秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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占い師の暴露

「せっかくなら、自分でも気づいてない部分を知りたいな」

 

再び、占い師は水晶との対話を始めました。私の目には、誰かの姿が浮かび上がる様子も、水晶が光り輝く様子も映ることはありません。しかし、占い師は執拗に藍色を睨みつけています。やがて、含み笑いの後、静かに口を開きました。

 

「アリアンスさん、素敵な名前ね。せっかくこんなにかわいいのだから、恋愛面の話をしちゃおうかしら。青春の醍醐味だものね。あらあら、あなたは超が付くほどの一途みたい。相手は慎重に選ぶけれど、心を許した相手にはとことん尽くし、夢中になる。そしてそして、独占欲も人一倍強いみたい。一度繋いだ手は二度と離さない、そんな感じ。ふふふ、私自身、ここまで綺麗なウマ娘さんは初めて見たけれど、この子に溺愛される伴侶様は幸せ者ね。あら、少しばかり赤裸々に語りすぎたかしら」

「あ、ああ……」

「アーちゃんが金魚みたいになってる。おーい、あらら、これはダメそう。あれ、何で二人まで顔赤くしてるの?」

「あ、アリアンスさんにそんな一面が……」

「アン、かわいい……」

 

サウナのように身体が熱を帯びています。心なしか、突沸している感覚まで。湯気でホカホカです。あまりの恥ずかしさに、うつむきながらもじもじと身体をくねらせることしかできません。ああ、心臓が窮屈です、赤裸々に語られた私の恋愛観。好きな人にべったりくっついて離れようとしない私を想像すると、顔から火が出る思いでした。うう、コートちゃん、アイちゃん、そんな顔で見つめないで……。

 

「へえ、まさかアーちゃんがこんなに大胆だったなんて!お相手は誰かな、まあ、誰であってもアーちゃんを取らせる気はないけど!アーちゃんはあたしにデレデレだもんね?」

「う、ウールちゃん、そんなに言わないで……」

「もう、その辺でやめときなさいよ!大丈夫よアリアンスさん。むしろ、その、私にはこの話は好感触だわ……。一途って、とっても素敵なことだもの」

「なんだよー、そうだ、今度はコートのこと聞かせて。お金はちゃーんと払うから!」

 

一息の間もなく、ウールちゃんはもう水晶の虜になっています。「まあ落ち着きましょう」とクスクス笑う占い師。これが落ち着いていられるはずがありません。顔の火照りが治らない間に、彼女は言葉を紡ぎます。

 

「コープコートさん、またまた素敵な名前ね。見た目通り高貴な身分で、常識人。アリアンスちゃんと会ってからはその人望もさらに強まったとか」

「い、今から何を言われるのかしら……。当たり前のように素性を言い当てられてしまうんだもの、感覚が麻痺してしまうわ」

「正義感が強く、堂々とした振る舞いで隙を見せないけれど、恋愛に関してはまだまだ初々しいみたい。特に意中の相手に対しては、顔には出さないけれど、頭はパニックになるくらい緊張している。だから少しでも強く歩まれると、すぐボロが出てしまう。恋愛的資質は奥手な子、そんな感じ。これまたかわいいわぁ。青春って感じ。いつか正直に気持ちを伝えられるといいわね」

「い、いったい何を言ってるのかしら!その占い、絶対外れてるわ!」

「コートちゃん、奥手なの?ちょっとだけ以外かも」

「そ、そうかしら」

「うん、とってもかわいいと思うな」

「な、何を言っているのよ!かわいくなんて……」

「なるほど、こういうところが脆いってことね」

 

からかうウールちゃんに回し蹴りが深く突き刺さりました。ブォン、音が聞こえた時には、ウールちゃんは悶絶していたのです。コートちゃんも容赦がありません。

 

「ぐふっ、いつもより痛い……」

「あんたが変なこと言うからよ。まったく、こうなったらあんたのことも聞いてしまおうかしら。さあ、教えてちょうだい」

「そう言われると思って、水晶はすでに全てを見抜いているわ。明るく活発、まさにムードメーカーのお手本といった素敵な子。けれど、その淡い髪と表情は、自信喪失の裏返し。他人を高く評価するあまり、自分には何もないと強く思い込んでしまう。だからこそ、他人を忖度なく評価できるコープコートちゃんや、細かい気遣いの天才であるアリアンスちゃんとの相性は最高。この三人はまさに運命の糸に引かれて出会った。フルアダイヤーちゃんとは最近仲良くなったみたいでよかったわ。どっちも素直な子だから、自然と衝突も増えてしまうのかしれないわね」

 

てっきりあたしの性癖でも暴露されるのかと思ったけれど、そんなことはなかった。私が度々自分の無力さを痛感していることを、この占い師は把握していた。そして、その痛みの数だけアーちゃんたちに支えられてきたことも。あたしが弱みを吐露するたびに、みんながそれを霧のように消してくれる。だから私は、こうして最前線で戦うことができる。あれ、なんで、どうして涙が。鼻がツンと痛くて、同時に頬を湿った雫が伝っていくのを感じた。この涙は、私がどれだけみんなを大切に思っているかを痛烈に表した一雫だった。私は涙が出るくらいみんなが大好きだから。

 

「ウールちゃん、大丈夫?どこかで休んだ方が……」

「ううん、違うよアーちゃん。気分がいいから、あくびが出ちゃった。なーんて、冗談だけど、調子が良いのは本当だから!気にしないで!ほらコートも、そんな顔で見ないで!本物の占い師はさすがだよね、全部当てられちゃうんだもん。おかげでみんなの大切さを再認識できた!」

「私とアリアンスさんは気絶してしまうほど恥ずかしい話をされたというのに、あんたの暴露がこれじゃ釣り合わないわ。もっととっておきはなかったのかしら」

 

ウールちゃんが突然涙を流し始めたのを見て、顔を真っ青にしてコートちゃんは駆け寄っていました。後一秒ウールちゃんの返答が遅かったら、救急車を呼んでいたと思います。今はかわいらしい憎まれ口を叩いてはいますが、親友の変化に敏感で、心から心配できる優しい子なのです。そんな姿が見られただけでも、立派な暴露だと、そう思います。

 

「もちろん私と水晶は全てを知っているから、探せば恥ずかしい話なんていくらでもあるのよ。例えば、ショートウールちゃんのベッドの下……」

「待って、待って待って!それ以上喋ったら許さない!プライバシーの侵害で訴えるから!」

「あら、何があるの?私やアリアンスさんにも言えないような物なの?ねえアリアンスさん、私たち、この子に距離を置かれているみたい。ひどいわ、もうずっと一緒にいる仲だというのに」

 

待ってましたと言わんばかりのコートちゃんの目配せに、私の中の堕天使が猛烈に反応しています。からかわれた分だけやり返してやりましょう、そう告げていました。取り乱すウールちゃんはなんとも珍しいのでこの誘いに乗らないわけにもいきませんでした。

 

「ウールちゃんは隠しごとしないって、私信じてたのに……」

「アーちゃんまで、もう、あたしが悪かったら!別にエッチな本とか置いてるわけじゃないの!だいたい、そういうのはベッドの下になんて隠さないし……」

「ならどこ」

「そもそも持ってないから!あんたは黙ってて!」

「ふふっ、必死ね」

「ウールちゃん、かわいい」

 

慌てるウールちゃんを存分に堪能して、お代を支払いました。結局ベッドに隠されている物の正体は秘匿されたままでしたが、知るなと言われるとその分だけ人は気になってしまうというものです。うん、やっぱり気になります。

 

「またのお越しをお待ちしておりますわ。ここに定住しているわけではないので、またがあるかは分かりませんが。耀かしい未来が青天の霹靂とならぬことを、心から祈っております」

 

水晶が少しずつ濁りを見せ始めるのと同時に、私の中にも濁った塊が煮えているのを感じました。これはきっと未来への不安です。これだけの実力の占い師なら、未来を占うことだって可能なのではないでしょうか。今の私が歩んでいく軌跡を、どうか占ってほしいのです。みんなには外に出てもらって、一対一で向かい合います。私の神妙な顔持ちに、少し驚いている様子でした。

 

「もう一つだけ、お聞きしたいです」

「何でもどうぞ」

「未来を占うことは、可能ですか」

 

占い師の唇がさらに潤んだのを、私は見逃しませんでした。

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