「どういう事なんだよ!」
明らかにおかしい。事前に想定していた数に比べて多すぎる。おまけに途中からアダムと連絡が付かなくなった。何が起きた? まさかアイツ負けたのか?
「次……左です!」
「分かりました!」
ヤバい、カトラさんが割と限界に来てる。
そもそも任せている役割が多いのだ。侵入した相手の感知に、その撃破。単に目的地まで移動している俺と違い負担が大きいのは当たり前だろう。
「カトラさん、そろそろ休んでください!」
「まだです! まだ! いけます!」
「流石に無茶です! さっきから目と鼻と耳からずっと血が出てますよ!」
え、と言いたそうな表情でカトラさんが自分の顔に触れる。気付いて無かったのか?
「……! 一旦引きます!」
「待ってください、まだ……」
カトラさんが引き留めてくるが、明らかにもう限界だ。外の戦況は分からないが、ここでこの人を戦わせ続けるのだけは駄目だろう。
「カトラさん、取りあえず出来るだけ安静に……」
「あー、それやるんだったら外には出るな。面倒だ」
「アダム!?」
唐突にアダムの声が響く。一体どこから……?
ガキン、と体の内で何かが鳴った。
「十秒待て、修復する」
俺の体の一部が勝手に切り離され、転がり落ちる。驚くほど直ぐに足りなくなった部分は修復されたが、切り離された一部分は独立して変形していた。
呆然とする俺の視界で、初めは単なる機械部品だった物があっという間に人間大にまで膨れ上がり、最終的に人型……アダムの姿を取った。
「よし、もういいぞ。そいつこの空間から切り離して寝かせろ」
「いやまず説明しろどういう事だ!?」
「うるせえ、後だ。マジで死ぬぞ」
とんでもない疑問を残しながらも、死の一言に慌ててカトラさんを寝転がす。
「切り離しってどうすれば!?」
「ぶん殴って意識飛ばせ」
「死ぬだろ! 俺の馬力舐めんな!」
「あの……取りあえず、手元に道具……円盤状の物を持たせて下さい」
「……目、見えて無いんですか」
想像以上にヤバい状況に出ない冷や汗をかきながら、白衣の内に入っていた円盤をカトラさんの手に持たせる。
するとカトラさんは見えていないにも関わらずスムーズな動きでそこに陣を書き、それを上から指でなぞった。
「コレで……僕の空間への接続は……切れました」
「なら寝てろ。後は俺とコイツがやる」
それを聞いて、安心した表情でカトラさんは眠りについた。……死んでないよな?
生きている事を確認してアダムへ向き直る。聞きたい事は幾つもあるぞ。
「取りあえず、質問だ。まずお前連絡取れなくなったけど何が有ったんだ?」
「まずそこかよ。……負けたんだよ」
かなり単純に答えて来たが、そこには物凄く悔しそうな雰囲気が滲んでいた。
「それじゃあ、何でお前俺の体から出て来たんだ? どういう事だよ」
「戦ってた体が完全に使い物にならなくなったんでな。予備パーツから復帰させて貰った」
「……その予備パーツとは」
「言った通りの予備だよ。本体が駄目になった時の復帰用だ」
「いつから俺に仕込んでやがった!?」
「結構前だな。知り合って半年辺りだ」
「……四年以上こんなの仕込まれてたのかよ」
この野郎、俺に何の断りも無く……
「使う予定は無かったがな。……何なんだあの乱入野郎。完全に想定外だ」
「何か有ったのか? 単に負けただけじゃなくて?」
「……なんかキチガイが殴り込んできた。訳が分からん」
「訳が分からないのは俺なんだが……」
その説明で何が分かると言うんだ。精々お前が負けた言い訳を言っているようにしか聞こえないが。
「何だその失礼な事を考えてる顔はよお」
「いだだだ! 考える位良いだろうがよ!」
人の頭思いっきり握って来やがって! 自分の握力考えろ!
「俺の前では駄目だ。
で、その乱入してきたカス何だが……四大錬金術師っての居ただろ」
「カトラさんが言ってたな」
味方してくれてるアンキさん、敵対してるバミューダ、そしてウォーズとカリオストロの四人。
ここに居ない二人の実力は分からないが、アンキさんを見た限りでは間違いなく途轍もないものなのだろう。
「多分それの、ウォーズって奴だ」
「……何でこの場に? 壊晶狙いか?」
「知らん。明らか俺以外も狙ってたしな」
俺がいなくなったらバミューダの方に行きやがった、とアダムが吐き捨てる。
……何だろう、完全に目的不明だ。言われた事だけで考えると無差別に暴れているだけなのだが。
「今、どうなってるんだ?」
「ウォーズの事ならバミューダと戦ってるだろうな。アンキもバミューダだ」
戦況は分からねえがな、とアダムは付け加えた。
さてこの状況、どうするべきか。
カトラさんは限界、アダムも素振りこそ見せていないが使う予定の無い保険を使った辺り割と余裕は無いだろう。
俺はまだまだ十分だが……万全だろうとあの二人……ウォーズがいるから三人か。その三人の戦いに割って入るのは無謀だろう。
「……状況的に、今は待機か? アダム、お前どの位で復帰できる?」
「……一時間はかかる」
……絶望的だな。いっその事カトラさん抱えて逃げるか?
「一応、別の手段使って良いなら今すぐ動けるぜ」
「マジで? どんなの?」
「取りあえず、こっちに来てみろ……」
光が煌めく。
それは一兆の自分を使い潰した超出力の破壊光だ。
だが、銀河を貫くそれを食らって尚、相手は原型を留めていた。あまつさえ腕を振るい、足を動かして突き進んでのける。
異常な頑強さを見て、バミューダは愚痴と呼べるものを口にした。
「理不尽ねえ」
その一言だけを言い放ち、次々に陣を書いて行く。
夜空の星が少なく見える膨大な数の陣は、そのままの手数となりウォーズの体を押し戻す。
ある陣は斥力を発生させ、ある陣は暴風を。別の陣は相手の身体を分解し更に別の陣は不可視の障壁を作り出す。
途方も無いパターンの攻撃は、全て実体を伴わない、不可視或いは接触不可の物だけだ。当然、ウォーズ対策である。
「Warrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrs!!!!!!!!!」
だが、それらの対策と、アダムのエネルギーを再利用した垓単位の数を以てしてもウォーズは容易に斃せない。
星の中心核の温度を容易に耐え切る馬鹿げた肉体、触れる物全てを灰に変える錬金術とどんな物だろうと攻撃すれば触れたと判断する狂った認識。それらがウォーズを究極の災害へと押し上げていた。
放つ、変わる、形作り、灰になる。
両者の戦いはこの世の物とは思えない様相を呈していた。
銀河さえ押し流す人間の大波、それをかき分け突き進む人間一人。
合間に偶然あった惑星がゴミのように蹴散らされ。二人の戦いに何の影響も与えない。この戦いはそれほどの規模で行われているのだ。
そこへ、何かが割り込んだ。
形は人型、数は一。
伸びた黒髪を背にかからない程度で束ね、前髪は瞼の少し下まで。
そこから覗く目線は、気だるげな雰囲気と動揺を含み、何よりも強く自棄を浮かべていた。
「やってやろうじゃねえかよ!」
XXXが、叫びを上げた。
いやほんとどうしてこうなった?
アダムが何やら直ぐにどうにか出来る作戦があると言って乗ったらなんか俺が改造されてこの銀河規模の戦いに乱入することになったんだが!?
取りあえず今俺の出力が地球を軽々消し飛ばせるくらいまで上昇しているのは良いとして、その程度でここに乱入して大丈夫なのか!? 星消し飛ばせるのが程度だぞ!?
『ごちゃごちゃ煩い思考をするな。こっちにも来てるんだ』
こうなったら誰でもこうなる……いや、誰もこうはならねえな。
『間抜けな事考えてねえでさっさと突っ込め。その状態色々無茶だから三十分も持たん』
なあ、その三十分過ぎたらどうなるんだ? 爆発したりしないよな?
『…………』
返事は? なあおい、アダム、返事。
「あらあなた、そんな事も出来たの。……ここに来るには少し不足だと思うけれど?」
「俺もそう思いますけどね!」
ここまで来てしまったのだ。それに、他に手段も無い。ええい、死なば諸共だ!
『俺は心中する気はねえぞ』