九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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星砕き

 放たれた光の奔流が、地球に匹敵する大きさの惑星へ風穴を開け、アンキへ向けて突き進む。

 

「異界の方にも随分な奴がいるじゃないか。その程度じゃまだまだだがね」

 

 更なる星が出現する。その数は二。

 一つは煌々たる輝きを放つ恒星。一つは光さえ捻じ曲げる暗黒星。

 それが同時にアダムへ向かって放たれた。

 

「俺を評価できる立場か? 詐欺師紛いが」

 

 振るわれるは光剣。

 太陽さえ焼き尽くす程の熱と、巨星にも勝るサイズ。それが二つの星を両断し、蒸気へと変えた。

 

「詐欺師とは言ってくれる。あたしがそうならお前は操り人形か?」

 

 星が降る。

 一つ一つは精々直径数キロ程度。だが、余りに圧倒的な数が、驚異的な密度でアダムの視界を覆いつくした。

 

「その操り人形も崩せねえようじゃ、テメエは詐欺師が関の山だ!」

 

 ミサイルの豪雨が天へ振る。

 夥しい小惑星の群れを打ち砕き、石片に変え、粉に。

 

「なら、今すぐ残骸に変えてやろう」

 

 遠目に見れば竜巻のように、無数の天体がアンキの周囲を回り、立ち昇る。

 一つ一つが優に地球の大きさを超えるそれは、例えアダムであろうと真っ向から挑めば即座に機能停止まで砕かれるであろう代物だ。

 

「……生成エネルギー上限レベル3へ移行」

 

 アダムの全身からエネルギーが迸る。それは近付くだけでも惑星を溶かす熱量となり、先ほどまでに数千倍する兵器を生み出す根源となっていた。

 

「随分な出力だな。それ、どの位維持出来るんだい?」

 

 アンキの指摘に、アダムは顔を歪めた。

 この攻撃を凌ぐのであれば十分。なら、次の攻撃は? その次は? そもそも、アンキの攻撃の最大規模がコレと言う保証は?

 何も無い。だが、だからこそアダムは全開の出力で星の大渦へとその身を投じた。

 

 

「カトラさん、進捗どのくらいです?」

「七割です!」

 

 つまりあと九分か。どんどん大きくなっていく戦いに巻き込まれる前に脱出できるかは五分五分と言った所だろう。

 現在戦場から離れた所……俺の全開加速で離れている最中でカトラさんの解析を待っている状況だ。

 というか、カトラさん。滅茶苦茶あっさり復帰したな。即死してもおかしくないと思ってたけど。錬金術凄い。

 そして、そんな凄い錬金術が今、俺達を脅かし、そして希望にもなっている。

 カトラさんの解析が終われば一応問題が一旦は解決するが……

 

「……アダム、勝ってくれよ?」

 

 その上でアダムが勝利しないと脱出出来ても殺されるのだ。更に俺は友人を一人失う事になる。

 今いる場所からではZZの様子も分からない。色々駄目だった時あいつに遺言位は残しておきたいが。

 

「大丈夫です! XXXさんの友人なんでしょう?」

 

 カトラさんが作業に集中したままそんな事を言ってくる。

 ……別に俺の友人だからと言って信頼できる訳では無いぞ? 寧ろアレは変に信頼するとヤバい事になる筆頭だ。平気で無茶を押し付けてくる。

 

「友人ですけど全幅の信頼を置くには色々不安な奴ですよ!」

「その位が丁度です!」

「そうなんですかね!?」

「はい! あ、出来ました!」

 

 唐突にカトラさんが叫び、パキンと音が響いた。

 その瞬間、空間に黒い穴が開く。

 ひび割れが走り、何かが崩れるように広がる穴は黒々とした空洞を映していた。

 

「これで外に出られますよ!」

「ありがとうございます!」

 

 カトラさんの尽力に感謝し、手を引いて穴に飛び込む──寸前で一つの予感が足を止めた。

 あの時、俺達に料理のレシピを置いて行った人物。そして、その人物の残したレシピ。

 それはカトラさんがアンキさんに渡した冊子に雰囲気が似ていた。

 あのレシピを残した人物は錬金術師だ。そして、その上で俺達に気付かれずに近付く技量がある。

 ……わざわざ俺達に接触した理由は? 少なくとも俺達の動向を把握していた可能性は高い。それは、何時までだ?

 あの時までか? それとも、今までか?

 

「……カトラさん、今出るのはまずいかもしれません」

「どうしてですか!? 確かにこんな光景一生見れないかもしれませんけど、それでも命の方がちょっと重要ですよ!」

「そうじゃ無いです」

 

 命の方がちょっとなのか。薄々思ってたけどカトラさんもなんかズレてるな。

 

「すみませんカトラさん。俺、この世界に来た時、誰かに尾けられてたかも知れないんです」

「それは、どういう……」

「もしかしたら、外には俺達を追っていた連中がいるかもしれません」

 

 ここに向かっている最中で何も無かったのは単に追跡が出来ていなかっただけなのか、それとも泳がされていたのか。

 だが、こちらの思いつく事は向こうも思いつくと考えておいた方が良い。錬金術学会は、俺達の行動を想定していた筈だ。

 何故俺達に手を出してこないのか。これは単純にアンキさんの所にいるからだ。下手に踏み込めば敵対行為になる。

 では、この状況で外に出れば? ……確証は無いが、罠を張って待ち構えられている可能性は存在する。

 

「外に出ず、場所を……ここから距離を取るだけというのは出来ますか?」

「出来ます」

 

 間髪入れずに答えたカトラさんが、穴に手を突き入れた。

 鍵を捻る様に手を動かすと、またパキンと音が響き穴の形が変わる。

 しっかりとした様子で頷くカトラさんを見て、俺は穴へと入り込んだ。

 

 

 

「気付かれたのかしら」

 

 桃色の髪を地に付ける程伸ばした女が呟く。

 監視に気付かせた覚えは無い。あの怪物じみた機械人形も自分の存在には気付いていなかった筈だ。当然、あの二等学士にも気付かれてはいないだろう。

 

「あの少年が? 余り聡いようには見えなかったけれど」

 

 他の二人で無い以上、あの身体の殆どが機械な少年でしかありえないが……彼女の把握する限りにおいて、XXXは優秀に見えていなかった。

 

「出てこない、となると少し困るわね。キティラが対処するのを待つしかないし」

 

 最悪あの機械人形に負ける可能性もある。その言葉を内心で呟き、女は息を吐いた。

 

 そうなった場合はキティラの妨害も無くなるので踏み込み殺せば良いが……長年この世界の調和を保ってきた彼女として、その一角が崩れるのは複雑な気持ちでもある。

 

「しかしまあ……仕方ない事でもある、か」

 

 そう言って、バミューダ・アロは監視へと戻った。

 

 

「……こっちは大丈夫ですね」

「そうみたいです」

 

 宇宙空間のような場所で辺りを見渡し、危険が無い事を確認する。

 一応俺の予測が当たったのかここに追手らしき者はいない。一番良いのは外にもいない事なのだが。

 

「外の様子だけ探れたり出来ます?」

「ここまで精密な空間だと難しいですね……」

「そうですか……」

 

 できれば外の様子を探りたかったが、無理なら仕方ない。この場でアダムの勝利を信じよう。

 

 

 

 鉄が削れる音が響く。

 アダムの体が砕け、軋み、そして新しく造られる。

 

「驚異的な再生だ。あたしの攻撃にここまで耐えるとは」

 

 星の嵐。最早銀河の衝突にも並ぶそれを、アダムは真っ向から突き抜けようとしていた。

 だが、アンキの見立てではそれは果たせない。

 既にここまでで幾度も放っている当人からすれば一度でも耐えている事が奇跡のような攻撃を、幾度も耐え、迫ってきているのだ。見る限りでアダムの体は限界を迎えようとしている。

 しかし、アンキの顔に余裕は無い。それどころか、焦りのような物さえ浮かんでいた。

 

「……一体、いつまで耐える?」

 

 星嵐。そう呼ぶしかない光景の中、アダムが削れていく。だが、それは暫く前からずっと見ている光景だ。

 耐える、耐える、耐える、耐え続ける。

 これで終わりだ、と初撃以外の全てで思った。だというのに耐えられている。二撃、三撃、四撃、五撃、そして今。

 一撃で駄目なら死ぬまで攻撃を続けてやろうと思ったこの攻撃だが……すでに開始から十分の時が経っていた。

 

「さて、予測を間違えたか……」

 

 それでもアンキの調子は崩れない。

 余裕は無く、焦っていても自身のペースを崩さず、冷静に動く。

 優れた錬金術師の素養の一つを、アンキは体現していた。

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