秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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京都旅行 そのニ

席を向き合わせて、女子会が始まりました。私はカバンいっぱいに詰めてきたお菓子の中からチョコを取り出してみんなにプレゼントします。他愛もない世間話から、京都の街の話まで、会話は弾んでいきました。窓の外はまだ東京の景色が続きますが、それでも快晴そのもので、私たちの旅行のこれからを占っているようでした。

 

「アーちゃん、鼻歌まで歌っちゃって楽しそうだね。かわいい」

「アリアンスさん、本当に楽しみにしていたもの」

 

浮かれていたのがまったく無意識に態度に出てしまっていました。ウールちゃんの隙のない旅行プランを聞いていると、身体が反応してしまいます。そうはいっても、ウールちゃんの口数は減らず、コートちゃんは珍しく何度も髪を気にしています。私に負けず劣らず浮かれているのを感じました。

 

「おい、来週からついに春のG1シーズンだぞ」

「分かってるよ。俺だって何回出走予定表を見直したか分からない」

 

ふと周りからG1への期待の声が聞こえてきました。来週、春の短距離女王決定戦である高松宮記念から始まって、大阪杯、桜花賞と続いていきます。その会話は私だけに聞こえていたわけではなくて、ウールちゃんたちの顔が一瞬強張るのを見逃しませんでした。

 

「高松宮はまずレゾルーラで決まりだな。スプリンターズステークスのあの走り、サクラバクシンオーを思い出したよなあ」

「スプリンターズの時より調子上がってるらしいぞ。本番は間違いなく圧倒的一番人気だろ」

 

ナタリーさんは言っていました。高松宮はレゾルーラ先輩が絶対に勝つ。あとは勝ち方だけ。初めて会ったあの日、仕上がっていることは一目見ただけで分かりました。レゾルーラ先輩には今、世間からの絶対が生まれているのです。彼女は絶対に勝つ、そんな期待が。

 

「そういえばアーちゃんはレゾルーラ先輩に会ったことあるんだっけ」

「うん。元気な先輩だったよ。ちょっと怖いけど」

 

あの気迫の強さは、自信の裏付けなのかもしれません。そして最強の領域へウマ娘が踏み出すその瞬間を見れるのかもしれない、そんな予感がしました。

 

「みんながあそこまで期待しちゃうと、本番も楽しみだよね。大阪杯だって、ナタリー先輩出るんでしょ?」

「エリザベス女王杯以来の激突ね。もちろんアリアンスさんはデュエットナタリー先輩推しかしら」

「もちろん。ナタリーさんは絶対勝つんだから」

 

チョコはニ、三個頬張りながら主張します。ナタリーさんの努力は私が一番知っています。きっと今回も勝利を掴んでくれる、そう信じて。

 

「あ、そうだ。旅館の写真なんだけどさー」

 

話題は尽きず、京都に着くまでの何時間が一瞬に感じられました。食べきれないくらい詰めたお菓子類も、なんと半分以上なくなっていました。さすがにこれは体重に響いてしまいます。やってしまったと肩を落としながら、ユウさんにメールを送るのでした。

 

 

「ついに到着、京都の街です!」

 

賑わう駅前は東京と変わりません。でも、街並みは全くと言っていいほど別物でした。高層ビルはなく、コンビニも歴史ある街並みを破壊しないような色合いだったのです。それはもう東西南北あらゆる方向が気になってしまって、私の視線は忙しなく動いていました。

 

「京都の街並みを守るために看板や建築物の規制の条例なんかがあるんだって」

「アンは京都、初めて?」

 

大きく口を開け、目の前の光景に目を奪われていた私とは対照的に、クールに、それでいて優しさも含んだ表情でアイちゃんがほほえみました。京都の街並みを見る私の目があまりにも光り輝いていたので、おかしかったのかもしれません。

 

「それなら私が案内する」

「え、あんた京都来たことあるの?」

「知ってるだけ」

 

目を泳がせるアイちゃんと、何かを悟ったようにニヤニヤと挑発するウールちゃん。

 

「じゃあ案内してもらおっかな。せっかくたくさん下調べしてくれたみたいだから!」

「ちがっ、そういうことじゃない!」

 

バッグからはみ出る雑誌を隠すように手で覆って、目を背けてしまいました。こちらから見えないその顔は、信号よりも赤いようです。

 

「うふふっ、ありがとう、アイちゃん」

「ほーら、せっかくなんだからアーちゃんをエスコートしてあげてよ!あたしたちは後ろの方歩いてるから」

「そうね。アリアンスさんに頼れる姿を見せてあげるのもいいんじゃないかしら」

 

コートちゃんも便乗してからかうように言います。滅多に表情を変えないアイちゃんがここまで動揺して顔を赤くするだなんて、コートちゃんの気持ちも少し分かる気がします。途端に愛おしく思えてしまって、私も頬が緩んでしまいました。

 

「エスコート、よろしくお願いします。うふふっ、アイちゃん、王子様みたい」

「アン……。からかわないで……」

 

突沸したように顔から湯気が出ています。私は慌ててごめんね、ごめんねと謝りました。まあまあとウールちゃんが一言仲介します。その光景に、コートちゃんはやれやれと呆れていました。そんな顔しても、コートちゃんだってノリノリはずです。ずるいです。

 

「じゃあ行こっか!」

 

ウールちゃんの一声で私たちの京都観光がいよいよ始まりました。もちろん、先頭はアイちゃんです。

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