秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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京都旅行 その四

いよいよ京都観光の大定番、清水寺までやってきました。清水寺で一番有名なあの場所のことしか私は知らなかったのですが、まさかここまで広いだなんて。大門や三重塔など、視界いっぱいに広がる厳かな清水の空間。観光客で溢れているのも納得できます。全部見て回ることはできないので、お目当ての場所まで早速向かうことになりました。

 

「見て見て、音羽の滝があるよ!」

 

清水寺の起源ともなった音羽の滝。ここでは三つの筧から清く澄んだ水が流れています。近くに置いてある柄杓を使って一口水をいただくそうです。そしてその際、どこかで聞いたように、願掛けを行えるみたいです。

 

「正面から見て右が長寿、中央が恋愛成就、左が学業成功をそれぞれ担当しているそうよ。それぞれに合った願いを清水に込めるように飲み干すの」

「なになに、恋愛だって!それは聞き捨てならない」

「ど、どうしたのウールちゃん」

 

ウールちゃんが私を羨望の眼差しで見つめています。期待に胸を膨らませている、そんな感じでした。私が中央の筧に向かうのを誘っています。

 

「アーちゃん、真ん中だよ、真ん中!」

「どいて」

 

私が戸惑っていると、柄杓をすでにその手に握ったアイちゃんがウールちゃんを押しのけ、中央の流れを受け止め始めました。いっぱいになった柄杓を音も立てずに上品に飲み干して、ふうと一息立てました。

 

「私の願い、きっと神様に届いた」

「ちょっと、痛いんだけどー!あたしもアーちゃんもまだなんだよ!」

「アイちゃんはどんなお願いしたの?」

「いくらアンでも、これだけは内緒。恋は秘密が隠し味だから」

「あんたそんなこと言うキャラじゃないでしょ」

「あら、ウマ娘だって恋する乙女よ。ね、フルアダイヤーさん?」

「そういうこと。あなたと違ってコープコートさんは話が分かる」

 

なんだよなんだよ、そう言いながらウールちゃんがすねていました。私もアイちゃんがどんなお願いをしたのか気になります。何より、中央の筧から流れ落ちる水を飲んだのです。アイちゃんには意中の方がいるのでしょうか、こういう話はやっぱり気になってしまうものなのです。

 

「さ、そろそろ行きましょうか」

 

前を歩いていた方に続くように荒い道のりを歩いていくと、一気に視界が開けました。ついに辿り着きました、ここが清水の舞台です。開けた視界には、さっきまで歩いてきた道も、一面に渡る木々も、そして京都タワーもありました。

 

「ここが清水の舞台かー。よしよし、飛び降りてみようよ!」

 

ここの高さは13m、有名な話ですが、過去には願掛けとして飛び降りる人たちもいたそうです。ウマ娘だって身体は繊細です。飛び降りて無事だったら願いが叶うと言いますが、きっとひとたまりもありません。それに、願掛けはもう二回しているので、三回も願うのは強欲だと思います。けれど、思い切ったことを決断することの例えとして、清水の舞台から飛び降りる、と言うこともあるそうです。せっかくなら、何か思い切ったことをしてみたいなんて考えてしまいました。そんな時、ユウさんから一通の連絡がありました。事故に巻き込まれて怪我をしていないか、怪しい勧誘に遭っていないか、ウールちゃんとアイちゃんは喧嘩していないか、文面から私たちの旅行を甚だしく心配していることが伺えます。楽しく過ごしていることを伝えるためにはやっぱり写真が一番です。舞台の中でも、周りの健気な桜に囲まれる中心まで私は駆けていきました。そして、ワンピースを春風にふわりと纏わせ一回転してから、みんなを手招きしました。

 

「写真、撮りたいな」

「ほら、アリアンスさんが呼んでるわ。そこの方、写真を数枚、お願いできるかしら」

 

談笑をしていた他の観光客の方を引き止めて、コートちゃんがスマホを手渡します。私たちを歓迎するような夕日に目を細めそうになりながら、心の昂りを表現したくて思いきり笑ってみせました。その後、写真をスタンプと共に真っ先にユウさんに転送して、喧騒に揉まれながら私たちは舞台を降りていきました。

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