秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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(番外編)二話 瞳に映るダイヤの原石

午後一時、模擬レースの第1Rが始まった。さすがの一番人気の走りは他とは一味違っていて、会場を席巻した。時間は流れ、次々とウマ娘が自分の持つ全てを使ってレースに臨み、実力を見せつけていった。その姿に、周りのトレーナーは、まだ全ての日程が終了していないにも関わらず、あの子をスカウトするだの、あの子は絶対に引き入れるだのと騒いでいた。僕は、周りの声を一層遮断して、ウマ娘のレースだけを分析するのに注力した。迎えた第12Rに、その子はいた。

 

「その分良いレースしてくれないとあたしすねちゃうからね。なーんて、頑張って!」

「もちろん、ウールちゃんのためにも、頑張るね」

 

そこには、卯の花色の艶やかな長髪を腰まで届かせたウマ娘がいた。友人からの応援を受けて、今、ゲートに立った。そして、

 

「よーい」

 

パンッ。始まった。序盤は熾烈な位置取り争いはなく、それぞれが牽制し合っているような展開になった。ただ一頭、明らかに目を見張るウマ娘がいた。さっきの天使のようなウマ娘。その子が僕をこの上なく惹きつけたのだ。重心が全くぶれることなく、疲労を最小限に抑えて走っている。このレースの一秒一秒を見逃さないわけにはいかなかった。

レースは後半を迎えて第四コーナー。勝ちを急ぐあまり無闇に速度を早めるウマ娘が目立つ中、良いタイミングで抜け出してきたウマ娘がいた。コープコートだ。しかし、それに劣らず完璧なタイミングでスパートをかけたウマ娘がいた。圧倒的な平衡感覚を持つアリアンスだった。その後はこの二人の激しいつばぜり合いだったが、アリアンスが失速。結果はコープコートの完全勝利に見えた。しかし、僕の目にはアリアンスしか映っていなかった。あの体幹と、完璧なラストスパートを裏づける体内時計。この正確さが本物なら、鍛えることができれば、タイムからどれだけ周りが疲弊しているかを正確に導き、かなり有利に立てる。この子は絶対に強くなる。僕と共に歩んでいってほしい。この子を全力でスカウトすることに決めた。しかし、彼女は芝の上で崩れ落ちていた。彼女は三着だったが、結果だけを見ても、決して悪くはないレースだった。普通のウマ娘ならむしろ喜ぶ子もいるくらいだろう。きっとあのレベルになると目標も高く持っているのだろう。そう思った。けれど、この敗北が堪えたならば、アリアンスはもっと強くなる。だから今はそっとしておいた方が良いだろう。僕はかなり遅めの昼食を食べるために、校外へ向かった。

 

辺りは月が顔を出し、暗がりが姿を見せ始めた。生徒会と揉めてしまい、すっかり遅くなってしまった。まだアリアンスはいるだろうか。ターフにはいなかった。仕方がないので寮付近を探していると、桜の木の下で、俯いているアリアンスがいる。他のトレーナーからスカウトを受けて、引き受けていないだろうか、それだけが心配だった。彼女はおもむろに立ち上がり、寮へ歩き始めたので、急いで引き止めた。

 

「突然ごめんなさい、アリアンスさんで合っていますか」

「はい、そうですけど。どうかしましたか」

「私はトレーナーのユウと言います。アリアンスさん、あなたは間違いなく新入生で一番強いウマ娘になります。先ほどのレースを見て確信しました。ぜひ、そのお手伝いを私にさせていただけないでしょうか」

 

率直な思いを彼女に打ち明けた。あの走りはダイヤの原石に違いない。僕には光り輝く鉱石に見えてしまった。エメラルドでもいい、アメジストでもいい、どんな色にも光り輝く原石に。彼女はしばらく驚いた顔を見せていたが、しばらくして言葉を紡いだ。

 

「はい。ぜひお願いします。ユウさん」

 

本当によかった。その思いだけで頭がいっぱいになった。そうと決まれば、色々と段取りをつけなければいけない。初めての仕事だ、アリアンスのためにも、絶対に失敗してはならない。

 

「あの、私のどんなところを良いと思ったんですか?」

「もちろん、あの体幹の強さです。軸が全くぶれることがないので、無駄な体力消費が全くありませんでした。ここまで完璧だとウマ娘のレベルだと大きな差になります。鍛え上げることでできあがる体幹の強さには、限界があります」

 

彼女は自分自身で気がついていないようだった。周りから勧誘を受けていない様子だったので、周りも気がついていなかったのか。彼女は少し笑みを漏らしながら、明らかに喜びを隠し切れていなかった。これからの自信に繋がっていってくれれば幸いだと思った。その後、彼女にチームメンバーについて聞かれた。僕はそういうのをつくる気は全く無かったのだが、アリアンスが望むなら希望の子を何人かスカウトさせていただこうとは考えた。できればの話だけれど。そして、アリアンスは寮へと戻っていった。僕は、肩に張りつく鬱陶しい問題を片づけるために、生徒会長室へと歩を進めた。

 

 

 

「ここのスカウトに参加するなら、事前に申請書の提出をお願いしたはずですが」

「申し訳ございませんでした。ルドルフ生徒会長。周りから強い疎外を受けておりまして。なかなか難しかった次第です」

 

僕は確かに提出した。誰かが裏で工作したに違いない。全く呆れた、そんなことしかできないなんて。面倒だったので、適当なことを言ってお茶を濁した。ルドルフの隣にいたエアグルーヴが、鋭い睨みを効かせている。その気迫からは、女帝の強い慢侮を見て取ることができた。

 

「たわけが、あの天才の子がそれでは、先が思いやられるな」

「あれを天才と呼ぶあなた達も、私には随分滑稽に思えますが」

 

天才、天才、天才。父を称える言葉はそれだけだった。頂に立った者たちでさえ、もしくはだからこそ、父を称賛し、経歴のみを見てしまうのか。経過などどうでもいいのか。これにも呆れて言葉が出なかった。エアグルーヴが目を見開かせて、もう一度言ってみろ、次は無い。そう言っているように思えた。彼女が一歩前へ進んだ時、ルドルフが口を開いた。

 

「やめてくれ、エアグルーヴ。ユウトレーナー、あなたの処罰は追って決定します。今日伝えたいことは以上です。ところで、規定違反まで犯したあなたの目に光ったウマ娘は、見つかっただろうか」

「もちろんです。あの子は、絶対にG1を取ります」

 

それは楽しみだ。嘲るような口調でエアグルーヴが放った。僕は絶対に成功してみせる。親父とは違うやり方で、ウマ娘たちを導いてみせる。蘇芳色の戸を乱暴に開いた。

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