妄想特撮シリーズ~ウルトラシリーズの”もしも”作品集~ 作:Sashimi4lyfe
ウルトラマン80:夕日と少女とウルトラマン
この道がずっと続いてたらいいのに。
そう思いながら私は陽が沈みかけたいつもの道を歩く。
他には誰も歩いていないこの道。ここを歩いている間は誰とも顔を合わせずに済む。
家には帰りたくない。あんなクズみたいな奴が親面下げてふんぞり返ってる場所には用はない。
でも、今日は帰らなくちゃいけない。
だって、他に帰るところはもうなくなっちゃったから。
「人生詰んだ」ってこういうことを言うのかな。学校にも、アイツの家にも、自分の家にも、この社会にさえも、私の居場所はもうない。
ぐるぐるそんなことを考えながら歩いているうちに、○×橋が見えてきた。
最近雨が多いせいか、川の水がかなり多い。夕日に照らされてオレンジ色になった水が、絶え間なくざばざばと流れている。
気が付くと、私は橋に寄りかかり、川の流れを見つめていた。
昔はここで遊んでたんだよな。
そう思うとあの頃の無邪気な自分が川岸から自分を見ているような気がした。
「おねぇちゃん、何してるの?」
そう自分に尋ねているようだった。
おねぇちゃんはね、川を見てるんだよ。
「なんでそんな顔をしてるの?」
どうしてかな。私にもわかんないや。
でも、確かなのは、今胸が重くてしょうがないの。
「どうして?」
おねぇちゃん、今ね、とっても…
さみしいの。
「じゃあ、私と一緒に遊ぼ?」
そうね。川の中で一緒に遊びましょ。
自然と体が水へと吸い込まれていくようだった。手すりから身を起こし、重力に身をゆだね…
(あぁ、これで終わるんだ。)
不思議な安堵に心が包まれた、その次の瞬間だった。
誰かが私の制服を後ろからつかみ、思いっきり私を橋の上へと引き上げた。
私を引っ張り上げたのは、背の高い若い男だった。
「君、何をしようとしてたんだ!」
あぁ、またこの口調だ。
上から物を言う大人の口調。今まで耳が腐るほど聞いてきた、心がギュッとしぼむようなこの嫌な口調。
コイツもまた頭の固い大人の一人なんだろう。
「何すんのよ!ほっといてよ!」
体を起こして、あの男に背を向ける。せっかく楽になれるところだったのに、アイツのせいで台無しだ。
「待つんだ!」
アイツは今度は前に回り込んできた。長々と説教でも垂れる気だろう。
「今度は何?」
「いいか、君はまだ命を絶つには若すぎる、悩みがあるなら…」
「悩みがあるなら俺が聞いてやるってやつ?いっつもそうよね、大人って。私の気持ちなんかちっとも分かってないくせに、善人ぶって小奇麗な言葉で偉そうに説教だけする。」
ヤツの顔がどんどん暗くなっていく。いい気味だ。
「聞こえだけはいい中身はスッカスカのアドバイスならもう聞き飽きたの!どうせアンタだって私に説教垂れて気持ち良くなりたいんでしょ?結局自分のことしか考えてないじゃない!」
あらあら、さっきまでの威勢はどうしたのよ?随分と暗い表情をしてるじゃないのよ。
「そういう君は、僕のことを何か知っているのかい?」
嘘、コイツ、まだ折れない気?いいわよ、ケンカするなら買ったげる。
「見当はつくわよ、アンタがどんな人間なのか。親や周りに言われるとおりに大学に行って、なんとなく就職して、つまらない人生を生きてんでしょ?」
「…」
「そんな人生の憂さ晴らしにガキに説教こいて、正しい生き方だの、将来の夢だの、偉そうな一人語りをしたいんでしょ?どうなのよ、言ってみなさいよ!!」
ちょっと言いすぎちゃったかな。でももう失うものなんてなんもないし、どうせ図星でしょ。
「…フフッ。」
は?このタイミングで笑う?コイツ頭おかしいんじゃないの?
「な、何笑ってんのよ。」
「いや、すまんすまん。思ったより十倍すごい返しが来たもんでね。」
そう言うとヤツはブレーザーのポッケに手を突っ込み始めた。
「普通はこういうことはしちゃあいけない決まりなんだが…」
ヤツはブレーザーのポッケに手を突っ込み始めた。何?私に変な薬でも飲ませる気?
「な、何してんのよ!変なことしたら、け、警察呼ぶからね!」
ヤツがポッケから取り出したのは、短い棒のようなものだった。小型の懐中電灯みたいな形をしてるけど、一体あれで何をしようっていうんだろう…
「いいかい、これから起こることはナイショにしといてくれよ?」
そう言うなり、アイツはその棒を上に掲げると、いきなり馬鹿でかい声で、
「
と叫んだ。
やばい、コイツ本当に頭おかしいんだ。
そう思った次の瞬間、棒から強烈な光が出され、私は思わず目を閉じた。
光が収まって、目を少しづつ開けると、そこには信じられない光景があった。
「え、えっ….」
あれって、テレビで見たあれだよね?
怪獣と戦ってくれてる、あの銀色の巨人、ウルトラマン…だよね?
ウルトラマン80…だよね???
「驚いたかい?」
しゃ、喋ってる。しかもなんかちっさい。テレビで見た時もっとでっかくなかったっけ?
「あ、あなた…ウルトラマン80さん…ですよね?」
「そういうことになるな。」
ってことは、さっきのアイツがウルトラマンってことだよね?ウルトラマンって、人間だったんだ…
でもなんで、私の前で正体を明かすなんてことをしたんだろう?
「君は、心に深い闇を抱えているようだね。」
「は、はぁ…」
「宇宙人の僕には、君の心の闇は理解できないかもしれない。だけど、これから三分間だけ、君の悩みを忘れさせる手伝いをさせてほしい。」
80は私に銀色の手を差し伸べた。
「僕を…信じてくれるかい?」
いや、信じるも何も、理解が追い付かないんですけど。胡散臭い男がウルトラマンになったと思ったら、私の悩みを忘れさせてくれるって?
何をするって言うの?この嫌な記憶を消してくれるとか?
まぁ、何でもいいや。もう思い残すことなんて、何もないんだから。
私はウルトラマンの手を取った。
えっ?暖かい。こんな金属色の手なのに、まるで人間の手を握っているみたいに暖かい。
それだけじゃない。体全体が優しい温もりに包まれていく。まるで体が溶けていくみたい。
ふと足元を見ると、私の体がふわふわと浮いている。気のせいじゃない。しっかりと私の足が地面から離れ、まるで雲のように浮遊している。
「さぁ、行くぞ!」
そう聞こえたかと思うと、ウルトラマンは私の手を握ったまま、空へと飛び立った。
さっきまで立っていた場所がどんどん遠のいていく。しかも尋常じゃないスピードで。
でも、不思議と怖くはなかった。むしろ、自分が風になったようで、すごく気持ちがいい。
ウルトラマンはどんどんスピードを上げ、光が灯り始めた町の上空を飛んでいく。
私はいつも住んでいる場所を、ワイン色に染まった空を駆け抜けながら見つめる。なんだか言葉に表せないけれど、頭の中が空っぽになって、目の前の景色にしか集中できない。
こんな風に感じたのは、いつぶりだろう。
「どうだい、いい眺めだろう。けどこれの方がもっとすごいぞ。」
今度は真上にギュンと速度を上げて、上へ上へとウルトラマンは昇っていく。
さっきまで見えていた街並みが次第に光の点になっていき、しまいには見えなくなっていく。
闇に包まれた虚無の大空を、月明かりがまぶしく照らしている。まるで大海原を照らす灯台みたい。
しばらく夜空の中を飛んでいると、無数の星々が現れた。真っ黒のキャンバスに白い絵の具をまだらに付けたように、複雑な模様を織りなしている。
「綺麗…」
思わず声に出してしまう。と同時に、ウルトラマンの胸の光が点滅を始めた。
「残念だな、楽しくなってきたところだったのに。」
寂しそうにウルトラマンは言った。
「でも、これだけは見せたかったんだ。もうちょっと待っててくれ。」
彼は速度をさらに上げると、周りを覆っていた星々の光が引き延ばされていく。このまま地球の外へと連れて行く気だろうか。
そう思ったのもつかの間、いきなり彼は速度を落としたかと思うと、振り返りながら言った。
「ほら、後ろを見てごらん。」
後ろを見ると、そこには丸い、青い星があった。
雲と大陸が白と緑の複雑な模様を作り出し、まるで壮大なアート作品を見ているようだった。
教材で見ることはあっても、本物の地球を見るのはこれが初めてだった。その上に、日本列島がぽつんと浮かんでいる。
「綺麗だよね。本当に。」
「うん…」
「でも、僕が地球で一番好きな光景は、これじゃないんだよ。」
これが一番じゃないとすると、一番はどんなに美しいんだろう。
「見てみたいかい?」
私は目の前の光景に圧倒されながら静かにうなずいた。
「じゃあ、見せてあげよう。急がないと、もう時間がない。」
ウルトラマンは私のもう片方の手を取ると、目がくらむような光を体から発した。
あまりの強烈な光に顔をそらすと、いつの間にか私たちは元の場所に戻っていた。
ウルトラマンは人間の姿に戻り、川の向こう側を見つめている。
その方向を見ると、オレンジ色の太陽が地平線へと今にも沈み切ろうとしていた。
「あちゃー、ちょっと遅かったかな。」
ウルトラマンが一番好きな景色って、地球の夕焼けらしい。
「初めて地球に来た日、ちょうど陽が沈みかかってたんだ。一目ぼれ、って言うんだっけ?それまでちゃんとこの星を守れるかとか、人間のみんなとうまくいくかとか、色々不安だったんだけど…これを見ている間は、そんなことどうでもよくなったんだよね。」
「…ウルトラマンにも、悩みはあるんですね。」
「そりゃそうさ。誰にだってあるもんだ。生きてるんだもの。」
悩み…
だめだ。さっきは久しぶりに頭の中がすっきりしたのに、またさっきと同じ得体の知れない物が頭の中を染めていく。
頭が痛くなって、胸がずっしりと重くなって….
あぁ、またこの状態に戻ってしまったんだな。さっきの三分間が台無しだ。
「そういえば君、名前は?」
「蒼井...麻里って言います。」
無意識のうちに答えていた。
「僕は矢的猛。もっとも、仮の名前だけどね。」
矢的さん、か。
この人に話してもしょうがないだろうけど…話してみようかな、今考えてることを。
「あの、さっきはすいませんでした。」
「あぁ、いいって。気にしないで。」
「本当は…聞いてもらいたいんです。私の話。」
うわっ、言っちゃった。でもいいか。死ぬつもりだったんだし。
「そんな顔をしてたよ。」
「えっ?」
「僕ね、桜ケ丘中学ってとこで教師やってるんだ。この仕事をしてるとね、大体わかってくるんだよ。で、何だい?話って。」
この人になら、全部話せそうな気がする。そんな気がした。
「私…もう居場所がないんです。」
私の中で、リミッターのようなものが切れた感覚がした。今まで溜め込まれた感情が一気に流れ、まるでダムが決壊したように次々と言葉が流れ出てくる。
「家に帰ろうにもヒステリックな母親がいるだけですし…父も仕事でロクに家にいない。だからせめて、学校では楽しく過ごそうって、そう思ってたんです。自分で言うのもなんですけど、見た目には自信があるし、愛想がいいふりをすれば友達や彼氏はいくらだって作れた…」
視界が涙で潤み、自分の声が震えていることに気が付いた。
「私、寂しかったんだと思います。どこか自分が居ていい場所が欲しかったんです。だから私…年上の先輩と寝たんです。でも先輩はカメラを隠してて…」
気づけば顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。矢的さんはそっとハンカチを差し出してくれたが、自分の汚い体液でそれを汚す勇気が私にはなかった。
「矢的さん…これから私、どうすればいいんですか?こんな汚くて残酷な世界で生きて行かなきゃいけないんですか!?」
「期待外れの答えになってしまうだろうが…私にもわからない。」
以外…だった。人間の深層心理を突いた答えや、「それが人生というものだ」みたいな悲観的な答えは想像していたが、これはまったく予想していなかった。
「僕は君じゃないからな。僕にはこれからどうすればいいかはわからない。でも、そんな君にお願いがあるんだ。」
「何…ですか?」
「大人に甘えてほしい。」
また意外な言葉が返ってきた。大人に甘えろ、だって?私がそこまで情けなく見えているの?
「無論、僕に甘えてほしいとは言わない。でも、大人って子供に甘えてもらうために存在してるんじゃないのかな。君が甘えられる大人は、君の家や学校にはいないかもしれない。でも、君のような若い人が一生懸命に難しい人生の問題に立ち向かう時、その背中を支えてあげる存在が大人なんじゃないかって思うんだ。」
矢的さんはハンカチを私の手から取ると、私の顔をやさしく拭いてくれた。
「麻里ちゃんは強い子だ。自分の問題に自分の力で立ち向かおうとした。だから、誰かに簡単に甘えることができなかったんだろう。でも、僕たち大人はここにいる。どうしようもなくなった時、僕たちに頼ったっていいんだよ。それが君たち学生の特権だろう?」
「矢的…さん。ううん、矢的先生。」
「何だい?」
「またいつか…私と一緒に飛んでくれますか?」
「あぁ、いいとも。いつだって飛んでやるさ。」
その返事を聞いた瞬間、私の体は彼に引き寄せられるように動き、彼を思いきり抱き締めていた。
暖かい。光になったときと同じ温もりだ。
先生はそっと私の背中を包みながら、髪をなでてくれた。
陽が沈み切り、月が夜空を明るく照らしているこの町で、
私は、ウルトラマンに命を救われた。
僕の活動報告にて次作のアイデアを募集中です!
あなたの一番思い入れのあるウルトラ作品は何ですか?