九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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完全者

「さて、コレで一旦は退けた訳だけど……」

 

 アンキさんはこちらを見渡して口を開き……言い淀む。

 まあ、言いたいことはよく分かる。

 全員、滅茶苦茶ボロボロだ。

 アダムは未だ修復中、カトラさんは起きては来れている物のフラフラしている。そして、俺はまともに動けないので転がったまま話を聞いているという状況だ。

 

「……取りあえず、お疲れ様」

 

 その言葉にアダムが大きな溜息で答える。その顔には、苛立ちが浮かんでいた。

 

「そう言う無駄な気遣いとかされるの嫌いなんだよ。はっきり言ったらどうだ、まだ何も終わってねえって」

「そりゃそうさ。けれど、一応とは言え切り抜けたのは事実だ。労うのは間違っていないよ」

 

 ……二人とも当たり前のようにまだ終わっていないと話している。せめて何がどうしてそうなるのかは教えて欲しい。

 見ろよ、カトラさんとか半分位絶望してるぞ。

 

「……取りあえず、現状を確認した方が良いんじゃないですかね」

「そうだね。じゃあ説明して行こう。

 まずあたしらでどうにかバミューダと乱入してきたウォーズを撃退。その内ウォーズは拘束済みで、バミューダは完全に撃滅。

 で、こっからが問題だ。

 バミューダは今回の戦いに全部を持ってきた訳じゃ無い。というか、一体でも生き残ってたらそこからまた無限に増やせる筈だ。つまり、また襲撃はあり得る」

 

 ……成程、確かに何も終わっていないな。というか、この状況で更に身に染みたが、バミューダの錬金術が厄介過ぎる。

 例え同格の相手でも延々と戦い続けて削り殺すことも出来るのだろうし、不可能なレベルの広範囲探索や並列行動も行えるのだから。

 

「という訳で、だ。あんたら、この子を連れて帰らないか?」

 

 そう言って、アンキさんがカトラさんを指さした。

 

「……えー、と、どうしてその結論に?」

「聞いて無かったのか? この世界に居ても間違いなくずっと襲撃は来るだろうし、あたしもわざわざずっと守るつもりも無い。なら、そっちの世界に連れて行って逃げ切らせるのが一番有効さ」

 

 ……確かに、聞いている限りではそれが最も確実かつ有効だ。ただ、こちら……正確に言うなら、俺達の来た世界にも事情はある。

 その一つが、異界保護法。内容としては極めて単純に、異世界(向こう)俺らの世界(こっち)の技術を流入させない事、生物の相互持ち込み不許可(最大二か月迄の交流なら許可)、自衛以上の攻撃的行為の禁止。この三つが中心の法律だ。

 大体が自分達の世界に有利なように裁定されるように作られた法律は、大抵の場合においてまず適応される事は無い。

 何故なら、俺達の世界の住人は思考制御システムの働きにより基本そんな法律違反の行動は取れないようになっているのだから。

 つまり、この法律は有名無実……ではない。厄介な事に制御しているのは人間では無くシステム、違反があれば厳密に油断なく機能するだろう。当然、カトラさんを連れ帰るのは法律違反である。

 

「……すみません、僕らの世界の法律的にその案は難しそうです」

 

 思考の末出力したその言葉に、アンキさんが溜息を吐いた。そんな態度を取られても駄目な物は駄目なのだが……

 

「……あたしからそっちの世界の役人連中に言ったらどうにかならないかね」

「無理だろうな。無駄に頭の固い糞共だ。不確定要素は抱え込まねえだろ」

 

 アダムの言葉に、アンキさんは再び溜息を吐いた。

 

「不確定要素ね……まあ確かに不確定ではある、か」

 

 そう呟いて、アンキさんが三角帽子を目深に被り何かを考え始める。……何だろう、まだ何かあるのだろうか。いや、確かにまだあるのだが……

 

「……アダム、お前はなんか案無いのか?」

「さっきアイツが出した以上の案は無い。その案の問題は役人を丸め込む手段と──」

 

 そこで、アダムがカトラさんを指さした。

 

「そいつの意思だな」

「……カトラさんは……どうしたいです?」

 

 無慈悲な問いだ。要するに、死ぬか、住んでいた世界を捨てるか、と聞いている訳だから。

 

「逃げですね」

 

 そんな思考をしていた俺に、一切の疑問なく即答したカトラさんの答えは見事に突き刺さったのだった。

 

「この世界に未練は当然ありますけれど……死んだら研究が出来なくなりますので! 何を置いても生きる事が大事です! 次に研究!」

 

 予想だにしない即答で硬直した俺を置き去りにし、アンキさんが高笑いを響かせた。

 

「まあ錬金術師ならそう言うだろう。己の研究が優先な連中だ。故郷に二度と戻れない、程度じゃあ悩みはしないさ」

「そういう物なんですか!?」

 

 ぶっちゃけ滅茶苦茶悩むような質問だと思うし、苦悩する物でもあると思うのだが……

 

「取りあえず問題は一つ解決したな? なら後は役人の説得だ。面倒だがな」

 

 アダムが心底面倒くさそうに吐き捨てる。まあ、俺も法律レベルの連中にどうこうというのは間違いなく面倒な事になるという事はよく分かる。

 そして、色々と申し訳無くなってくる事なのだがその辺りはアダムに一任する事になるだろう。なにせ、俺は知識的にも立場的にもそんな大それたことに参加しようが無いのだから。

 

「一応あたしも説得には参加するよ。まあ、一筋縄では行きそうにないけれど」

「心底面倒だ。おいXXX、幾らなんでも無給は無理だぞ」

「俺はそこまで薄情じゃねえよ……流石に渡せる物渡すよ……」

 

 今回、完全にアダムには俺の手助けをする理由がないのだ。ここで何も無し、は酷いだろう。

 

「分かってんなら良い。それじゃ、さっさと場所移すぞ。ここに居たらまたあの女が襲撃掛けてくる」

「ま、そうだろうね。一時的にでもこの子をあんたらの世界に送って置いた方が良い」

「一応二か月までは簡単な許可で滞在可能な筈なので……」

「XXXさんの世界ってどんな所か楽しみですね!」

「逞しい……」

 

 アダムが立ち上がり、大規模に変形していく。俺達をゲートまで運んでいくのだろう。

 カトラさんは形成された椅子に座った状態で道具の点検を。アンキさんは自前でふわふわ浮かんでいる。

 俺はまあ、全く動けないのでアダムに完全にお世話になるのだが。

 

「済まんな」

「あーいーよ。お前がお荷物野郎なのは前からだ」

 

 ……こいつはどうしてこう口が悪いのか。感謝の気持ちが薄れそうだ。まあ、立場的にも状況的にも絶対言い返せないのだが。

 ともかく、俺達は移動を始め……アダムがある物に気付いた。

 

「あ? もう来やがったのか」

 

 上空を飛ぶアダムに、桃色の髪の女性……バミューダが降り立った。数は一、この状況なら何とでもなるが……様子がおかしい。

 

「あなた達、彼を今すぐ引き渡しなさい! 間に合わない!」

「……まさか、もう?」

「おい、何の話ししてんだ!」

「あんた、急ぎな!」

「間に合いません! 引き渡して──」

 

 言い合うアダム達三人に、カトラさんと俺が動揺する最中、それは出現した。

 

 完全に左右対称な姿形、性別はどちらとも取れ、その背中には三対六枚の羽根が生えている。

 荘厳な姿からは圧倒的な完全性による美しさが迸り、俺の意識を奪おうとする。普通な状況であったなら、俺はこの姿を見れた事に歓喜していただろう。

 だが、今はそうならない。

 何故なら、その完全たる姿からは絶望的な威圧感が放たれていたからだ。

 

「壊晶とはな。見落としてしまったか。残念だ」

 

 それが世界──宇宙──万物の中心であるかのような圧倒的な存在感。同時に、それは何処にでも在るかのような雰囲気を纏っている。

 これは、駄目だ。

 アダムや天道さん、この場にいるアンキさんと言った圧倒的な人たちともまた一つ上にズレた存在。……強いて言うのなら、ゼロエルが似たような雰囲気か? ……この予想が当たっていた場合、どうしようも無いぞ!?

 

「また、作り直しだな」

 

 そう言って、存在──カリオストロはぐるん、と腕を回したのだった。

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