コラボにするにあたって、私の作品『遥か東方に生きる』の中の時系列は永夜異変終了時点という設定になっております。
その為、この作品においての千鶴の苗字は
『白嶺』⇒『博霊』
に変更している点、それと今後のネタバレ要素が若干含まれています点をご了承下さい。
デジャヴ
そう、私はデジャヴを感じていた。
私が神として、千鶴として生まれ変わったあの日の様に、私は自然と、呆然と空を見上げていた。
自然と?
何故私は空を見ているのだろう?
別に私は上を見上げている訳でも無いのに……
朧げな私の意識が覚醒していく
気づけば私はあの日、あの時の様に森の中でただ一人、仰向けで倒れていた。
どうして私は森の中で倒れているのだろう?
私は目覚める前に起こった最後の記憶を呼び覚ます。
確か私は……そう、宴会に参加していた……筈である。
永夜異変
私はこの異変を霊夢たちと解決する為にこれに付き添い、私の元上司でもあり親友でもあった永琳と矛を交えた……筈だ。
その後、異変を解決した霊夢たちに無理やり引っ張られて宴会に強制参加させられた……筈だ。
そして私は永琳たちと談笑しながら……
少々のお酒を含んで……
夜風に当たる為に外に出て……
ふと月を見上げた……筈だ。
「筈、はずって……駄目ね」
目覚める前に起こった事を薄らとしか覚えていない。
それどころか記憶の所々にノイズが走って上手く思い出せもしない。
記憶喪失……とは違うようだ。
ただ、目覚める前の記憶が不自然なほど思い出せない。
「とにかく……」
私は立ち上がって身体の状態を確認する。
……特に問題は無いようだ。
「戻りましょうか」
少量のお酒が入った程度で酔ったとは到底考えられないが、酔った勢いで外で眠ってしまったという何とも間抜けな可能性も考えて、私は家へ、博霊神社を目指して歩き出した。
「全く……酔っていたとはいえ、私は何処まで歩いて行ったのでしょうか?」
すぐに帰れる距離かと思った博霊神社はかなり遠方の方に見えている。
これでは歩くより飛んで帰った方が早いだろうが、やっぱり私は歩くことにした。
程なくして、私は妖精の湖に出た。
湖を中心に薄らと霧の向こう、左手の方に紅魔館、右手の方には遠くに博霊神社がぽつんと立っていた。
無論私は右に足を進める。
「チルノたちはいないのかしら?」
あわよくば、チルノやウカノに湖に立ち寄ったついでに挨拶でもしようかと思っていたのだが……どうやら今回はタイミングが悪かったらしい。
「仕方ありません、ざんね……!?」
殺気
私の背後からいきなり向けられた、とても純粋なそれに驚きながら、私はステップを踏んで回避する。
氷の弾幕。
私が見たのはチルノ特有の弾幕。
そして振り返れば、間違いなくその姿はチルノ……あれ?
「チルノ、貴女縮みましたか?」
「誰がぺちゃぱいだ!!」
誰もそんな事言っていない。
私は内心そんな事を思いながら、チルノの弾幕を回避しつつ疑問を膨らませる。
何故友人である筈のチルノが突然襲い掛かってきたのか?
何故チルノの容姿が十歳ほどの容姿に戻っているのか?
何故チルノの胸がぺちゃぱ……ゲフンゲフン。
ともかく、私の疑問が尽きることは無い。
「チルノ、何故私に刃を向けますか!!」
「あたいがさいきょーだからだ!!」
……はい?
彼女の言っている事が全く持って分からない。
少なくとも私の知っているチルノはそんな愚かな理由で私を、人を襲ったりはしない。
私は一瞬目の前で起こっている事実に混乱してしまうが、やたらめったら弾幕を放つチルノに段々腹が立ってきた。
私はいつものチルノとは違う、雑で精細さの欠ける弾幕を掻い潜って
「いい加減になさい!!」
「ギャン!?」
チルノに拳骨を入れた。
「いった~い……あたいの頭になにすんのよ!!」
「チルノが私に喧嘩を吹っ掛けるからでしょうに」
「だって、あたいがさいきょ―……」
「だまらっしゃい!!」
「ひうっ!?」
「ま、待ってくださ~い!!」
余りに阿呆な事を繰り返すチルノに説教しようかとしていた私を静止する声。
振り返れば遠くからウカノがこちらに向かって……ウカノもなんで縮んでんの?
「はあ、はあ、チルノちゃんがご迷惑を……はあ」
「ウカノ、これは一体どういうことです。どうしてチルノもウカノも縮んでいるのですか?」
「へ?」
私の問いかけに、ウカノはチルノと顔を見合わせる。
そして気まずそうに私に振り返ると、ウカノは私にこう問い返した。
ウカノって誰ですか?
「は?」
「ウカノって誰ですか?」
「な……な!?」
言葉が喉の奥につっかえて思うように言葉が出ない。
パクパクと、私の口は酸素を求めているのか、言葉を求めているのか分からない間抜けな動きをしているのが分かる。
「チルノちゃん、ウカノさんって知ってる?」
「ううん、知らない」
「っ!?」
そんな……
目の前が真っ暗になる錯覚を覚え、私は思わず倒れこみそうになる。
そんな私を慌てて支えてくれるウカノ……だった妖精。
「大丈夫ですか!?」
心配そうに私を支える彼女。
私はそんな彼女の肩を構う事無く強くつかんで詰め寄る。
「いたっ!?」
「私の、私の名前は分かりますか!!」
「知らない!!あなたなんて知らない!!」
「大ちゃんを放せ!!」
「がっ!?」
彼女に詰め寄る私を突き飛ばすチルノ。
冷静さに欠けていた私は簡単に突き飛ばされた。
地面に受け身も出来ずに叩きつけられ、私は呼吸に苦しむ。
そんな私を見下ろすチルノたち。
……彼女たちは誰だ?
「誰なの?」
咳き込みながら、ふらふらと立ち上がり、チルノたちの形をした何かを睨み付ける。
「貴女たちは誰なの!!」
「お前こそ誰だ!!」
チルノの言葉に私はハッとする。
私は……
そこまで言いかけて、何故かその先を紡ぐことが出来ない。
「二度とここに来るな!!お前なんか大っ嫌いだ!!」
「っ!?」
二度と来るな、大っ嫌い。
その言葉を投げつけられた私は
その場から逃げだした
「はあ、はあ……」
あれからひたすら森の中を駆け抜けた私は、とうとう地に手を付けてひたすら酸素を求める。
胸が苦しい……
いくら呼吸を繰り返そうと、私の胸の苦しみが取れることはない。
苦しい……胸が苦しい……
「ああ、そうか……」
胸が苦しいのは、彼女たちに忘れられた事が悲しいから。
ずっと親友だった彼女たちに他人の様に扱われたからだ。
「待て……」
ここでふと疑問が出てくる。
私という存在が彼女たちの中に無いのは先ほどのやり取りで分かったが、それは本当に「忘れた」事が原因か?
「忘れた」事が原因ならば、先ほどの彼女たちの姿が私が彼女たちに出会った時に近い姿に戻っている事が説明できない。
ならば、私はもしかして神に転生し、この世に生み出されたあの時に逆行したのか?
もしそうなら、と思うとゾッとする……が、私は少し考えて、それを否定した。
時間の逆行。
もしそうだとするのなら、先ほど見た紅魔館と博霊神社は存在する筈がない。
更に、紅魔館が幻想郷に転移してきたのは幻想郷の歴史から見ても極々最近の事だった筈である。
ならば、これは一体……
「あれ……?」
私はふと、自身の地球からの信仰が薄くなっている事に気づく。
以前に比べると1200分の1程の信仰しか受けられていない。
それでも元の存在が大きすぎる為、神力については問題ない。
問題はその信仰が地面から、この地球から受けているものでなく、漠然とした虚空から受けているという点である。
何故か?
そうして私は気づく。
「ここは……此処は何処だ?」
私が辿り着いた、一つの仮説。
私はそれを証明する為に、四次元空間を開いて人形たちを呼び出す。
「『いかな者、これ認識すること能わず』……行け!!」
私は人形たちに『言霊を操る程度の能力』を使って認識阻害の言霊を掛け、人形たちにこの幻想郷の偵察を命ずる。
人形たちは私の命令にコクリと小さく頷いて応え、四方八方に飛び出していく。
飛び出していく彼らの背を私は見送った後、この事態がどう転んでも長丁場になる事を鑑みて、今後の拠点の創造を、神力が他の誰かに感知されないように結界を張ったうえで慎重に取り掛かった。
森の中にひっそりと建っている庵、千鶴はその庵の中で人形たちを使って知りえた情報を吟味していた。
結論から言うと、彼女の仮説は正しいものだと証明された。
千鶴の仮説、それはこの世界が『千鶴が存在しなかった歴史を辿った幻想郷』であるという事だ。
つまりは並行世界、エヴェレットの多世界解釈、シュ○インズゲート。
私がいた世界とこちらの世界、私が関わった物事だけが計ったように悉く違うものになっていたのだ。
例で挙げるなら、先ほどのチルノたちがいい例だろう。
ほかにも、ルーミアが封印されていて、妖怪であったり
椛が妖怪の山で白狼天狗として文の部下になっていたり
博霊神社の名前が博麗神社になっていたり
どうして私が元の世界からこの世界に飛ばされてきたのか?
私には全くもって分からない。
しかし、あちらからこちらに来ることが出来たという事は、元の世界にも戻る事は恐らく出来るという事だ。
幸いな事に、あちらの地球との繋がりがいまだ健在。
この繋がりを標にして、元の世界に帰る手立てを見つける事が今後の課題となるだろう。
私はこの世界において言わば異物の様な存在である。
私という異物をこの世界が受け入れるかどうか……それは分からないが、ともかくこの世界から早急に立ち去るのが上策であろう。
私にとって一番拙い、最悪な事態は、幻想郷の管理者、八雲紫に目を付けられるという事だ。
先ほど確認したのだが、私は博霊大結界に一切触れる事無くこの世界に降り立っている。
きっと疑問に思うに違いない。
私が如何にしてこの地に表れたのかを。
下手をすれば私は彼女に脅威と判断され、幻想郷の全てが私の敵になる恐れがある。
そうなっては最後、私が雲隠れしても発見出来る実力を持つ紫を殺さないといけなくなる可能性がある。
そうなると幻想郷の管理者が居なくなり、パワーバランスも崩れ、待っているのは幻想の終わり。
……少し大げさに事を述べたが、この世界の紫たちとの対立は避けたい。
故に少しでも不安要素がある限り、私は紫を含めた幻想郷の実力者たちとの接触を極力避けようと思う。
その為にも私は、手始めに博麗大結界に割り込んで、私という存在の情報を改ざんを試みる事にした。
博麗大結界は大まかに言うと、三重の結界より成り立っている。
内と外に大結界が一枚づつ、そして感知用の結界がその間にミルフィーユが如く挟まっている。
その感知用の結界は、幻想郷と外の世界との出入りを感知するだけでなく、幻想郷の裡にいるいかなる個人情報、現在位置等々を管理している訳だ。
何故私がこんな事を知っているのかというと、紫が使っている結界術が、私が編み出した結界術と同じものであるからだったりする。
故に大結界の構造を知る事ができ、そしてこちらの世界の大結界も同質のそれである為、簡単に割り込めた。
割り込めたと言っても、紫が今現在起きていたら直ぐにバレていただろう。
しかし、今は冬。
紫は冬眠している可能性の方が高い為、問題ないだろう。
次に問題なのは彼女の式神の八雲藍である。
もし下手に改ざんを試みようとしたならば、主の代わりに大結界を監視している彼女にバレて即アウト。
どうにかして彼女の注意を逸らさないといけない。
「そうだ」
私は大結界の感知用結界に一瞬だけ、ほんの少しだけ圧を加える。
普通の人なら見逃すであろうそれ。
しかしそれさえ気づくのが藍である。
私は彼女のその有能さを突いて、彼女の注意が外れるわずかな時間で私に関わる注目されるような要素を全て書き換えていく。
種族を神から人に
出自を外来人から幻想郷出身者に
能力者を無能力者に
それらを僅か三秒で書き換えた私は、事を終えた安堵から大きく息を吐いた。
「疲れた」
こんな綱渡り、二度としたくないと本気でそう思った。
さて、私の本日最後の仕事は庵の隠蔽工作である。
私は庵を出て、森に向かって言霊を投げかける。
「『我が言よ、言霊となりて千里を走れ』」
「『我が許しなく、居を認識する事能わず』」
「『我が許しなく、居に侵入する事能わず』」
「『我が居に正道通らずして至る事能わず』」
「『以上の事、守らぬ者は悉く帰りたまえ』」
こうして私を囲っている森は、例え紫のスキマを使っても侵入する事は出来ないだろう。
私はそう考えて、今日は一先ず床に就くことにする。
明日からは如何にして元の世界に戻るか、その方法を探ろうと思う。
どんなに時間が掛かろうと、私は絶対に元の世界に戻ってみせる。
私はそう決意しながら庵に戻っていった。
ども、bootyです。
この度私は戌眞呂☆様の作品、『幻想郷文写帳』とコラボする運びとなりました。
……とても緊張します。
とにかく今回のコラボを了承してくださいました戌眞呂☆様の作品を穢さないように、精一杯頑張っていく所存ですので、宜しくお願いします。
因みに千鶴側の視点を私が
文写帳の面々の視点を戌眞呂☆様が担当する事になっていますので、戌眞呂☆様が投稿なされた折には見比べて楽しんでみて下さいね。
予定としては戌眞呂☆様が文写帳の面々の視点を書くのは『正体不明の人形師』の後編の投稿後となります。