秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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(番外編)十二話 父との邂逅

窓から見える枯れ葉は、ついに落ち切ってしまった。強風でガタガタと揺れる窓が僕を責め立てる。僕はいったい、彼女に何を言った?何をした?到底許されることではない深い傷を負わせてしまったことだけは分かった。

冷え切った教室で、僕は呵責と自責を繰り返していた。

僕の古い記憶には、背後霊のように親父が付きまとう。どの記憶を覗いてもあいつがいるから、全て封印することにした。そのはずなのに、今日、ヒナがここまでやってきたのだ。そんなことは当然想定外で、僕は動揺し、記憶の蓋はあっさり開いた。まだ小学生だった頃、彼女に自分の話をこれでもかというくらい浴びせた。それに耳を傾けるヒナは僕以上に瞳を燃やして聞いてくれていたと思う。けれど、その記憶を掘り起こすということは、親父に憧れていた自分という、考えたくもないコンプレックスが浮き彫りになってしまう。そのせいで、彼女との談話にも熱が入らず、むしろ怯えるような態度になってしまった。この行為が彼女をどれだけ失望させ、失礼に値したかは言うまでもない。ごめん、そう言いたかった。今すぐにでもここを飛び出し、床を蹴り上げて彼女に謝りたかった。しかし今の廃人のような僕が彼女に一言謝意を述べたくらいでどうにかなる問題ではないことは、こんな僕でも理解できる。過去と向き合い、親父との軋轢を乗り越える勇気と度胸、それを身につけなければ、僕は前には進めないのだ。僕は目を瞑り、洞窟を探索するように隅から隅まで記憶をたぐっていった。ヒナに語った理想はあの日、数秒で砂城のように塵と化した。親父に失望した僕は、夢も希望も目標も無くし、やがて学校に行くこともなくなった。それくらい、僕には衝撃的な事件だった。それを見かねた母親は、熟考を重ねて僕を転校させることにした。それを聞いた僕は、その機会を親父との決別の良い機会だと考え、転校してからは狂ったように、孤独にレース理論を学んでいった。もちろん、彼女には何も言わず僕は去った。あらゆる記憶全てが鮮明に沸いてくる。それと同時に、一つの温かい感情が胸を包んでいるのが分かった。

 

「あれ、想像していたよりずっと、苦しくない」

 

呪ったように封じていたはずの記憶を掘り起こしたのに、苦しくなかったのだ。改めて顔を突き合わせて向かったのに、自分が考えていたよりもダメージは小さかった。その意味はすぐに分かった。そうか、僕はまだ、逃げていたんだ。とっくに一人じゃなくて、こんなに素敵な仲間がいるのに――。今の僕は、孤独にレースを学ぶ臆病な僕じゃない。アリアンスやウール、そしてヒナ。みんながいるんだ。過去を越えるための準備はとっくにできていた――。父を追い続けた、過去の後ろめたい僕は、今の順風満帆な僕には遠く及ばない。だから、ダメージが少なかったんだ。カップから溢れるくらいの涙を流した。いくら親父に悪態をついても、決別したと考えていても、結局僕は変わらないままだった。口では越えようと言っていても、ただ見ないようにして逃げていただけだったのだから。けれど、もう逃げない。親父を越えるということの本当の意味と、支えてくれる皆の輪郭を、この瞳で眩いほどに捕まえたから。今すぐヒナに謝りに行こう、そして全て聞いてもらおう。そう思ったけれど、セットした前髪も乱れて、まぶたは腫れている。

 

「こんな顔じゃ、ヒナに謝れないよ……」

 

変な失笑が出た。でも、そんな心の余裕が心地よかった。何度も深呼吸して、いつも以上に髪をキメてから、鏡をよく確認し、部屋を出た。

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