九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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兄弟二人のとある一日

 歩く。のんびり……と、言うには少しせわしなく、急いでいると言うには遅すぎる。

 そんな調子で歩きながら、俺は隣で同じように歩いている坊主頭の弟に声を掛けた。

 

ZZ(ダブルゼット)、どうする?」

「へ? 何が」

 

 ポカーンとした様子で答えられる。こいつはもう目的を忘れたのだろうか。アホな弟にも分かる様に俺は指を指してやる。

 

「あれだ、もうちょい急ぐか?」

「そんな急がなくてもいーだろ。多分避難は終わってるし」

 

 五百メートルほど先で暴れる()()を眺めて、ZZは答える。もう少し緊張感を持て、と言いたいがそれに関しては俺も言えたものでは無い。何せ、こうして討伐に向かうのも一度や二度じゃない。二十回はやっていることに緊張感を持て、と言うのも無理な事だろう。

 ただ、俺と違ってZZはあの怪物と真っ向勝負になればまず負けると思うんだが……まあ、それだけ大物と思うようにしておこう。多分深く考えてないだけだと思うけど。

 

「じゃあもう少し歩くか、()()も抑えられるし」

「おう、そうしよう」

 

 そう言って、俺達は他愛も無い事を話しながら怪物に近付いて行く。近付いて、倒す。いつもと変わらない日常の光景……だが、それは聞こえてきた声によってひっくり返ることとなる。

 

 ──―れ

 

「? おい、何か言ったか?」

「いや、何も」

 

 ──けてくれ

 

「やっぱ何か……ってか人の声が聞こえる」

「兄貴耳良いな」

 

 暢気な事を言うZZを無視して聞こえてきた声に意識を集中する。嫌な予感と共に声の出所を探れば……

 

「うわ」

「どうした兄貴」

「人が居る、あのビルに」

「マジで!?」

 

 声は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ、ど、どうすんの?」

「助けるしかないだろ……」

 

 当初の予定──遠距離からの大規模砲撃──が完全に狂うが人命には代えられない。俺はため息を吐き、走り出す。慌ててZZも走り出したが速度が違う。そもそも来ても性能の関係上、あまり役に立たない。そう考え、通信で指示を出す。

 

「お前は来ても役に立たねえから、怪物の方を見張ってろ!」

「了解!」

 

 快活に返事が返ってくる。結構酷い事を言ったと思うんだが……まあ、ポジティブなのは良い事だ。

 ZZが方向を変えたのを確認し、俺は走る速度を上げる。背中から()()()()()()()()()、急加速。一秒程で五百メートルの距離をゼロにする。

 ()()()()()()()()()()()

 西暦8911年、九十世紀。

 人類は度重なる戦争や新技術による自滅を乗り越え、惑星は疎か外宇宙にまで版図を広げていた。

 しかし、旧時代の文明により汚染され尽くしたこの地球ではコロニー外では生活できず、コロニー内も集中し切った権力による支配体制が築かれ、挙句世界には異世界から侵略者が来てしまったと言う無茶苦茶っぷり。

 オマケにその影響かコロニーには定期的に由来不明の怪生物が襲来するわ、その所為でフリーの駆除屋が跋扈するわ、まあ碌な物じゃない。

 身体がサイボーグ、と言うのもこの時代では大して珍しい物じゃ無いのだ。まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 と、眼前にビルが迫っていた。流石に早いなこの体!

 

「せい……のっ!!」

 

 衝突する直前で速度を殺し、上空に飛び上がる。一階一階探している時間は無い、上昇しながら内部をレーダーで調べ上げる。数秒程で目的の反応は見つかった。

 

「よし! 見つけた!」

 

 高さ四百メートル、大体百階ぐらいの所に人が倒れていた。直ぐに窓を割り中に飛び込む。様子から見て、警報時の騒動で棚の下敷きになったようだ。

 棚を吹っ飛ばし、人を背負う。怪我は無いらしいが歩かせていては間に合わない。傷つけないように気を付けながら、俺は窓から飛び出した。

 

「おわあああああああ!!」「わあああああ!」

 

 背中の人と俺が同時に悲鳴を上げた。何せ、飛び出した瞬間に怪物がこちらに向かって掴みかかって来ていたのだから。

 

「くっそ、もうかよ!」

 

 慌てて下に向かって急加速。背負った人が気絶したが四の五の言ってはいられない。降ってくるビルの破片を避けながら下に向かって進み続ける。地面が迫る。後百メートル、五十メートル……今! 

 一切速度を落とさずにビルから垂直に曲がり、地上を走る。少し不安になり、背負った人を見る。生きてこそ居るが、完全に気絶している上に急加速の影響か顔が真っ青になっていた。

 

「おし、問題ない!」

 

 まあ、生きているなら問題は無い。何なら死んでても割と何とかなる。ただ、無事な事は分かったがこの人をこれからどうすればいいかが問題だ。正直、かなり邪魔だからどこかに置きたい。近くに安全な場所が有れば良いんだが……そうだ。

 

「ZZ! 今どこだ?」

「言われた通り見張ってるぞー! 今のところビルに張り付いたままだ!」

「人は助けた! ただ、危険だからお前こっち来て軍の施設までこの人連れて行け!」

 

 怪物が居るならそれを倒すために軍も来ている。だったらそっちに預けてしまえばいい。こっちは人の治療とかは専門外だ。

 

「兄貴ー、場所どこー?」

「ビルから南に百メートルほど離れた場所!」

「よくわからーん! 何か目印!」

「ええい面倒くさい! 信号送るからさっさと来い!」

 

 ……さて、どうするか……。

 信号は送った、すぐにZZは来るだろう。それなら今考えるべきはあの怪物の討伐方法だ。

 

「予定通り最大火力で吹っ飛ばすか? でもなあ……」

 

 無理に急いだ救出劇でかなりエネルギーを使用してしまっている。これ以上使うと採算が取れない。そうなるとエネルギーを抑えての戦闘になるが……。

 

「それであれ倒せるかって言うとなあ……」

 

 思わず愚痴がこぼれ出る。実際の所、大火力を用いずにあれを倒すことは不可能だ。かといって、それだけの火力を出せば元が取れない。どうすればいいのか……

 そんなことを考えていると、いつの間にかZZが到着していた。

 

「兄貴ー、軍まで持ってくのって誰ー?」

「この人!」

 

 背中の人をゆすってZZに示す。

 

「分かった! 軍までだな!」

 

 そう言うとZZは俺の背から人をもぎ取って走っていった。……一応けが人だからもう少し優しく……とは俺は言えないな。さっきまでの扱い的に。

 と言うか、あいつ軍の場所知ってたか? 

 

 

 ZZが走り出して十数秒後、通信が来た。

 

『兄貴~、軍ってどこだっけ?』

 

 案の定知らなかったらしい。

 

「……お前の今いるところから南に二キロだ」

『分かった! おっしゃー!』

 

 南に向かってZZの位置情報が進んで行くのを見届け、俺はビルに組み付いている怪物を見上げた。

 

「さて、どうにかしてみるか!」

 

 駆け出す。倒す手段はまだ決めてないが、兎にも角にも近付かなければ話にならない。二十メートルまで近づき、上へ飛ぶ。怪物はこっちを見ていない。なら……

 

「取りあえず、先制!」

 

 砲撃を無防備な背中に叩き込む。巨体が揺れ、怪物はのっそりとこっちを向いた。ただ、見るからにダメージは無い。

 

「……もうちょい近づいてみるか」

 

 距離を詰めての近接攻撃ならもう少し何とかなるかもしれない──そう考えた矢先、怪物が大きく口を開いた。

 

「っと、やべ!」

 

 怪物の口から熱線が放たれる。それは結構な精度でこちらを狙い撃ち、おまけに矢鱈と発射が早い。距離を詰めようにも回避でいっぱいいっぱいだ。避ける合間にどうにか撃ち返しているが、このままだと怪物が倒れるより先に俺のエネルギーが尽きて終わるだろう。

 

「なら、無理にでも距離を……詰める!」

 

 熱線が途切れた隙を狙い、怪物に向かって走り出す。同時に全身に多重装甲を展開し耐久性を上げる。

 これで何発かは防げる……はずだ。駄目だったらその時に考えよう。

 と、そんなことを考えていると俺に熱線が直撃した。

 

「っだあ、耐えたあ!」

 

 よし! これなら五回ぐらいは大丈夫だ! 被弾は無視してとにかく前に進み続ける事にする。直線距離はまるで離れていない。一瞬で怪物の間近に到達する。

 

「ふっ!」

 

 気合を入れてブレードを振るう。怪物はそこまで頑丈では無いようで、何も引っかかる事無く肉は切り裂けた。そのまま怪物の上を走りながら切り裂いていく。相手も慌てて俺を叩き潰そうとするが、まるで追いついていない。

 

「オラオラオラオラァ!!」

 

 このまま全身ズタズタにして……と考えていると突然怪物が大きく身を捩った。その衝撃で上に乗っていた俺は吹き飛ばされた。

 

 

「っと、そう簡単には……」

 

 倒せない──そう言おうとした瞬間、空中にいる俺目掛けて怪物が大きく口を開き、食らいついてきた。

 

「────!!」

 

 慌ててブースターで下に動いて避ける。だが怪物は執念深く俺を追ってきた。一瞬前まで居た場所からガチン! と歯の噛み合う音がする。どうなっているかは確認せずに急いで距離を取る。

 十分な距離を取ったことを確認し、振り向くと怪物はまだビルからは離れていなかった。ただ、その目は俺を睨みつけており、どう見てもこっちを敵視していた。

 

「どうすっかね……」

 

 怪物の機動性が予想より高い。近付いて攻撃しようにもさっきの様に吹き飛ばされてしまう。大火力では採算が取れず、遠距離からちまちま削れば熱線の嵐にさらされる。八方塞がりだ。遠からず軍も来るだろう。先に倒されては金が貰えない。

 

「ダメ元で最大火力試してみるか……」

 

 このまま倒せなければ大損。なら、損をするにしろこちらの方が幾らかマシだ。そう考え、体を大規模に変形させる。

 最大火力。これならこいつを倒しきれるだろう。それでも問題は一つ残るが……

 

「どうやって当てるかだな……」

 

 相手の機動力は高い。このまま撃ったとしても避けられる可能性が有る。となるとやっぱり……

 

「近付くか……」

 

 結局同じことになったがまあ良いだろう。どっちにしろ当てれば勝ちだ。そう考え、近付くためにブースターを展開する。先ほどから行っていた大規模な変形は既に完了している。後は近付いてぶっぱなすだけだ。

 とはいえ懸念が無いわけでは無い。武装を背負っている以上どうしても速度は落ちる。万が一にでも避けられてしまったら大損だ。ここは慎重に行こう。

 そう考え接近しようとした矢先、怪物が大量の熱線を放った。慌てて避ける。既にエネルギーはチャージし終わっている。もし背中の砲に当たれば大爆発を起こすだろう。

 

「……あれ、これヤバくね?」

 

 そう呟いた直後、俺の真横を熱線が横切る。もしあれが少しズレて居たら……背筋がヒヤリとする。不味い。これは不味い。さっきまでも苦戦していたとはいえ、一応生き残れる算段は有った。しかし今攻撃を食らったら……確実に死ぬ。

 流れるはずのない汗が体を伝うような気がしてくる。と、怪物が大口を開けこちらに熱線を放つのが見えた。

 

「うおおおおおお!」

 

 絶叫を上げながらどうにかそれを回避する。二発、三発、狙いは雑だが掠っただけでも誘爆しかねない。これ以上撃たれるのは不味い。さっさと仕留めないと! 

 

「っ!?」

 

 慌てて構え、狙いをつける。だが怪物は熱線を放つのを止め、ビルを駆け上っていく。予想以上の機動力だ。あそこまで縦横無尽に動くとは。

 ……いよいよ手詰まりになってきた。最大火力は撃つのに体を固定するため一瞬の溜めが入る。今の様子を見た限り余程の至近距離で撃たないと避けられる。だが、近付いた状態で溜めれば確実に的にされる。

 色々と厳しい状況になってしまった。撤退を視野に入れる必要があるが……

 

「大損だなあ……」

 

 出費がでかすぎる。正直、まともに考えたくない領域だ。一応、当てが無い事もないが……

 そんな事を考えていると上から怪物が大口を開けて迫ってきた。ブースターで前に吹っ飛んで避け、そのままビルの裏まで回る。……少し考えを纏めよう。壁面に体を固定して現状を整理する。

 大火力以外ではジリ貧になり、大火力を出そうとすると誘爆の危険がある上、回避しても体を固定する間に避けられるか攻撃をくらって終わりだ。固定せずに撃つ……は駄目だ。まず間違いなく反動で地上まで叩きつけられる。普段ならまだしも、最大火力を撃った後のエネルギーが枯渇している状態でそうなったら即死だろう。

 ……考えてみたが現状倒せる手段がないと言う結果にしかならなかった。一応、距離を取り直して遠方から最大火力を叩き込む手も有るが……ビルに組み付いている程度ならともかく、今の様に駆け上っている状態ではビルごと吹っ飛ばしてしまう。それに……

 

「距離なんか取ってる内に軍が先に倒すよなあ……どーすりゃいーんだ」

 

 思わず頭を抱える。現状は完全に手詰まり、選択肢は死ぬか大損の二択だ。死は論外として大損も嫌だ。これ以上生活費が無くなったら飢え死にしてしまう。場合によっては考えたくもない()()に頼ることになる。

 と、悩んでいるところにZZから通信が入った。

 

『兄貴! 今どんな感じだ!』

「ほぼほぼ手詰まり、最悪だ!」

『マジで! じゃあ良い情報が有るぞ! あの人無事に軍まで送れたぞ!』

「……良かったな」

 

 正直余り現状にとっていい情報ではない。

 

「何か他にないのか? こいつ(怪物)の弱点とか、大量に金が入るとか!」

『軍の人が言ってたけど頭潰したら死ぬってさ!』

「……他には!」

『後五分くらいで攻撃開始らしい』

「良い情報が何一つ無いな!」

 

 駄目だ、現状を変えるものがない。仕方ないが諦めて撤退しよう。あれに頭を下げるのは癪だが死ぬよりマシだ。

 

『あ、後そのビル新技術でめっちゃ安く建てれるからぶっ壊してOKだって』

「マジで!?」

 

 諦めようとしていたところにビッグニュースが舞い込んだ。それならどうにかなる……かもしれない。

 

『兄貴~何か役経つ情報あった?』

「あった! 助かる! じゃあな!」

 

 通信を切って怪物に視線を向ける。いくら機動力が高いとはいえ、流石にビルに張り付いたままの横移動は手間取るようだ。なら……

 

「こうすりゃ避けられ無いよな!」

 

 再びビルの裏側に回る。向こうからこっちは見えなくなったがこっちはセンサーで向こうの動きは完全に把握できる。

 その状態で壁面に体を展開した巨砲諸共固定する。二十本を超えるアンカーを打ち込み、衝撃吸収用のバンカーを展開する。エネルギーが収束し、辺りに熱風が吹き荒れる。裏側の怪物もこっちの様子に気付いたようだ。大口を開けて熱線を放つが、ビルに阻まれて反対までは届かない。

 充填されたエネルギーの余波で壁がきしみ始める。エネルギーの使い過ぎで意識も薄くなってきた。この辺りが限界だ。裏側の怪物に向かって照準する。

 

「行っけぇ!!」

 

 轟音を響かせ極太の光線が放たれる。眼前のビルを貫き、怪物の上半身に直撃。直撃箇所は完全に蒸発している。まず間違いなく仕留めただろう。

 

「おっしゃあ!」

 

 ガッツポーズ。と、見れば砲撃の余波でビル自体が傾き始めている。まー何とか……

 

「あ、やっべ」

 

 エネルギーを使い果たして体がうまく動かない。このままじゃ墜落する。

 

「あああああああああああ!!!」

 

 ヤバい。まともに腕さえ動かせない。ビルにこそしがみ付けている……とゆーか、離れようにも離れられない。展開しまくった固定器具のせいで体が完全にビルに固定されている。このままじゃビルの下敷きになる! 

 

「っこんの、くそおおお!!」

 

 どうにか体を引きはがそうとするが、ピクリとも動かない。壁から離れるのは不可能だ。

 

「なら……壁の方を……!」

 

 拳を壁面に叩きつける。エネルギー切れで力が入らないがそれでもひびを入れることは出来た。後は何度か繰り返せば……

 

「しゃおらぁ!」

 

 十回ほど殴った辺りで壁に大穴が開く。穴が開いたなら後は楽だ。無理矢理穴を広げ、食い込んだアンカーを壁ごと外す。外れたアンカー類を回収し、砲撃で開いた穴からビルの中に入り込む。

 ビルの中を突っ切り、急いで反対に出る。見えるのは傾いたビルの壁面。倒れる前にここを駆け下りれば……! 

 動かしにくい足を動かし傾いた壁面を全速で駆け下りていく。それでもそこまでの速度が出ない。

 仕方ない、残ってるエネルギーを足にできるだけ集中させてみよう。少しは速度も……

 

「おおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!?」

 

 ヤバい、予想以上に速度が出過ぎた。全く制御が聞かない。もう止まれないほどにまで加速してしまっている。と言うかこの速度で何かにぶつかったら落下とそんな変わらない気が……考えるのは止めよう。多分何かに激突するがビルの下敷きよりマシだ。せめてそう信じないとやってられない。

 

「今日は散々だ畜生ー!」

 

 

 

 

 

 

「だー、くそ、疲れた……」

「よかったな兄貴ー、特別手当出て」

 

 帰り道、最早まともに体を動かすこともできなくなった俺はZZに担がれていた。……こういう時あまり文句は言いたくないが、正直なところ背が足りていないせいで足がずっと引きずられている。

 

「……まあ、これでどうにか今月も持つな……。かなりギリギリだけど」

「おう! おれも助けた人から結構もらったし、何とかなるぜ!」

「は?」

 

 え、なにそれ。俺そんなの貰ってないんだけど。

 

「ZZ、幾ら貰った」

「三百万」

「良し俺に寄こせ」

「やだ」

 

 このやろう。そもそもあの人助けたの俺じゃねえか。

 

「いいから寄こせ、今月はマジでヤバいんだ」

「ええー、おれも欲しいのあるんだけどー」

「何がそんな欲しいんだ」

「え? 何か、あの空飛ぶアレ。最新のやつ」

「……竹とんぼでも飛ばしてろよ」

 

 そもそもよく覚えていない物を欲しがろうとするな。金は無尽蔵にあるわけじゃ無い。

 

「大体、空が飛びたいならあいつに頼んだらいくらでも飛ばしてくれるだろ」

「えー、あいつそういうの頼むとキレるだろー」

「だったらあきらめろー、そんで俺に半分寄こせ」

 

 正直、今はどれだけ少なくても金が欲しい。特別手当もエネルギー代と計算すれば支出はマイナスだ。

 

「割とマジで不味いから二十万は欲しいんだが……」

「まあ二十万なら……」

 

 やたらしぶしぶとZZが言ってくる。……元々それは俺の金のはずだが。

 

「取りあえず早く家まで送ってくれ……エネルギー切れで色々キツイ……」

「りょーかーい」

 

 ZZが走り出す。ただちょっと早すぎる気が……。ここ、歩道だぞ? 避難中で誰も居ないとは思うがそれでも結構危険……。

 

「おい、流石に早すぎるぞ。もうちょっと速度落として……」

「え? 何かさっきから制御きかねえから無理」

「はあ!?」

「メンテナンスサボったのが悪かったか……」

「それどころじゃねえだろ! サッサと降ろせ、俺はこれ以上怪我したくない」

「……死ぬときは一緒だぜ、兄貴」

「畜生ーーー!!!」

 

 相当な速度まで加速したZZが一直線に進み続ける。ええい、今日は本当に散々だ。取りあえず家にたどり着けたらZZは絶対にぶん殴ってやる。帰れるかは知らねえけどな!

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