパーを片手に、口元にクリームを付けて、もう一人はスマホを持っていない左手がチョコで濡れていました。ナタリーさんの努力が見られる調理台を背景に、満面の笑みが二つ。この写真は、私の部屋の机に新しく立てられた写真立ての中身となるのでした。




先日、UA?が一万を超えていました。わざわざ足を運んで文章を読んでくださった方々、お気に入りを入れてくださった方々、本当にありがとうございます。励みになります。もしよろしければこういうことを書いてほしいというのがあれば教えていただけると幸いです。もちろん感想や評価も受け付けております。長い後書きになってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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