「もちろん。私の水晶は写真よりも鮮明に全てを映し、照らす。何が知りたいのかしら」
「私は、桜花賞で一着を取れたでしょうか」
「もうそんな時期に。そうね、そうよね、ウマ娘なら皆、クラシックの結果が気になって、気が気じゃないわよね。ここであなたと会ったのも何かの縁、全てを占ってみせましょう。あなたにそれを受け止める覚悟があるなら。あらあら、その瞳、愚問だったみたいだわ」
未来を透視できるというのなら、見てみたい。もしその先に醜悪な敗北があったとしても、その絶望は好奇心には遠く及ばなかったのです。耳を立てて、はち切れそうになる心臓を無理やりに抑えます。しかし、何分経っても、求めた返答が返ってくることはありませんでした。
「あら、水晶が返事をしてくれないわ。ごめんなさい、どうも調子が悪いみたい。お代はいいから、皆のところへ戻った方がいいわね。占いを頼みにしなくたって、あなたならきっと勝てるわ。だって、私の周りはみんなあなたのレースに夢中だったもの」
「えっ」
「世代のトップクラスで切磋琢磨するウマ娘よ、国民の半分は顔を知っているわ。それに、どうして私の周りがあなたをこんなに持ち上げるのか、今応対してよーく分かった気がするのよ。あなたの魅力の全てを、水晶とその澄んだブドウのような瞳が教えてくれた。おまけにゴールドシチーにも比肩するビジュアルを持っているのだから、ファンがいるのも当然ね。桜花賞、楽しみにしてるわ」
「あ、ありがとうございます……!」
トゥインクルシリーズは誰もが注目する大舞台。この方が見ているのもおかしな話ではないのです。ですが、一般の方に私のレースを評価されることがこんなに快いものだということは知りませんでした。その言葉はまるで、私の今進んでいる道を肯定してくれているように感じたのです。それは水晶で開かれた未来よりずっと信頼できる一言でした。だからこそ、私は桜花賞のタイトルをこの手に掴まなければいけないのです。応援してくれている全ての人のために。私は机上のポシェットを慌てて拾い上げ、何度もペコペコと頭を下げてから、みんなの元へ戻りました。
「あの子には、水晶の結果を伝える必要はないわね。私の水晶の未来予知は残酷なまでに正確だけど、過去一度だけその未来を外したことがあった。デュエットナタリーの秋華賞、水晶の予知は空回りし、未来はあらぬ方向へと捻じ曲がっていった……。あらゆる事象の未来が決まっていたとしても、トゥインクルシリーズには絶対なんてない。だからこそ、血反吐を吐くような思いが時に絶対を凌駕し覚醒する。彼女、アリアンスなら、再び未来を変えてくれるに違いないわ。それに私はもう、しかも今度は現実で、廃人のような虚な目をしたあなたの姿を見たくはないから……。あんなの、水晶だって辛いわよ……」
アリアンスに虚偽の報告をしたことが吉と出るか凶と出るか、それは桜花賞の着順が出るまで分からない。もしアリアンス勝利したのなら言うまでもないし、敗北してしまったら、その敗因のほんの一部は私にあるのかもしれない。あのまま水晶の内容を伝えていたら彼女は堕落していたのだから、自責の念に駆られる必要はない、そう言ってくれる優しい人もいるのかもしれない。けれど私は、自分が正直に彼女に占いの結果を伝えなかったせいで彼女が負けたかもしれないという罪悪感に酔いしれながら彼女の運命を見届けることに、この上ない幸福を抱いてしまっていた。だってそのどん底から復活なんてしてしまった暁には、ワインがもっとうまいでしょう?
占いの結果を馬鹿正直に伝えるだけじゃあ、食っていけないのよ。
「さあアリアンスさん、夢はあなたの不断の努力の先にある」