九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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衝突と集結

「さて、十分堪能した事だし話を進めようかね」

「……人権団体を呼んでくれ」

 

 全身バラバラにされた……まだ変な感覚がする……

 

「おい馬鹿、間抜けな顔になってるぞ」

「テメエ、本気で覚えてろよ……」

「どっちかっつーとお前の方が先に忘れそうだけどな」

 

 この野郎。いつか仕返ししてやるぞ……

 

「それで、向こうは分断策を使ってくると読んだんだね?」

「はい。そして、その対抗策を考えていたのですが……」

 

 あんたらの横やりのせいで中断されていたんだよ。

 

「その考え自体は間違っちゃいない。ただ、あんたらの力量じゃあ何を考えても無駄だ」

 

 ……薄々分かってはいる。極論、俺達二人は足手まといと言って良いのだ。

 

「という訳で、最初から分断していく」

「最初から?」

 

 どういう事だ?

 

「あんたら二人、あたしらから離れた所で逃げ回ってな。そっちにも少しは来るだろうけど、それ位は対処してもらわなきゃ困る」

「……出来るんですかね」

「難しくないでしょうか……」

 

 あのレベルの実力者複数だとどうしようも無い気がする。カトラさんの壊晶が有効だとしても、かなり厳しい……というかほぼ不可能だ。

 

「一応あたしらの方でも数は引きつけておくさ。そっちに行くのは十かそこらって所だろう」

「……それなら、何とか……なるか?」

 

 出来るだけ一撃必殺で高速で動きながらで何とか希望が……

 

「それと、そっちに行った奴が向こうで錬成したら要注意だ。自分を増やし始めるからね」

「無理じゃ無いですか?」

 

 希望が踏みにじられた。どうしろと? 一体一体が勝てるかどうかも怪しい奴が十。その内一人でも錬金術を使ったらその数が増える。

 

「流石に纏めて十は来ないと思うけどね。それでも、向こうから発見されたら終わりと考えた方が良い。準備される。そっちから動いて、見つかる前に倒していくのさ」

「無理ですよねそれ」

「いえ……その条件、僕たちのいる場所次第では可能……かも、しれません」

「……本当ですか?」

 

 ぶっちゃけどんな場所でも無謀だと思うんだが。

 

「例えば、ですけど……」

 

 

 

 

 無数の人影が蠢く。

 それは最早巨大な生物のようにも見え、写す影は一個の怪物と成っていた。

 

「アンキ、今なら見逃してあげるわ」

「それはあたしのセリフさ。見逃してやるから引きな」

 

 アンキの本拠地たる天導球。そのドーム手前の森林地帯で両者は相対した。

 

「……あなたも調和の大切さは知っているでしょう?」

「何が調和だ。アレが怖いだけだろう?」

「ええ。調和が崩れた時、アレが何をするのかとても怖いわ。世界が滅ぼされてしまうかも知れないもの」

 

 にっこりと笑うバミューダに、フンと鼻息を鳴らすアンキ。

 両者の間に張り詰めた空気は今、限界を迎えようとしていた。

 

「臆病者に用は無い、さっさと帰りな」

「ええ、こちらも怖れを忘れた凡愚に用は有りません。大人しく彼を渡しなさい」

 

 張った糸が千切れるように、両者は動いた。

 先手はアンキ。周囲一帯を宇宙が包む。

 後手はバミューダ。ただでさえ多かった人影が爆発的に増え膨れる。

 

「ま、こうなるか」

「前々からと何も変わりませんわね」

 

 十六の惑星が連続で降り、一千億の単位で存在する人間がそれを受け止めた。だが星は灼熱を放ち人を焼く。そこで、更に人間の数が膨れ上がった。

 

「厄介だね」

「そちらこそ」

 

 一兆を超える数の人間が動き、一斉にアンキの空間を崩しにかかる。それの阻害も兼ねて出現したのは三十五個のブラックホール。

 見る見るうちに吸い込まれていく人型だが、余りにも数が多い。おまけにブラックホールへ引き込まれながらも陣を書き、別の個体がそれを起動し、更に別の個体が術式を改良する。

 膨大極まる命のリレーがブラックホールを崩したのはわずか数秒後の事であった。

 

「総当たりとは芸が無い」

 

 次に現れたのは青白く輝く超巨星。太陽の二万倍近い大きさで億単位の熱を放出するその星はサイズの比率を鑑みて尚目に見える程の速度で迫って来た。

 

「星を落とすだけのあなたに言われたくないわ」

 

 灼熱を防ぐ壁を作り、熱を散らし、星を分解していく。

 優れた錬金術師でもどれだけの時間がかかるか分からないその作業は圧倒的な数により短縮される。

 

 夜空の天球に瞬く星全てを自在に動かすアンキ。

 如何なる数よりも多く膨れ上がるバミューダ。

 両者の戦いは、始まったばかりだ。

 

 

「こっちにも来たか」

 

 天空に居座るアダムの周囲を、人影が取り囲む。

 数は数えるのが億劫な程。人間が空と言う空間を埋め尽くし、光を遮る黒雲となる光景はアダムをして異様な状況であった。

 

「ま、良い。取りあえず全員死ね」

 

 爆熱が放たれ、近くの人型が蒸発する。

 だがそれも僅か一部。残りの大部分には傷一つも付いていない。

 圧倒的な数が組み上げた防御の術式は、アダムの攻撃さえ軽減させていた。

 それを見て尚アダムに浮かぶ気だるげな、一種余裕のある雰囲気は崩れない。

 

「面倒だな、さてどうするか」

 

 アダムの体から夥しい物量の兵器が出現する。それは広がる人波と比較してもまるで見劣らない程だ。

 

「……厄介ね」

「お互い様だ」

 

 丸のこの衝突を弾き、バミューダが呟く。

 膨大同士の削り合いが始まった。

 

 

 

「XXXさん、そっちです!」

「はい!」

 

 全速力で走り抜け、現れたバミューダに近付く。

 そうすれば背に乗せたカトラさんが壊晶で相手を砕いてくれる。

 

 カトラさんが言った、こちらが先に相手を一方的に見つけられる場所。それ即ち、アダムとアンキさんの戦う場所の狭間─アンキさんのいたあのドームの中だ。

 俺達に辿りつくにはどちらかの戦いを抜けてくる必要があり、精密に作られた空間は侵入者を素早く検知する。

 そこで俺が全速力で突っ込んで反応する前に倒すと言う訳だ。

 

「次右です!」

「はい!」

 

 姿を見せた全く同じ姿の女性に飛び蹴りを食らわせ、怯んだ隙にカトラさんが壊晶の一撃を浴びせ掛ける。これで五体目。戦いが始まってから一時間程の事だ。

 

「……カトラさん、大丈夫ですか?」

 

 このドームの空間と自分を繋ぎ、その上で攻撃用の錬金術を組み続けるのは相当な負担の筈だ。

 

「まだまだいけます!」

 

 ……何と言うか、空元気感が凄い。

 

「本当に駄目なら言って下さいね?」

「はい! でもまだまだいけますよ!」

 

 ……大丈夫かな。

 

 

 

 

 雨粒どころか波のように星が降り、それに倍する規模の人波が押し返す。到底この世の物とは思えない光景は二人の錬金術師に取って、何ら戦いの中心では無い。

 

「消費二千億。火よ、水よ、土よ、風よ。四元に連なりただ崩せ」

 

 二千億人の自分を使い、詠唱と共に組み上げられた錬金術が星の大波を切り開く。

 それに対し新たに出現した天体は崩れず阻む。先ほどまでの物とは組成が違うのだ。

 

 錬金術師の戦いで何をするかは極めて単純、相手の理論を知るだけだ。

 相手が何を中心に錬金術を組み上げ、展開しているのかが分かればその時点で勝敗は決する。錬金術に取って、理解とは術を使う前提であり、全てなのだから。

 故に両者は互いの錬金術をぶつけ合い、互いを探る。

 

 星の組成、空間の造り、それらを動かす中心式。

 

 無限のホムンクルスの共通点、構造式、生成理論。

 

 両者が重要とするそれらを探り当てる事こそが、この戦いの本題であり目的。今ある物質的な破壊等、ただの目くらましでしかない。

 

(……天体核に人体論を組み込んでいるのかしら。それを広げて宇宙に?)

(ホムンクルスの複製……全く同じなら一つウィルスを流せば崩せるけれども…‥)

 

 より深く相手を知ろうと、踏み込んで行く。それは自分の情報も相手に知られる諸刃の剣だ。

 しかし、知らぬはあり得ない。錬金術に取って、それは論外だ。

 

(星の運行は実際の物と同じ? 観測外までは?)

(複製か、創造か。ちょっと試してみるか?)

 

 両者の戦いはより深みを増し、それに比例するように規模を増幅させていく。

 天体は極寒と極熱と重力を纏い、増え続ける人間は宇宙さえ埋め尽くす程。

 

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「……これは!」

 

 アンキは即座にそれを引き起こした存在を看破する。

 錬金術師の作った空間、物質に変化を加えるならばそれを理論単位で知る必要がある。一瞬で相手に術を塗りつぶされる様なら、それは圧倒的な実力差があるという事。

 しかし、今自分たち相手にそれを出来る者等まずいない。

 ある例外を除いては。

 

「Warrrrrrrrrrrrrrrrrrrrs!!!!!!!」

 

 轟く咆哮は万物を灰に。人の波が、星の海が、灰に変わる。

 理解していない物をも変える、錬金術の番外にして厄災。宇宙さえ灰に変える終末理論の提唱者。

 

「ウォーズ。何でこんな時に」

 

 アンキは襲い来た厄災に、溜息と弱音を吐いたのだった。

 

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