光が爆ぜる。光が走る。
それはバミューダのホムンクルスが埋め尽くした桃色の視界を侵食し、凄まじい勢いで広がっていく。
「同一原子構造に反応して対象を変化させる拡散型反物質だ。纏めて消し飛べ」
バミューダ側も色々とやっているみたいだが……光の浸食は止まらない。
膨大極まる数に膨れ上がった人波は、切り離す事も出来ずどこかしら繋がった状態で光の浸食を受けていた。
そして、例えどこか一か所でも切り離せたとしても……アダムがさっきから撃ちまくっている光が同じ性質だ。ちょっと隔離できた程度ではそこに撃ち込んで終わりだろう。
「いやえげつないな」
対処不能の浸食変換となるともうヤバ過ぎないか? というか、コレ最初から使えよ。
「色々と使うのに条件があるんだよ。基本雑魚にしか効かねえしな」
ケッ、とアダムが吐き捨てる。……前の負けがそこまで悔しいのだろうか。
「というか、アダム。ウォーズどうすんの」
丁度視界に入ったのは、咆哮と共にこちらへ迫ってくる男の姿。何というか、俺は変に冷静な思考でそれを捉えていた。
「どうにでもなる」
瞬間、大爆発が巻き起こった。
「反物質何でな。対消滅起こしてとんでもない熱を放つ。銀河系並みの体積を持ってる相手だ。あの化け物でも動けやしねえ」
目の前ではもう訳が分からない程の熱がウォーズのいるであろう場所を覆いつくしていた。ここが熱くないのはアダムが何かしているおかげだろうか。
……何がどうすれば空間が熱で歪むんだろう。
そんな思考をしている内に、何もかもを埋め尽くしていた桃色の洪水はあっさりと消え去った。後には、肉の焦げる匂いを漂わせ、倒れ伏した男が一人。
「結局何だったんだこのイカレ?」
「お前に分からんなら俺も分からねえよ」
「聞いてねえ。独り言だ」
「……」
こいつ、本当に一回痛い目を見て欲しいな……
それはともあれ、どうにかこうにかバミューダは倒した。いい加減に休みたい……
「……まだ終わってねえぞ。アンキとか言う奴の方が戦ってるからな」
「そういやそうだったな……いやでも、俺に出来る事有んのか……?」
既に体が動かない。例え動いたとしてもあのレベルの戦いでは時間稼ぎにしかならなかっただろう。
「取りあえず今は寝とけ。どうせ役に立たん」
「少しは労えよ……」
しかしまあ、凄く眠いのは事実だ。ここは大人しく寝て……おこう……
眠りに落ちたXXXを見て、アダムは大きく息を吐いた。
「無茶させたな」
その一言だけを呟いて、彼はXXXを担ぎ上げる。
それは、自分でも子供じみていると理解している意地の張った思考回路に置いて、言葉と行動に出来る限りの事であった。
「……さっさとそっちも終わらせろよ」
悪い予感がするな──
そう呟いて、アダムはXXXを休ませに行くのであった。
星雨が降る。人波がそれを押し返す。
宇宙の如く広がる空間全てを埋め尽くさんと膨れ上がり続けるホムンクルスの洪水は、恐るべき天体の物量で削り飛ばされる。
アダムとバミューダの戦いが超規模の削り合いであったなら、今此処で起きている物は微細極まるせめぎ合いだ。
「外のあんたは負けたらしいね」
「ええ、そうね。けれども、あなたは勝てるかしら?」
人の洪水に星の奔流。異常な規模の戦いの裏側では量子を目で追うが如き精密さを競う争いが繰り広げられている。
アンキの空間を形作る法則、バミューダのホムンクルスの構造。互いに探り続ける相手の秘。見える戦い等それを阻害する為の目くらまし。
「あんたのそれ、複製だね! ウィルスでも流してやろうか!」
「それはもうされたわ。対策もね」
チッ、とアンキは舌を打つ。
既にアダムの方がその手段を使っていたのだ。
(先に見つけられたのはまあ……心情以外に問題は無し。問題は、バミューダがそれに対策を取った事だ)
試しに、近くへ来たバミューダの一体に触れ、錬成を行う。
する事は一つ、天体の創造だ。
(出来た、か。となるとこいつは今私が理解している物で十分。それじゃあ、他の物は?)
陣を書いた星をぶつけ、アンキは試す。その結果は変質と不変が入り乱れる物となった。
(成程。同じと違う物を混ぜ込んでいる、と。複製の陣に手を加えたのか? その系譜は? 基礎の四元からの派生、それの合一まで考えると文字通りの無限大だ。総当たりのバミューダが羨ましいよ)
内心で泣き言を呟きながらもアンキの手は止まらない。
思考の内にのみ存在する錬成陣を起動し術を動かす錬金術の奥義ともいえる物を平然と使いながら同時に別種の思考を巡らせる。ある種の神業とさえ呼ばれるであろう技量は、彼女らの戦いにおいては当たり前の事だ。
故に、バミューダも同じ事を行っている。
(人体の巡りと天体の運行。古来から比較されるそれを、体外にまで広げたあなたの錬金術。つまりは身体を崩せば全体も崩れる事になってしまうけれど?)
光が走る。
十兆程の自分を消費して放たれた単純な熱線は、それ故に防ぐ術も無く、アンキの右腕を根元からかき消した。
「……! !」
声は上げない。だが、その動きに乱れが生じた。同時に、空間全体に揺らぎが起きる。
「あら、あっさりと。余りに無防備じゃないかしら?」
「……! そっちと違って精密なんでね!」
星が動く。だが、先ほどまでの物に比べ遥かに粗雑だ。
バミューダは降り注いだそれを、用意に自分へと変えた。
「トラップでも用意があるのかしら? まさか何もない何てあり得ないわよね?」
「ふん、一々罠に頓着する性格でも無いだろうに!」
星が蠢動する。
天球が廻り、時節は巡り、されど桃の奔流は膨れ上がる。
「時間の加速? 自滅に近い手段でしょう?」
「さっきから自分を消費しまくっているあんたに言われたくないね!」
ゆっくりと空間が収束していく。
それは無数の星も、膨れ上がるバミューダの群れも纏めて押しつぶす終末のビッグクランチだ。
当然、その果てにはアンキも巻き込まれていくのだが。
「それに、その状態だと私が空間を破る方が早いわよ? 無駄な事は出来るだけ避けるべきだと思うのだけれど」
「おや、何時からあんたはやる前から無駄を無駄を語るようになったんだ?」
その言葉に、む、とした表情でバミューダが停止する。思索と探求において、実行とは絶対に存在するプロセスであるからだ。
「あたしはやるよ。なにせ、
収縮は加速する。重力は空間そのものを押しつぶし、その内にある物も平等にねじ伏せる。
そして、バミューダはあっさりと脱出してのけた。
「これで終わり……な訳は無いわよね?」
言葉通りの確信を持ちながら……同時に、一抹の不安をバミューダは覚える。
そもそも、アンキは敗北した直後だ。万全から程遠いと言っても過言ではないだろう。
現に、目の前の空間は収縮を続け、そこからは誰も出てこない。
「……本当にお別れかしらね」
宇宙の如くに広がっていた空間が、爪先よりも、針の先端よりも小さくなり……見えなくなった。
バミューダの視界に、外が映る。
既に夜は明け、朝日が射していた。
「……警戒はしておくけれど」
爆縮した空間は、最早見えない。念の為、観測をしてみるが、捉えられ──
「……拙い!?」
一つ、思い違いに気付いた。
見えない。即ち、観測出来ない。測定できない。極限まで行ってしまえば、観測不能な広大も、不可視の極小も変わらないのだ。
ならば、次は? 自分の観測範囲を上回ったアンキは、何をしてくる!?
バミューダは焦り、無数の自分を作り上げ──爆発が、全てを飲み込んだ。
「……全く、奥の手何て使う物じゃ無いね」
極点の一にまで圧縮し、そこから再び空間を作り直す、ビッグバン現象の再来。宇宙創世の大爆発は観測外から襲い来た。
持たせた指向性も、貫通性も、対処された気配は無い。
「取りあえず、あたしの一勝かね」
そう呟いて、アンキはズレた三角帽子を直したのだった。