秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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レゾルーラとサプライズ

みんなへのバレンタインプレゼントを持って教室へ向かう途中、私は早足になっていました。その勢いで曲がり角でぶつかってしまったのです。

 

「いたたた。やっぱ廊下でスピード出すもんじゃないね。君、大丈夫?」

 

手を借りて起き上がると、私がぶつかったウマ娘とその隣にはもう一人、見覚えのあるウマ娘がいました。エリザベス女王杯でナタリーさんと死闘を繰り広げたウマ娘、ローズピーチ先輩でした。

 

「怪我はない?こいつのことはまた叱っておくから、許してあげて。あれ、あなた、どこかで会ったことある?」

「え、なになに、どうしたの?知り合い?まっさかモモちゃんに知り合いがいたなんて、ウチ驚きだわー」

「思い出した。あなたはナタリーの同室の子だ。名前は、アリアンス」

「ああ、君がアリアンスちゃん?ナタリーがさ、一番強くてかわいいのはアーちゃんだってよく言ってるよん。うーん、確かに美形だ、アイドルみたい」

「あんまりジロジロ見ない。ほら、自己紹介」

「レゾルーラ先輩ですよね。この前のスプリンターズステークス、とってもかっこよかったです」

 

私をジロジロ見つめるこの二つの眼の持ち主は、レゾルーラ先輩。昨年のスプリンターズステークスを圧倒的一番人気で勝利した最強のスプリンターです。特徴はなんと言ってもその暴力的なまでの豪脚。差しや追い込みが厳しいとされるスプリント路線で、他のウマ娘を一気に撫で切るその美しさは何度もレースを見直しました。そして、なんとオッドアイなのです。右目は黒く、左目は天使様からの贈り物のように美しい金色。黄色に近いでしょうか。

 

「お、ウチのこと知ってんだ。勉強熱心で感心感心。いや、ウチの知名度が上がったから意外と知られてるのかな?まあどっちでもいいや。じゃあさじゃあさ、ウチのレースっぷり、どうだった?先輩だからって容赦なく言っちゃっていいよ!それはもうキッパリと、バッチリと!」

「うるさい。はあ、こうなったらこいつもう止まらなくて。アリアンスちゃん、適当に一言言ってあげて」

 

私には適性のない短距離の世界。電撃とも形容されるその一瞬の戦いに身を投じているだけでもすごいと思います。ましてG1だなんて、私には想像もつきません。どんな作戦があって、どんな競り合いがあるのか。まるで別競技にすら見えてしまうのです。

 

「とにかく速かったです。ウマ娘のスピードの限界に挑んでいる皆さんは、本当にすごいと思います」

 

まるで狩りやすい獲物を見つけた時のように、不気味に、二本の八重歯を剥き出しにしてレゾルーラ先輩は笑いました。

 

「いいねいいね、そのカオ。へへ、へへへへへ。決めた、決めた決めた。今日からアリアンスちゃんとウチは友達!今度の高松宮来なよ!君の知らない短距離の世界、教えてあげるから」

 

ぐっと瞳孔を開かせています。一オクターブ低くなって唸るようなささやきに、私の背筋が凍るのを感じました。その辺にしときなよ、ローズピーチ先輩の呆れた一言で我に返ったのか、つまらなさそうにしていました。

 

「ビビってるからやめな。その顔やめろっていつも言ってるのに。そうだ、私からも一つ、いいかな」

「は、はい」

「勝ち逃げは許さない。大阪杯は絶対に出走しろ、そうナタリーに言っておいて。じゃあまたどこかで。あとそのお菓子、かわいいね」

「あ、ありがとうございます」

 

次から次へと情報が流れてきて何が何だか分かりませんでした。G1ウマ娘で現役トップの実力を持つお二人と初めてお話しして、レゾルーラ先輩の狂気に圧倒されて、ローズピーチ先輩に伝言を頼まれました。正直、ちょっぴり怖かったです。これはお二人が先輩だからなのでしょうか。色々思うところはありましたが、お菓子は両手で大事に抱えて教室まで向かいました。

 

 

「まあ、これ、アリアンスさんが?なんてかわいいの」

「サプライズだなんて、あたしとアーちゃんの仲なのに水くさいなぁもう!言ってくれればよかったのに!」

「それじゃサプライズにならないじゃない。こんなに綺麗なお菓子、本当にいただいていいのかしら」

「二人のために腕によりをかけて作ったの。喜んでくれたら嬉しいな」

 

コートちゃんは食べるのを戸惑っているのか、じっとじっとチョコを睨んでいます。ウールちゃんはというと、何やら嘆いていました。

 

「チョコでさえなければ部屋に飾れるのに。でもチョコだからこそアーちゃんのセンスが光ってこんなかわいい物を作ることができた。なんて残酷なんだ!」

「何言ってるの、早く食べないと、せっかく作ってくれたのに溶けちゃうわ」

 

そう咎めるコートちゃんのチョコも綺麗な三角柱を保っていました。そしてもう一人、プレゼントを渡したいウマ娘がいます。窓際の席まで私は歩いていって、本を読んでいるアイちゃんに声をかけました。静かに本を畳んで机に置きます。アイちゃんからしたら私のプレゼントなんて鬱陶しいだけかもしれません。受け取ってもらえなかったらどうしよう、そんなことばかり考えていました。

 

「アイちゃんのために作ったの、もしよかったら受け取ってほしいな」

「え、これあなたが作ったの」

 

何を言われるのでしょうか、いらない、まずい、見た目がつまらない。私の心は窮屈でした。その懊悩を吹き飛ばすように、小さく笑顔を見せました。

 

「ありがと、後で食べる。お菓子作り、得意なんだ」

「う、うん!アイちゃんにおいしいお菓子食べてほしくて……」

「そんな必死にならなくても、私のために時間をかけてくれたことくらい伝わる。時間のある時にゆっくりいただくから。それじゃ」

 

ぶっきらぼうでしたが、私の中では成功でした。少しだけかもしれませんが、距離が縮まった気がします。喜びに震えているのが伝わったのでしょうか、コートちゃんも嬉しそうでした。

 

「やっぱり根は悪い子じゃないみたいね。あんな態度でも、アリアンスさんの気持ちはしっかり伝わってると思うわ。あとはトレーナーにも渡さないとね」

「うん!」

 

この後、ユウさんの部屋に向かって、チョコを渡しました。作業を止めて、紅茶を入れて、一口一口大事そうに噛みしめて食べてくれました。高級ブランドにも劣らないとか、店を出せば絶対に成功するとか、何度も賞賛していました。ユウさんの子どもっぽさが垣間見れた気がして、ほほえましかったです。こうして、私のバレンタインサプライズは大成功に終わりました。

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