雄飛する鳥は世界線を渡る   作:NoRAheart

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此方の話は戌眞呂☆の作品「東方共作録」に投稿されている「 森の中へ ~追跡開始~」を先にお読みいただく事をお勧め致します。


Curiosity killed the cat

「……」

 

 

正体の分からぬ追跡者の追跡を逃れた後、森の中を正しい手順を踏んで進んでいた私の足がふと止まる。

何やら身体を這いずり回るような嫌な予感がするなと、そう思って私は後ろを振り返った。

 

 

――振り返ってもそこには何もない、誰もいない。

 

 

確かにそこには誰も、何もないのだが。

その筈なのだが……

 

 

「むう……」

 

 

神故の第六感、と言うべきなのだろうか?

今までこういった予知的な感覚を無視して良い事は無かったのは経験則で分かってはいるのだが、しかしこの森には私の侵入防止の言霊という結界が張られているというのに何が私に迫っているというのだろうか?

 

 

「本当に一体何なのでしょう?」

 

 

私は念のため、嫌な予感がする方角に誰かいるのかを確認する為、近くに生える大木に手を添える。

 

 

「『森よ、森よ、私に貴方たちの見ている世界を見せたまえ』」

 

 

目を閉じれば世界が広がる。

森は私に世界を教える。

森に生きる生き物達の脈動を。

森に生える植物達の囁きを。

その全てを私にゆっくりと教えてくれる。

そして見つけた森の異物。

数は四。

 

 

『それで、欧我はどうしてここに来たの?』

『…え?ああ。俺は千鶴さんを追ってきた』

『千鶴?聞いたことない名前ね』

『うん、最近里で話題になっている『正体不明の人形師』の名前だよ。文さんと一緒に取材をしようとしたらぜんぜん応えてくれなくて。だからどこから来たのか突き止めようと後を追ってきたんだ』

 

 

森の前にいたのは八雲紫、藍、博麗霊夢、そして村で出会った道化の青年。

八雲と霊夢が来ているという事は、とうとうこの森に対して本格的なアプローチを仕掛けてきたという事である。

しかも八雲本人が動いているという事は、この事態を重く見ているという事だろう。

さてどうするか?

私がこの森に掛けている言霊は、さして強い命令でなかったため解呪に対する抵抗力はさほど高くなく、このままだと八雲達に解呪されるのは時間の問題。

この森に強い言霊を掛け、私が引きこもってしまえばこの森は今度こそ何人たりとも入る事の叶わぬ要塞と化すだろうが、それをしてしまうと何も知らずに森に入って来た人や動物達に何が起こるか分かったものでは無い。

それに引きこもってしまうと、弥助に頼まれた人形劇が出来なくなってしまう。

 

 

言霊による結界が破られるのを、私はふと感じた。

ノックも無しにとは無礼なと私は呆れつつ、彼らに形式的な警告を発する事にする。

 

 

「『我が森に入りし侵入者、術を破りし狼藉、甚だ業腹なるや、直ちに戻る者は罪に問わぬ。即刻立ち去れ。それでも森に進みし愚者よ、心せよ。これより入りしは死地也や。各々努々御覚悟なされよ、そして心の臓を我が前に捧ぐ覚悟ができた者より進むがよい。私はこの森の奥にて待ちにける』」

 

 

無論こんな警告ごときで引き下がる彼らでは無い事は分かっている。

寧ろ彼らの性格を鑑みてみると、今の警告を挑発と受け取ったかもしれない。

しかし私は言うべきことははっきりと伝えた。

 

 

――この森に入ったら殺すと

 

 

まあ、私に彼らを殺す気は今になっては更々ないのだがと、一人肩を竦める。

当初こんな世界など、私にとってはどうでもよかった。

例え壊れたとしても、私にとっては関係のない世界。

しかし私はこの世界の住人と触れあい、彼ら一人一人を知ったのだ。

この世界でも彼らは生きた人間であることを。

その事が、私を躊躇させる。

故に私にはもう、八雲紫を殺せない。

 

 

「さて……」

 

 

今より起こる戦闘……いや、この戦争に勝つ為に、私は思考する。

この際バレてしまってはしかないとして、仕方ないが彼らを一度潰して交渉の席を設けるしかあるまい。

圧倒的な暴力と言うものは、誠に不快に思うがいついかなる時代においても有力な外交のカードである事は変わりない。

よって彼らを制圧し、そしてその後交渉の場を設け、私に優位な条件を彼らから引き出す。

それが私の勝利条件である。

 

敵は三方に分かれ、森に入ったようである。

左から霊夢、右より藍、中央は……確か葉月と言ったか?

八雲紫は計算通り、その場に待機している。

紫は動きたくても動けないであろうことは、もしもここを攻められた場合においての数回に渡る、事前のシミュレーションにおいて既に予想していた。

理由は四つ。

 

一つ、彼女の破った結界には修復術式が込められており、これによって紫、若しくは次点で藍のどちらかが残らねばならない事。

一つ、結界を破ったとしても、私が紫対策の為に打ったスキマ封じの言霊は未だ健在である為、もしもの事があった場合において、彼女自身の離脱が不可能である事。

一つ、私という敵性勢力の力量が不明、情報についても私が博麗大結界の情報を改竄した事によって大結界からは読み取ることが不可能である事。

一つ、上記三つの事によってその場にいなければならない紫は自然的に全体の取りまとめ役として、指揮官として、司令部として紫は安全地帯にいる必要があり、その事がまた彼女をその場に縛る要因になっている事。

 

それにしても、計算高い紫にしては今回の襲撃は些か安直ではないのかと、私は少し疑問に思っていた。

相手が私一人と結論付け、霊夢の発案した戦力の分散を許し、数の理を捨てた事もそうだが、情報の少ない私を人間だからと侮って、よもや力攻めでどうこう出来るとでも思っていたのであろうか?

 

 

「『集え、我が破軍、護軍』」

 

 

それは兎も角、まずは一手。

私の言葉に次元を超えて現れる、私の精鋭たち。

そんな彼らに私はただ「行きなさい」と短く告げ、先行させて三人の足止めを命ず。

 

 

そして二手。

袖下より一つ、右手に鉄扇を取りだし、広げ、そして掲げた左手に向かってそれを横に振るう。

左手首が切れ、大量の血が地に落ちる。

それを適量、地に流し続け、それが終わったのを確認した私は手首を止血し、言霊で持って私は願う。

 

 

「『――天照大御神が神名を以て、今ここに三度(みたび)願い奉る。命無き人形よ、我が血肉を吸って、命をなせ。その人形、魂は偽。されどまた真でもあれ。その身は偽、されどまた真でもあれ

 

 

――二度(にたび)願うは創世の理、生命の創造。愚かな私の願いし末路

 

 

――三度(みたび)願うは天秤の守護者。我は常世全ての善悪を量りし天秤也。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 

 

――三大の言霊、我が願い、聞き届けたるなら今ここに応えよ!!』」

 

 

――是『禁・生命創造』

 

 

私の言霊の許に、目の前に三体の人形が創造される。

人体を造るのは水、炭素、アンモニア、石灰、リン、塩分等々。

それら全てを地殻等より吸い上げ、そして構成する。

出来上がった人形に、私の記憶より作り上げた偽りの魂を打ち込み、それらは動き出した。

 

 

「「はじめまして、私」」

「こんにちは、私」

 

 

作った三体の内、二体は私自身。

そしてもう一体は――

 

 

「おや?千鶴か。貴女が私を呼ぶとは珍しい」

 

 

――九尾狐、八雲藍

 

 

「時間が無いので手短に済ませます。作戦は既に記憶として引き継いでいる筈です、私たち二人は予定通り、霊夢と紫を抑えなさい。手段は殺害以外は問いません」

「「御意」」

 

 

答えて早々、私たちはそれぞれの方向に飛び去り、残されたのは私と藍の二人だけ。

そんな中、藍は袂を口に寄せて、私をくつくつと笑う。

 

 

「藍よ、何上笑うか」

「いえいえ、千鶴はまた面倒な事に巻き込まれているなと思いまして」

「……ふん」

「邪魔であるなら殺せば済む事を、人などこの世に腐る程居るのだから切り捨てればいいものを……貴女は本当にお優しいお方」

「黙れ藍、貴様を今ここで再び土くれに返してもいいのだぞ」

「おおぅ、怖きかな、怖きかな」

 

 

私の方を向きつつ、藍は後ろ向きでふわりと浮いて空を飛ぶ。

 

 

「作戦は分かっているな」

「ふふ、心得ております。解析能力の高い私に、貴女の手の内を見せないように私をぶつけるのでしょう?クク、貴女もお人が悪い」

「死ななければ状態は問わん、どうせ妖怪なのだから四肢の一本二本、お前の事だからすぐに治るだろう?」

「委細承知。久々の荒事だ、好きにやらせてもらうさ」

 

 

チロリと舌を見せ、愉快そうに飛び去った彼女は、嘗て傾国の美女と呼ばれていた頃の彼女を想起させる。

そんな彼女をこちらの彼女が見た時に、彼女はどんな反応を示すのか?

至極楽しみだと、私は無表情ながら、笑う。

 

 

「さて舞台は整い、役者は出揃った」

 

 

始めようか、人形劇を。

 

 

「糸に操られる人形の様に、私の掌で踊りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗霊夢は全てにおいて空を飛ぶ。

地から、迷いから、甘えから、恐怖から、脅威から、そして人という枠組みからさえも。

全てから浮いて、人、妖怪、全てにおいて平等であり続ける。

それが幻想郷を守る彼女の役目。

 

 

「ッ!?くそ、雑魚のクセに生意気なのよ!!」

 

 

そんな彼女の何度目になるか分からないグレイス。

霊夢は至近弾に戦慄ししながらも、その戦慄からもすぐに能力で浮く。

彼女は未だにこの異変の原因である「千鶴」と呼ばれる人物の許にたどり着けていなかった。

それどころか、彼女は突然現れた人形たちに長時間足止めをくらい、前に進めずにいた。

 

 

――可愛いなりして連携が上手い。

 

 

槍持ち人形が攻め、盾持ち人形が守る。

やっている事は単純だが堅実に、だからこそ霊夢は人形相手に攻めきれずにいた。

膠着状態のこの現状、スペルを使えば現状を打破する事は確かに出来るのだろうが、ボスでもない相手にスペルを使う、それは霊夢のプライドが許さなかった。

しかし――

 

 

『霊夢さん!!藍さん!!――ガガッ――千鶴さんを……――ブツッ――』

「欧我!?」

 

 

渡した通信札から文の恋人、欧我の声がしたかと思えばそれはすぐに切れてしまった。

「千鶴」というワードが出た事から、もしかしたら目標との接触を果たしたのかもしれないが、すぐに通信が切れてしまった事が、霊夢の不安を駆り立てる。

 

 

「まさか、やられたなんて言わないでしょうね……」

 

 

言葉は乱暴だが、彼女は彼女なりに欧我を心配していた。

そして彼女は同時に焦ってもいた。

永嵐異変を経て、射命丸文と結ばれたばかりの彼。

自分から進んでこの森に入ったとて、それで死んでしまわれては文が悲しむのは目に見えている。

 

 

「ああ、もう!!」

 

 

――霊符「夢想封印」

 

 

彼女は友の為にこの瞬間だけ、プライドの一切を捨てた。

余裕を捨て切り、迷いなく彼女は己の切り札たるスペルカードを中ボスにも満たない相手に初めてカード切った。

一秒でも早く、欧我の許へ。

数多くの強敵を屠って来た弾幕の暴風雨は、例え小賢しい人形とて撃ち滅ぼす事どうして能わざるか。

彼女の周囲に発生する弾幕は、そのまま人形たちに牙を向くかに見えた。

 

 

――『天の岩戸』よ、悪しき者の一切を、何人も立ち入る事能わぬ聖域を保て

 

 

四方に放たれた弾幕は、宙に弾けて霧散する。

弾幕を遮ったのは半透明の壁、九重に重なった結界。

それが霊夢をぐるりと取り囲むように張られている。

結果的に前に進めない事実に、霊夢は大きく舌打ちして前を見た。

 

 

「これを張ったのはあんたね」

 

 

確信を持って放った言葉に応える様に、木の裏より現れたのは一人の女。

「然り」と、霊夢の言葉に女は表情を揺らさず答えた。

 

 

「気配を消していたつもりだったのですが……よく私の居場所が分かりましたね」

「勘よ」

「ふふ、左様ですか」

 

 

女は扇で口元を抑え、笑う。

しかし彼女の表情の一切が動いていない事を見逃すことなく、そして思った。

 

 

――気持ち悪い、と

 

 

霊夢は女に尋ねる、「あんたが正体不明の人形師、千鶴ね」と。

女は霊夢の問いに「これまた然り」と答えた。

返答を聞いた霊夢は袖下より一枚の札を出し、千鶴に見える様に示す。

 

 

「これはあんたので間違いないわね?」

 

 

以前霧雨魔理沙が神社に持ち寄った、門外不出の筈の通信札。

霊夢の管理外、過去に何かしらの理由で出回ったものなら分かるが、札はどう見ても真新しい物。

持ってきた彼女曰く「倒れていた村人の一人が持っていた」そうだ。

それは可笑しい。

どうして私がしっかりと管理管轄をしている筈の札が出回っているのか?

もしも管理に不備があったなんてことがあれば、博麗の巫女としての責任問題に発展しかねない。

そう思った霊夢は、普段の彼女からは考えられない程積極的に調査を始め、浮かび上がったのは一人の人物。

『正体不明の人形師』

永嵐異変の時、積極的に避難誘導を行った村の西にある外れに住む新参者。

西の外れと言っても彼女が何処に住んでいるかまでは分からず、そして西と言えば最近村から苦情の上がっている「拒みの森」の件もあるので十分怪しい人物である事は間違いなかった。

そしてそいつが怪しいと霊夢が踏んだ時に現れた意外な人物、スキマ妖怪。

 

 

「西の森の異変解決に行きますわよ」

 

 

今更であるが、毎度のことながら彼女は唐突にものを言う。

しかし紫自身が異変解決に乗り出している事は霊夢にとってはかなり意外な事であり、それだけ事が大きい事なのかと、霊夢は気を引き締めたのがここに来る前の話。

 

 

閑話休題

霊夢の問いに、沈黙を守る千鶴の態度を是と受け取ろうかとした彼女の周りにいきなり空間を割るかの様に人形たちが現れ、霊夢に攻撃を仕掛けて来る。

 

 

――人符「殺戮人形の館」

 

 

千鶴は返答の替わりに霊夢に向かってスペルを宣言していたのだ。

 

 

「ちょっと、何すんのよ!!」

 

 

必死に結界の中という狭い空間を飛び回り、人形たちの弾幕を、槍を、反撃の余地も無いほどの攻勢を躱す。

そんな霊夢の様子を千鶴は見上げ、告げる。

 

 

「死人に口なし。焉んぞ死に行く者に真実を知る必要があろうや?」

 

 

ああ、そう言う事。

霊夢は苦笑いを千鶴に向け、そして思う。

目の前の人形師は、私を本気で殺そうとしていると。

それでもスペルカードルールに沿っている事は彼女なりの慈悲か。

 

六十秒。

ルールの通りならば、それだけ持てば私の勝ち。

 

 

負ければ――死

 

 

「お覚悟召されよ」

 

 

此処に入る前に、覚悟が足らなかった数十分前の私を殴りたいと、霊夢は思う。

彼女はちゃんと言ったではないか。

 

 

「ここが貴女の死地也や」

 

 

欧我、どうか私が来るまで死なないで。

文を悲しませるなんて許さないんだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『霊夢さん!!藍さん!!――ガガッ――千鶴さんを……――ブツッ――』

 

 

「欧我!?」

「ほら、よそ見なんてしている暇なんかあるのかい!!」

「グゥウ!!?」

 

 

森の中を駆け抜けていた藍が最初に出会った人物はもう一人の彼女であった。

驚く藍に対し、彼女は容赦なく攻撃を始め、そのまま戦闘にもつれ込んだのだが――

 

 

(不本意だが、押されているな……)

 

 

藍はもう一人の自分に苦戦を強いられていた。

 

 

「ゲホッ、ゲホッ、私の偽物とは面妖な。千鶴という者は、かくも特殊な趣味をお持ちの様だな」

「それには同意だ」

「……私に同意されても、なぁ!!」

「これまた同意見だ!!」

 

 

――密符「御大師様の秘鍵」

――行符「八千万枚護摩」

 

 

札による逃げ場のない弾幕同士がぶつかり合い、閃光を産む。

弾幕のぶつかり合いの中で、藍は弾幕を避けながらも、目の前の彼女を突破する為の方程式を構築していく。

それは目の前の彼女も同様だろう。

姿は一緒、力量も互角、ならば思考はどうだろう?

彼女が私の行動を先読みしてスペルを重ねてきたように、同じ私でも、常に変化する勝利の方程式を導き出すまでの時間が同じとは限らない。

だからこそスペル宣言時に同時に彼女は被せる様にスペルを宣言できたのだ。

ならば――

 

 

「何方が答えにいち早くたどり着けるか?」

「何方がより優れているのか?」

「「勝負!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来たか」

 

 

私自身が相対するのは道化の青年。

名をば葉月……確か、欧我と名乗ったか。

彼はこの場にいる理由を霊夢たちに私の取材、写真撮影の為と語っていたが、私はその言葉を少しも信じてはいなかった。

果たしてそんな理由で死地と分かっている場所に飛び込めるものか?

答えはNOだ。

誰だって命は惜しい物の筈である。

しかしもし純粋に彼の言った通り、その通りだったとしたら……うん、ものすごく邪魔である。

然るべき手段で以て、丁重に、早急にお引き取り願おうと思う。

しかし私はその確率は低いと踏んでいた。

何故なら彼が自分を盤上の駒として見る事のできる程のやり手である事は、私は新聞上の彼より既に読んでいる。

何方にしても彼と相対し、どちらが真か、それを問わねばと私は考えていた。

 

 

人形たちをワザとぶつけ、道を作り、彼をこちらに誘導する。

その過程で何体かの人形がやむなく犠牲になってしまった事に胸を痛めるが今は仕方ない。

「後でしっかりと修繕をしてあげますから」と内心で謝りつつも、落ちた人形を地面に落下する前に四次元空間に引っ込める。

 

 

にゅる

『斬っちまえよあんな奴、妖怪なんだろ?』

「ちょっと黙ってなさい」ベチンッ

『ア~!?』

 

 

ひょっこり出てきた憎悪を扇で弾き、払う。

相手は天狗でもないのに邪魔である。

 

 

「千鶴さん!!」

 

 

果たして、彼は此処に来た。

そして慌てて彼は懐から博麗式通信札を取り出すと、他の者達に連絡を取ろうかと謀ったため、私は言霊で持ってそれを制す。

突然通信が切れたことに驚き、私の能力に察しがついたようだが問題ない。

能力が私の全てでは無いのだから。

 

ちらりと微弱な気配を彼の後方に感じ目線だけでそちらを見ると、何故か紫の式であるカラス姿の前鬼と後鬼が枝の影よりこちらを見ていた。

紫がこの男に二体も式を付ける訳……護衛半分、監視半分と言った所だろう。

しかしその式も、すぐに虚空に消えてゆく。

如何やら紫の抑えに動いていた私が上手く紫を抑えてくれた様だ。

 

 

「何故追いかけてきた?」

 

 

私は疑問を葉月にぶつけると、やはりと言っていいか、彼は「写真の為だ」としか答えなかった。

彼の言葉が真か偽か。

 

 

(確かめる必要がありそうですね……)

 

 

だから私は彼の記憶を読む事にした。

思考を偽る事が得意な輩という者もこの世には存在する。

しかし思考、自分の考えを思い込みで偽ろうと、記憶だけは偽れない。

此処に来るまでの経緯等々諸々全てを読み、彼の理由を知ろうとする。

 

 

――見えてきたのは何故か嵐

 

 

『嘘だろ、こんな事って……』

 

 

如何やら私は深く潜り過ぎた様だ。

すぐに違う記憶をと思ったが、シーンは流れ、相対しているのは射命丸文。

文が彼に迫っていた。

 

 

『ここにいましたか』

 

 

『組織に属するってのは、自分の意思だけでは動けなくなるって事よ』

 

 

『欧我。貴方にお願いがあるのですが……この場所で、戦ってください。計画を成功させるために、誰も通さないように』

 

 

『もし嫌なら嫌で結構です。ですが……』

 

 

『わかりました、戦います』

 

 

『え…?』

 

 

『文さんの頼みなら、喜んで引き受けます』

 

 

戦う、嵐、天狗組織。

詰りこれは永嵐異変の時の記憶。

そしてやり取りから察するに、彼は天狗側として……

 

 

(しまった!?)

 

 

――後悔先に立たずと言う言葉がある

 

 

――最初に聞こえてきたのは歓喜

 

 

討つべき敵を、見つけた憎悪は、私の中で歓喜をあげる。

やったやったやった、と。

みつけたみつけたみつけた、と。

 

 

――次に聞こえてきたのは怨嗟

 

 

きさまがきさまがきさまが、と。

ころすころすころす、と。

 

 

今までに無い程ひどい憎悪が、私の身体を、思考を、意思を蝕んでいく。

意識が遠のく、遠のいていく。

 

 

「――ッ」

 

 

その前に、袖下で取り出した刀の刃をギュッと握る。

痛みが私の意識を保たせてくれる。

落ちる血は、彼にばれない様に着物に吸わせる。

じわりと、血を吸わせた部分が身体に絡みつくみたいでとても不快感である。

 

 

「ど、どうして刀を抜くんですか!?」

「どうして……ですか。分かり切った事を」

 

 

袖下の刀をそのまま引き出し、彼に向ける。

こういった事はあまり好きではないのだが、この場においては警告を無視してここに入った彼が悪い。

ここで出会わなければ敵対する事も無かった筈なのに……愚か者め。

そんな事を内心愚痴っていると、彼は未だ自分に刃が向けられる理由が分からないと言う……いや、これは彼の考えか。

憎悪のせいで、いつの間にか勝手に彼の思考を読んでいたらしい。

 

 

「何をした?よもや私が刀を向ける理由が分からないと、そう仰るのですか?」

 

 

心を読み、言い当てた私を、彼は覚妖怪の様だと喩える。

あながち間違いでは無いが原理が違う、しかしそこまで説明する必要はないだろう。

 

彼は私の殺気が高まったと警戒するが、はてそうなのか?

 

 

にゅる

『殺せ殺せ殺せ』

 

 

……貴様達のせいか。

 

 

「永嵐異変」

「――ッ!?」

 

 

未だに理由が分からずに混乱している彼に、私が刀を向ける故を伝えると、やはり驚いた顔をする。

しかし言葉足らずで彼に勘違いをさせてしまったようだ。

私は慌てて補足を彼にする。

 

 

「なら、何で?」

 

 

何で、か……

彼は本当に純粋なのだろうと私は思った。

自分の信じた道を真っ直ぐに進む事が出来、己の過ちを知ろうとする。

しかし知りすぎる事もまた悪しき事だ。

自分の周りに広がるハッピーエンドのその舞台裏、それを彼は知ろうとしている。

この世の理に触れるには彼はまだ若すぎる様に感じた。

しかし――

 

 

「疑問に思うか葉月欧我。好奇心を持って私を知ろうとするというのか。笑止。好奇心は猫をも殺すという言葉、知らない訳ではあるまいに?宜しい、さらば聴きなさい、彼らの怨嗟の声を。聴いて己が業を知るといい!!」

 

 

知らなければよかったと後悔するのは既に遅し。

覚悟して知るがいい葉月欧我。

バットエンドのその果てを。

 

 

「うわぁあああああ!!」

 

 

葉月欧我は苦しむ姿を、私は只々眺める。

私のやっている事は、ただ彼に私の聞いているものを流しているだけのもの。

それだけなのに、彼はこんなにも苦しんでいる。

そんな彼を眺めて思う。

 

 

――ああ、やっぱり私は狂っていると

 

 

常人よりはるかに精神の勝る彼でさえ十秒も持たずに苦しんでいるのに、表情を動かす事も無く、平然と暮らしている私は狂っていると言わずに何なのだ?

 

 

「分かりましたか、あなたの業が。これが、私が貴方に刀を向ける故。私の中に眠る、彼らの怨嗟の声です」

「俺、は……」

 

 

彼を怨嗟から解放する。

時間にして十五秒。

それでも彼には永遠の攻めにも感じたかもしれない。

しかし彼は、壊れる事も、私に怒りを向ける事も無く、只々泣いていた。

それは彼らの為の涙だろうか?

彼は只々涙を流す。

しかし……それは間違っている。

 

 

「葉月欧我、貴方に彼らを思い、泣く権利などない。それは許されない事なのです」

 

 

そう、それは許されない事だ。

天狗の、文の隣に最後まで立つと決めたのなら、彼らの為に涙を流す事は矛盾以外の何物でもない。

それはただの偽善と言うものである。

それを理解した彼は、涙を拭ってみせた。

 

……少し喋り過ぎたかと私は恥じる。

彼はあろうことか、私の言った数少ないワードから全てを繋げ、私の行動を紐解いてみせたのだ。

その事に私は純粋に、言葉にしないが賞賛を送る。

だからとて、逃しはしないのだか。

 

 

「千鶴さ「罪には罰を」……え?」

「しかし私は大罪を犯した罪人を殺すことはしません。何故なら人は死ねばそこで終わり、罪の意識を感じる間もなく逃げられてしまうからです。だから私はどんな罪人だろうと滅多には殺しません」

 

 

私は死を嫌う。

大罪を犯した者とて、生きてその罪をそれなりの形で償うべきだと私は考えている。

詐欺を働く者はその舌を奪い。

スリを働く者はその手を奪い。

殺人を働く者はその四肢を奪い。

その時から死ぬまでに、その時あったものの大切さを分からせ、死ぬまで後悔させる。

逃げるなど許されない。

 

私は彼に刀を向けて、宣言する。

「罰を与える」と。

怨嗟の声たちは彼の死を望むが、私はそれを拒み、告げる。

 

 

「貴方の罰はその両腕。腕が無ければ自慢の写真を撮れはしまい。貴方にとってそれは写真屋としての死を意味するでしょう?」

 

 

「それともう一つ。あなたの最愛の人、射命丸文の右腕を奪いましょう。それは彼女にとって新聞記者としての死を意味する」

 

 

射命丸文にまで罰を与えると告げ、彼は大いに驚いた顔を見せる。

誰も貴方だけの罪では無い。

彼女は結果として彼を戦わせた。

彼は天狗側として戦った。

もしその事が無ければ、異変解決までにどのくらいの時間が短くなるか。

その間にどれ程の人間が異変に巻き込まれずに済むか?

一人か?

それとも五人か?

もっと多いのかもしれない。

直接彼らが殺した訳では無いとて、結果的には彼らは人を大勢殺している事には変わりないのだ。

その罪が腕だけで済むのなら儲け物と言ってもいいだろう。

 

 

(確かに文さんは永嵐異変に加担したけど、それでも人々の身を案じて泣いていたんだ!!それなのに、そんな……)

 

 

彼が思っている事を聴き、私は「若いな……」と肩を竦めた。

思う事なら誰だって出来る。

嘆く事だって誰だって出来る。

しかし相手は結果しか見ないもの。

文のその行動は、相手からしたら何の足しにもならないのだ。

 

それでも私に、自己の為でなく愛すべき人を思い、罪に抗うというのならそれもまたよし。

守りたいのなら切り開いて、そして見せて欲しい。

君たちの愛とやらを。

 

 

「さあ、掛かってきなさい葉月欧我!!愛すべき人を守りたければ己の力で運命を切り開いて見せるがいい!!」

 

 

私は刀に両手を添えてゆっくりと、静かに、静かに構えた。

 




……一見、千鶴さんってヒールじゃね?
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