九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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突破口

「……この空間の解析ってどの辺りまで出来るんですか?」

 

 アダムの勝利を信じて五分。何もする事が無い現状に苛立ちが募って来た。少しでも何か出来る事を探しておこう。

 

「かなり表層までが僕だと限界です。それ以上となると、何か取っ掛かりが無いと……」

「……なら、例えば俺が空間を突き破る位の速度で動いた場合はどうですか?」

「それなら、出来るかもしれませんけど……出来るんですか?」

「出来ます」

 

 そう言って、俺は全身を組み替える。

 頭部以外のほぼ全てを切り離し、限界まで軽量化。ブースターを取り付けた上でレールガンの発射台を作り、限界速度で射出する用意を完了させた。

 

「これで思いっきり加速すれば多分出来ると思います」

「……なら、これを」

 

 カトラさんが何かを渡してくる。何だこの板?

 

「遠隔で観測、測定を行ってくれる道具です。結構貴重ですので、無くさないでくださいね」

「分かりました。……それでは、行ってきます!」

 

 そう言って、俺はブースターを全開で点火した!

 

 

 

 星が渦巻く。吹雪のように襲い掛かる。その一つ一つが灼熱を放ち、アダムの装甲を溶かし続ける。

 だが、その中で尚、アダムは行動を変えなかった。

 突貫。

 最初から今までアダムはそれ以外の行動を取っていない。

 回避や防御と言った分かりやすい手段。迎撃などの方法も取っていない。ただ、攻撃を突き抜けようと直進し続けているだけだ。

 

「……いくら何でもおかしいが、何の狙いがある?」

 

 アンキは抱いた違和感を口にし、そこから考えを広げていく。

 それが分からない、という可能性は除外。アレがその程度も理解できないようには到底見えない。

 何か作戦があり、この行動を取っている……あり得る。

 アダムは到底持つようには見えない無茶なエネルギーの放出を続け、その上で無茶なダメージを食らい続けている。にも拘わらず今の今まで耐え抜いている。

 この結果、或いはその先に有る物が作戦の末だと言うのは的外れな予測では無いだろう。

 その場合、作戦が何かを看破しなければならない。

 

 あの行動で油断を誘っている? そんな事は起きない。

 何かこちらに有効な手段があり、それを使うための時間を稼いでいる? その可能性は多いにあるが、一体有効な手段とは?

 あの逃げた二人が何かをする? ゼロでは無いが、この短時間では難しいだろう。

 

「……何か切札があると考えるのが妥当だな」

 

 今耐えているのはその切り札によるものか。或いは単に自分が読み違えただけか。

 その疑問を確かめる為、アンキは一つの札を切った。

 

「在れ、在れ、在れ。黒よ、空よ、天球よ。今に、先に、過去に。ここに在れ、暗黒なる星々よ」

 

 紡がれる言葉に応じ、一つの星が呼び出される。

 それは黒く、それは暗く、それは何処までも飲み込むように。

 

 ブラックホール。そう呼ばれる星の終末の形。()()()()()

 

「さて、どうする?」

 

 光を飲み込む黒が、恐ろしい速度で持ってアダムに降り注いだ。

 空間がねじ切れ、時間の連続性が崩れ、最早攻撃を認識する事さえ困難となる。

 その中にあって尚、アダムの行動に一切の変化は無い。ただ、先ほどまでと同じく無謀な突撃を繰り返すのみだ。

 

「……変えず、か」

 

 それを見て、アンキは更に攻撃を激しくする。

 行動を繰り返すという事は、それに意味があるという事だからだ。

 ならば、どうする。

 

「企みの看破が出来ればいいが、それも難しい。今の最善を尽くさせてもらうさ」

 

 星が動く。

 数を、規模を、勢いを。何もかもを増してアダムへと殺到する。

 作戦の看破を難しいと判断し、上から叩き潰す戦法だ。

 

 その手段は浅はかだとアンキは感じながら、同時にこれしか取れない自分に歯噛みする。

 相手の出方が読めない以上、単純策以外取れないのだ。

 

「……読みには自信があるんだが」

 

 はあ、とため息を吐き、それでも出来ることを尽くしていく。

 位置は? 行動は? 出力は? 測れる事を測り、不明点を考慮し余裕を持たせ、その上に安全な一線を引く。

 その判断に間違いは無い。間違いは、無かったのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「突き破る自信があったのか……」

 

 それは予想の一つ。即座に対処を──

 

 焼き尽くされる。

 一瞬、アンキは何が起きたのか理解できなかった。

 なにせ、空間の星の七割が消滅したのだから。

 

「対銀河級存在兵装展開、出力90% 起動」

「……どこにそんなエネルギーが!?」

 

 防御、再生。それに使った以上最初に感じた物から減っていなければおかしい。おまけにそのエネルギーは明らかに維持も難しい程に無茶を利かせた物の筈だ。

 動揺するアンキに、アダムが口を開いた。

 

「そっちの攻撃のエネルギーを使わせて貰った。まともに維持が出来る物じゃ無いが、アレだけの攻撃だ。安定させるには十分だったぜ」

「……成程」

 

 眼前にある、この空間を丸ごと焼き尽くしかねない膨大なエネルギーを前に……アンキは、策を見抜けなかった悔しさを滲ませ、光へ飲み込まれた。

 

 

 

 

 回路が繋がる。速度は限界、だがその上に一つ上乗せだ!

 

「っ! おおおおおおおお!!!!」

 

 この空間で前回と同じように行くとは思えない。完成度が段違いだ。

 なら、どうする? 更に加速するための物を用意すればいい。

 星だ。

 この空間を恐ろしい速度で運行している天体の一つへ降り立ち、同方向へと自分を射出する。慣性の法則万歳だ。

 だが……この速度はちょっとまずいぞ!?

 

「何か軋まなかったか!?」

 

 一応防御を集中させたはずの頭部から嫌な音が響いて来た。ヤバい、まずい。

 口に放り込んだ例の道具は多分大丈夫だと思うが、これが駄目になったら本末転倒だ。

 

 視界が歪む。

 俺の視覚がやられたのか、それとも超高速で動いているので空間が曲がったのか。

 だが、どちらにしろ今の俺にどうにかする手段は無い。加速した以上、後は減速させるだけなのだが……この速度をどうにかするにはかなりのエネルギーがいる。そんなもん今は無い。

 一応もうトップスピードは過ぎた筈だ、視界の歪みも収まって来た。後は俺の耐久力を信じるしかない。あ、また何か軋んだ。

 

 

「……カトラさん、そっちは大丈夫ですか」

「そっちが大丈夫じゃ無いですよ!?」

 

 ようやく止まってカトラさんの元へ向かったとたんそう言われた。一応まだ何とかなっている筈なのだが。

 

「そんなヤバいです?」

「肩、肩!」

 

 肩……? あっ。

 

「ヤッバ」

 

 ガコン、と音がして一段上に上がる。外れ掛けていた。

 

「後、何か全体的に歪んでます!」

「マジですか……どんな感じです?」

「こう、左右が不ぞろいなのと足がちょっと変な方向に……」

 

 怖っ。

 

 カトラさんから体の違和感を修正して貰い、そして例の道具を渡す。

 

「……凄いですよ! 空間の綻びが測定できています!」

「俺からするとそんなので測定できる方が凄いんですけど……」

 

 どう見てもただの板にしか見えないのだが……何か錬金術師にしか分からない物が有るのだろうか。

 

「後はこの起点から空間に穴を開けて……」

 

 ガチャガチャとカトラさんが板を中心に幾つもの道具を並べ始める。作業が終わるまで、周りの警戒でもしておこう。

 

 

 

「お前の負けだな」

「……そうみたいだね」

 

 喉元を掴み、アンキを吊り上げたアダムが淡々と言い放つ。それを聞いて、アンキは少し残念そうに受け入れた。

 

「で、なんの嫌がらせのつもりだ?」

「嫌がらせな物か。せめてあたしからくらい逃げて貰わないと、バミューダ相手には邪魔にしかならない」

 

 アンキの返答にアダムは舌打ちで返し、次の問いをぶつける。

 

「バミューダ・アロの弱点は」

「あたしが知る筈は無いだろう。精々壊晶が有効だって事くらいさ」

 

 その言葉に眉を顰め、溜息を吐く。

 元々そんな情報に期待してはいなかったが、予想以上に何も無いのだ。

 

「……あんた、あの鉄の小僧に随分と肩入れしているね」

「うるせえよ」

 

 フン、と鼻を鳴らし手を離す。そうしてアダムはその場を立ち去って行った。

 

 

 

 

 自分以外誰もいない、暗黒が広がる空間。そこで唐突にアンキは口を開いた。

 

「どうせ来ているんだろう、バミューダ」

 

 全面戦争と行こうじゃ無いか──

 

 そう呟いたアンキの声が、宇宙の如き空間へ響き渡る……

 

 

「……そんな」

「何か有ったんですか?」

 

 外を調べていたカトラさんがいきなり顔色を変えた。決して良い色では無い。

 

「まさか、そこまで?」

「本当に何が有ったんですか?」

 

 再度尋ねると、カトラさんが例の道具へ何かを書き込み、俺の前に映像が表示された。

 

 そこに、桃色の髪をした女性が映っている。……この人、もしかして──

 

「四元法術理錬金術学会会長……バミューダ・アロ……」

 

 敵の大ボスが直に来ている。明らかに危険な状態であった。

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