九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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終末と無尽

 光が視界を埋め尽くす。 

 それは触れる物全てを消し去る圧倒的なエネルギーの塊だ。

 その中心にて佇むアダムは絶え間なく変形を繰り返し迸るエネルギーを兵器の群れへと変化させていく。

 

「……手が出せないわね」

 

 巨大なエネルギーの球体と化したアダムに、バミューダは攻撃する手段を持たない。

 一兆人を消費した一撃ですらかき消される始末。単なる出力勝負では一切の勝ち目は無いだろう。

 そうなるとエネルギーの性質を解析し、錬金術の対象に取るのが最適な手段だが……それも難航していた。

 

「ただのエネルギーじゃ無い。破壊という結果こそ変化しないけれど、それまでの性質や過程が常に変わり続けている。……一体どういう物なのかしら」

 

 解析が完了する前にエネルギーはその性質を変え、理解を阻んでいた。

 十兆人での総当たりでさえまるで追いついていない変質の速度。まず解析は不可能……では無い。

 

「変化する性質そのものを理解する。さて、一体どういう条件かしら?」

 

 膨れ上がり続けるエネルギーに自分の群れを飲み込まれながらも、バミューダは笑って解析を始めたのだった。

 

 

 

「Warrrrrrrrrrrrrrs!!!!!!」

 

 万物をかき消すエネルギーの中で咆哮が轟いた。

 ウォーズの視界には自分の身を焼くエネルギーも、それを知ろうとするバミューダの姿も入らない。

 ただ最初からアダムだけを睨みつけ、攻撃を向けていた。

 それ故に一切に頓着せず、銀河すら瞬時に蒸発させるエネルギーの只中を突き進んで行く。

 圧倒的な破壊がゆっくりとアダムに近付いていた。

 

 

「……面倒な」

 

 溢れ出すエネルギーの中心でアダムは呟いた。

 今の出力の維持はかなり厳しい。兵器群を用意してこそいるが、それが真っ当に通用する相手では無いと十分に理解している。

 故にエネルギーの性質を常に変化させ続け解析されないようにし、単純な出力勝負に持ち込んでいるのだが、予想外にどちらも倒れない。

 ウォーズはエネルギーの奔流を物ともせず迫り、バミューダはどれだけかき消そうとも一向に数を減らさず増え続ける。

 このままではアダムが先に自滅するが有効な手段は思いつかない。

 ここまでのエネルギーを出力している状態だと自由に動く事が出来ず、固定砲台のようになってしまうのだ。

 

「厄介な奴らめ。大人しくしてりゃあ良い物を!」

 

 ならばとアダムは更にエネルギーを放出する。身体が軋むが、その程度であればどうにでもなる。無茶苦茶な捨て身が、遂にバミューダの増殖ペースを上回り、ウォーズの足を止めた。

 

「……一応の保険は掛けとくか」

 

 

 

 恐るべきエネルギーの奔流。それは増殖を続けるバミューダの殆どをかき消して尚その勢いを増すばかり。

 だが、着実に解析は進んでいた。

 

(性質を常に変え続けるエネルギー……αとでも呼ぶべき何か。変質の限界は未だ不明。だけど、変容にかかる時間凡そ十二億分の一秒から特定の性質に固定されている時間で変化のインターバルは測定出来た。常に一定して三億分の一秒。

 この間隔がエネルギーの性質による物か生成者の機能限界による物かなら、恐らく機能限界。何故ならこちらの干渉でエネルギーの性質は多少変化し、それはインターバル間でも行われたから。

 そしてここで重要になるのはエネルギー変質の条件。

 何かの信号? 事前の操作? 意識? 時間? 重力? 電磁波? 外部干渉?

 まだ分からない……けれど、インターバルが終わる瞬間、あの機械は何かを行っている。それを見抜ければ私の勝ちね)

 

 残る自分の数は一兆程。増殖よりも消えていくペースが速く、もうこの数からは減り続けるだけ。

 だが、完全にこの場の自分たちが消滅するまで三十分はかかる。

 それまでにアダムの解析を行えるのか? 数が減ればそれだけ解析のスピードも精度も落ちる。間に合う可能性の方がかなり少ない。

 それを思考して、バミューダは笑う。

 

「分の悪い研究ね。けれど、無い予算と時間をやり繰りするのは慣れてるのよ」

 

 そう呟き、彼女は更に思考を加速させた──

 

 

 破壊が蠢く。

 それは自分の肉体が壊れる事など気にも留めず、足を進めた。

 目的はただ破壊のみ。そのためだけに、ウォーズはアダムへ向かい続ける。

 とうの昔に地表を飛び出した戦いの規模は、超銀河団を飲み込む程馬鹿げたエネルギー球を生成していた。

 その中央近く、僅か二百キロ程度にて、ウォーズはエネルギーの大元たるアダムを発見する。

 勢いを増すエネルギーの放出は確かにウォーズの身を崩し、消し去っていく。

 だが、止まらない。

 破壊の咆哮と共に、ウォーズは中央のアダムへ向けてにじり寄っていく。まるで宇宙がゆっくりと収縮するような圧がそこにはあった。

 

「Warrrrrs!!」

 

 咆哮を浴びたエネルギーが灰となり、直ぐに掻き消える。

 ウォーズがエネルギーを灰に変える速度より、エネルギーが灰をかき消す方が遥かに早い。

 それ故にウォーズが触れたエネルギーは灰にならない……ように見える。

 だが、そこには余りに歴然とした違いがあった。

 それを証明するかのように、ウォーズが、ゆっくりと、槍を投げるような構えを取り。

 

「!? んだと!?」

 

 アダムの体の三分の一が灰となった。

 

 バミューダはまだ自分を解析出来ていない。ウォーズも、まだたどり着いていない上、自分の所にたどり着く頃には消し飛んでいる筈だ。

 だと言うのに、全てを消滅させる圧倒的なエネルギーで自分を覆ったこの状態で、攻撃を受けたのだ。

 その事にアダムは驚き、同時に冷静な対応を行う。

 身体の修復は不可。膨大極まる出力エネルギーは制御し切れず、ただ放出しているだけ。ならば、今の体を組み替えて損傷を塞ぐ。

 

 一瞬を置き去りにする程僅かな時間で出された結論は、速やかに実行へ移された。

 削れた身体が組み代わり、一回り小さな大きさとなる。しかし、エネルギーの放出に阻害は無く先ほどまでと変化は無い。

 しかし、問題は起きた。

 

「っ!」

 

 放出するエネルギーの一部が大きく削られる。行ったのはバミューダ。みるみる内にエネルギー球が彼女へ変わっていく。

 

「……マジかよ。もう解析しやがったのか」

 

 呆然と、アダムは呟いた。

 

 

 

 

「危なかったわ」

 

 解析が終了したとき残って居た自分は二万人程度。後数秒遅ければ、或いはアダムの損傷によるロスが無ければ全て飲み込まれていただろう。

 しかし、その危険を冒した甲斐は有ったのだ。

 

「アレの来た世界ではこんな物が使われているのかしら。随分便利ね」

 

 極めて不定と形容できる、あらゆる性質に変貌するエネルギー。観測によってその性質に変化を加えて運用されるそれは、九十世紀に置いてあらゆる場面で使われるエネルギーだ。

 

「まあ、あんな出力ではまともに運用出来ないでしょうけど」

 

 バミューダの予測通り、エネルギーを変換した自分達の中央にいるアダムは、満身創痍の有様だ。

 

「さて、ここから何か逆転の一手はあるのかしら?」

 

 アダムの観測する範囲全てを埋め尽くしたバミューダが問いかける。それにアダムは心底鬱陶しそうな表情を浮かべた。

 

「……二人で仲良く喧嘩してな!」

 

 その体が爆ぜる。

 威力自体は精々巻き込まれたバミューダが二万人程消滅しただけ。問題は、アダムの体も消滅した事だ。

 

「研究しようと思ったのだけど。……まあ、今の状況じゃどっちにしろ難しいかしら?」

 

 

 咆哮が轟く。

 膨大なエネルギーによって抑え込まれていたウォーズが動き出したのだ。

 

「Warrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrs!!!!!!!!!」

 

 瞬間的に二億人が灰になり、更に広がっていく。

 だが、アダムのエネルギーを吸収して自分を増やしたバミューダからすればほんの僅かな消耗だ。

 

「これ以上好き勝手される前に対処しないとね」

 

 終末の灰塵と、無尽の人波が対峙した。

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