放たれた拳が星を灰の塊に変える。
動きを止めようと紡がれた術が触れる傍から灰と変わり、術の元である人間に薙がれた蹴りはその全てを灰に帰した。
「厄介な奴だよ、全く!」
錬金術の基本たる理解を経由せず機能する術は事実上如何なる物質も変異させる絶対の矛だ。どれだけ強固な物質を壁にしようと、複雑な陣で阻もうと何もかも灰となる。
一瞬でも対応を間違えれば即座に灰の人型となるだけの状況を、アンキはただ厄介と評した。
「バミューダ! そっちに構ってる暇は無い! 一旦停戦だ!」
言うが早いか、バミューダへと向かわせていた星の海を全てウォーズへ向けなおす。
手当たり次第に暴れ狂うだけのウォーズへ向けて、惑星の津波が襲い掛かった。
「Warrrrrrrrrrrrrrrrrrrs!!!!」
「相変わらず煩い奴だ!」
響いた範囲全てを灰にする咆哮も、対策があればただの騒音だ。
ウォーズの錬金術はその性質、理論、中心核まで全て知っている。何故なら極めて厄介だから。
ウォーズの研究成果に拘泥しない性質、それらを勝手気ままに振るう在り方。それらの事から彼の使う錬金術は、一部の優れた錬金術師にとっては公然と知られる物と成っている。
だが、それでも極めて危険かつウォーズの性質上対抗策が少ない錬金術だ。
「自分が灰になっちまえば良い物を!」
ウォーズの錬金術を知った者の多くは自分でもそれを使おうと試し……その全てが灰となった。
認識する物全てを灰に変える錬金術は最初に認識する自分を対象にしてしまう。ウォーズがこれを問題なく使えているのは、攻撃するものしかまともに認識しないと言う余りに狂った精神性故だ。
「一体あたしらに何の用だ!」
作り上げたた超巨大質量天体に超速度での核融合反応を繰り返させ、瞬時にその終末を引き起こす。
連鎖的に発生したガンマ線バーストが、ウォーズへと襲い掛かった。
「そんな事もできたの、あなた」
「あたしが見せたんだ、そっちも見せな」
「ええ、良いわ。どうせ切札は残しているのでしょうし」
高濃度放射線に短時間で被曝したウォーズの視界が一瞬揺らぐ。
だが、それだけだ。
信じがたい程強靭な細胞は平然と耐え抜き分裂を始め、DNAの螺旋は元の形を取り戻す。
ガンマ線バーストからウォーズが復帰したのは、僅か0.3秒後の事。
「増えよ、満ちよ、埋め尽くせ。分かれ、集り、創りあげよ」
響く言葉に合わせて膨れ上がり続ける人波は、ウォーズへ集い、その体を押しつぶしていく。
当然触れた傍から灰になっていくのだが、億や兆を超え、京の単位で増え続ける群衆は灰の上からウォーズを埋め尽くす。
外から錬金術を使い押し込められていく人海はゆっくりとその体積を縮小させていった。
「ブラックホールでも作るつもりか?」
「ええ。爪先程にまで押しつぶすわ」
会話の最中にも人の球体は縮んで行く。既に精々が一軒家程度の大きさだ。到底そこに十京を超える人間が詰まっているとは思えないだろう。
「……あれで終わるとは思わないけれどね」
「それは当然でしょう? この程度で終わりなら私たちと並び称されないわ」
みるみる内に凝縮されていく球体とは裏腹に、二人の警戒は上昇していく。
それは、ウォーズにだけでは無く戦っていた両者の間でもだ。
「……あら、先に始めるの?」
「まさか。今あれから意識を逸らす暇なんて無いよ」
常人なら意識を飛ばす程の殺気をぶつけ合いながら、並んだ二人は互いを見る事無く潰れていく球体を睨んでいた。
その視線の先で、球体が動く。
最初は目の錯覚程度。次の一瞬で明確に、それに気付いた直後に球体から腕が突き出た。
「Warrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrs!!!!!!!!!!」
咆哮と共に腕が虚空を殴りつけ……灰となった空間が崩れ落ちた。
「あいつ、実体の無いものもできたのか」
予想外な光景にも動じず、アンキは即応。次々と崩れ落ちる空間に目もくれずウォーズの真横で星を創造した。
爆発が巻き起こる。
次々と発生した恒星が爆発し、膨大な放射線をまき散らしながらブラックホールとなり果てていく。
当然その程度の重力ではウォーズを抑え込む事は出来ない。目的は、莫大な重力による時空間の変質だ。
「近付かれるとまずいんでね。そこで寝てな!」
灰に削れた空間が重力で歪み、ウォーズの体を押し返す。
轟く咆哮と振るわれる四肢が徐々に離れ、空間の外へと押し出されていく。
「バミューダ、あんたも手伝いな!」
「一応敵どうしでしょう? 全く……」
不服気な口調とは裏腹に行動は素早い。一瞬にして組み上げられた陣は自分を六億体程消費して効果を発揮した。
空間が捻じれる。
灰に変わる空間が次々と断たれ、開いた穴へウォーズが落ちていく。それを止める手段を彼は持たない。
「……やっと終わったか」
「そうね。外の私が対処してるみたいだけど」
「あたしは関わらなくて済む。……それじゃ、続きと行こうか」
出現した天体に兆単位の人間が飛びついた。戦いはまだ終わらない。
「何だありゃ!」
展開した兵装の三分の二が一瞬にして灰に変わる。瞬時に新たな兵器を展開し直したが、アダムに浮かんだ驚愕は消えない。
広げた兵器はしっかりと防御を固めている。それは物理的な物よりも、概念的な物…‥理解を阻む認識阻害プロテクトや能力等の干渉を退ける異法則拒絶装甲。その全てが諸共灰になったのだ。
「テメエの手駒か?」
「そんなわけ無いでしょう。アレが手駒なら私は神よ」
その言葉と、暴れ狂う人型が無数のバミューダにも攻撃をしているのを確認して、アダムは舌打ちをした。
「じゃあただの乱入かよ! 面倒くせえ!」
叫びながら広げた兵装は悉く遠距離戦用。アダムはウォーズの性質に気付いていた。
その事に気付いたバミューダは周囲から自分を下がらせる。無駄な損耗を避けるために。
「邪魔だ! 死んどけ!」
光の奔流がウォーズの体に突き立ち、その身を焼く。だが、それは生命を断つには至らない。
その事に舌打ちしながらアダムは更に大規模な兵器群を展開した。
重苦しい爆発音が途切れずに響き続ける。一切の間を置かずに発射されるミサイルは最早陸地だ。
当然触れた物からただの灰に変わる。だが、アダムの撃っているミサイルは単に爆発を起こす物でも金属片をまき散らす物でも無い。
ただ、エネルギーと呼ぶしかない、破壊を引き起こす性質その物。九十世紀での戦争で使用される存在ではあるが、アダムの使用するそれは常軌を逸した出力をしていた。それこそ、一つ一つが天体を削り取る程に。
「……エネルギーが灰に変換された?」
設定した性質になる筈のエネルギーが、上から書き換えられた。
アダムの知識を以てしてもそうとしか表現できない余りにも理不尽な光景。
そもそも接触という概念から遠い筈のエネルギー。にも拘わらずウォーズはそれに触れ、灰と変えたのだ。
「無茶苦茶な。世界の認識どうなってんだ」
法則が違う存在とは言え、認識する世界はかなり近い物になる筈だ。
だが、今まさに見せられた光景はアダムのそんな常識を覆すものであった。
「アレの対処を優先するのかしら?」
「舐めんな。テメエも纏めて相手してやるよ」
アダムの全身からエネルギーが迸る。それは、先刻アンキを相手したときよりも更に膨れ上がっていた。
「生成エネルギー上限レベル4へ移行。目標、超銀河団級存在」