「どこもかしこも新鮮な食品だらけ、さすがだねー」
行き交う客と店舗の熱気、京都随一の市場はやっぱり圧倒されます。ほのかに漂う鮮魚の生臭と、イートインコーナーでは観光客の団欒。そして自店の食材の優秀さを競うため、赤字で書かれた値札が店舗同士の火花散る争いを示しています。もう少し歩けば食材だけでなく、お土産や料理道具など古都風情に富んだ雑貨も揃っています。右を見ても左を見ても、私は感嘆の声を漏らすばかりでした。
「あ、見て見て、抹茶だよ抹茶!」
店頭販売のタワーのごとく盛られた抹茶わらび餅がまず目に飛び込んできました。ウールちゃんの言う通り、抹茶菓子が大量に並んでいるお店にやってきました。抹茶タルトに抹茶チーズケーキ、カステラやプリンまで取り揃えています。そしてなんと、パフェまであるそうなのです。これはもう私への挑戦状に決まっています。甘党の私に全て食べ尽くせと、そう命令しているのです。どんなお菓子でもアイスでも名フレーバーである抹茶に、私が我慢できるはずがありませんでした。
「あ、アーちゃん行っちゃった。待って、走ると危ないよー」
「ここにアリアンスさんを連れてきたのは失敗だったかしら。このままだとこのお店のあらゆる抹茶を食べ尽くして、体重もすごいことになってしまうわ」
「私は太ったアンもかわいいと思う」
「もう、あんたは黙ってて!ほら、二人とも、アーちゃんを監視するよ!これ以上食べたらさすがのユウトレーナーも怒るって!」
二階のカフェに向かおうと階段に足をかけると、強烈な視線を感じました。入口、レジ、そして真後ろ。私は見張られていたのです。この階段を上ってしまえば、もう欲望のままにお菓子を大量に注文する他ありません。その未来は想像するだけで耳が震えてしまいます。クラシック前に、自制の効かない怠惰で浮気なウマ娘を見て、ユウさんは何を思うでしょうか。「アリアンスを信頼していたけど、こんなこともできないなんて。失望したよ、君とはもうやっていけない」そう告げるユウさんの氷のような瞳が私の心臓を突き刺すのです。はわわ、怖いです、恐ろしいです。観念した私は踵を返し、みんなへのお土産を探し始めました。
「あ、戻ってきた。よしよし、偉いよアーちゃん。我慢我慢!」
「私たちの視線に気づいたのね。寂しそうな顔をしてるわ」
「お菓子くらい私がいくらでもプレゼントするのに」
どの商品も私の目には極上に映ります。取捨選択していると日付が変わってしまうと踏んだ私は、全部買ってしまうことにしました。こんなこともあろうかと貯めていた財布の中身を確認します。よし、大丈夫、お母さんにもお父さんにも、ユウさんにもいっぱいプレゼントしないと。両手には収まらないお土産たちと共に、私はレジに歩き出しました。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「おお、いっぱい買ったね。どれどれ、少し持ってあげよう」
「ありがとうウールちゃん」
「待って、私も手伝う。私の方が丁寧に扱うし、多く持てる」
「うふふっ、二人ともありがとう」
私が見回っている間、コートちゃんは陶器のために散策していたようです。お目当ての物が見つかったと、紙袋を抱えていました。その後も古都の品を堪能していると、一人の女性に声をかけられました。
「そこのかわいいウマ娘たち、せっかくの青春にアクセントの占いはいかがですか?」
占いと聞くと、上品な絹が敷かれたテーブルや水晶玉を思い浮かべるかもしれませんが、まさに想像通りの施設がそこにはありました。道端なので簡素なつくりですが、いささか異彩を放っています。表情を悟られないよう布で顔を覆い隠した占い師の方が、そこにはいました。冷淡な言い方をすると、うさんくさいのです。私たちが観光客であることはひと目見れば分かるので、それを頼みにして幸運の壺やら金満の数珠なんかを高額で売りつけられるかもしれません。怪訝に睨む私をよそに、一番敏感そうなコートちゃんは乗り気でした。
「まあいいじゃない、ちょっとだけ、寄ってみましょうよ」
「ちょっと不安だけど、コートちゃんが言うなら」
「いらっしゃいませ。お客様方は青春の真っ只中、色々悩みもあるでしょう。なので占い師である私の立場から、色々助言させていただけないかしら。お一人一回400円、何でもお答えいたします」
「いいわねその度胸、嫌いじゃないわ。それならまず、あなたが信頼に足る人物かどうか見極めさせていただけないかしら」
「何でもどうぞ」と不敵に笑うその口元に、占い師の矜持を感じました。私の顔をぐにゃりと曲げて反射する藍色の水晶玉をタオルで磨いて、準備完了のようです。
「私たちはウマ娘だから、当然支えるトレーナーがいるはずよ。四人それぞれのトレーナーの名前、教えてちょうだい」
「コートも手厳しいね、そんなの分かるわけないってー」
名家らしく強気で上品な言葉遣いで果敢に挑みます。しかし、占い師はその微笑みを絶やすことはありません。待っていたと言わんばかりに水晶に手をかざし、またまた不敵に笑いました。
「あらあら、私はてっきり四人分顔が浮かぶと思っていたけれど、このイケメンさんは相当モテているのね、妬いちゃうわ」
「なっ、どういうことなの」
「まずは後ろ三人、勇ましくて素敵なトレーナーさんをお持ちみたいね。ユウトレーナー、そう呼んでいるみたい。でも、そこの白髪のお客様以外のお二人は、最初は別のトレーナーだった。どう、当たりかしら」
唾を飲み込む音が聞こえた気がしました。日差しが眩しかったはずなのに、今はひんやりと冷たい汗が背中をなぞり、身体が震えます。コートちゃんもアイちゃんもウールちゃんも、動揺を抑え切れていない様子でした。ゴクリ、また一つ唾を飲み込む音が風のように耳を通り抜けました。
「最後に栗毛のお嬢さん。あなたはやっぱり名家のお嬢さんらしく、スパルタなトレーナーがついているみたい」
「待って、待ってちょうだい。もう十分、十分にあなたの凄さは伝わったわ。でも少し動揺してるの、落ち着くために少し時間をくれないかしら」
「あ、あたしも。占い師なんて所詮偽物だと思ってたから、正直ドキドキが止まらない……」
「ちょっとやりすぎちゃったかしら。でもこれで、私の実力を分かっていただけたでしょう?ペテン師とは違う『本物』の力、さあさあ、何でもお聞きくださいな」
覇気に包まれた占い師のその姿は、まるで威厳に満ちた女王様です。いつ消えてしまうかも分からないランタンの火がゆらめく真下で、沈黙を破ったのはウールちゃんでした。
「えっと、じゃあじゃあ、アーちゃんのこともっと教えて!」