体が跳ねる程のふざけた地震に襲われながら、俺達は地下道を進んでいた。揺れるたびに崩れて埋まるのでは無いかという不安が鎌首をもたげるが、ZZの危機の前では些細な事だ!
「待ってろよー!!!」
狭く曲がりくねった地形の都合上精々時速二百キロ程度の速度しか出せないが、気持ちだけはマッハで駆けていく。
当然、そんな状態だから何度も壁にぶつかりはするが、俺の体はその程度で損傷するような物じゃねえ!
「……少しは落ち着け、アホ」
「これが落ち着いていられるか!」
世界を覆う揺れに爆音、今は見えないが空は無数のホムンクルスに覆われそれを片っ端から途轍もない威力のビームやら惑星やらが吹っ飛ばしている筈だ。
当然、そこまで やらかしておいて世界が無事な補償は無い。
そのため俺はさっさとZZを確保して元の世界に逃げ帰るのだ。ええい、精々カリオストロの足止めを行う程度の初期作戦がどうしてこうなった!?
「お前の人望だ、ありがたいな」
「もう少し真っ当な物が欲しい!」
世界を滅ぼせる程の力の持ち主何てアダムで十分だ! 二人も三人もいたら気が狂う!
しかしそんな願いも虚しく終わる……そんな予感が俺の中で浮かび、頭を振ってかき消した。
今は無駄な事を思考している場合ではない、一刻も早くZZを見つけないと。
「一体どこにいるんだあああああああああ!!!!」
ZZの絶叫した地点より凡そ五キロ南。そして、三百メートルほど地下。
到底地底とは思えない程の広い空間、そしてそこに掛けられた空に浮かぶかのような一本道。
その上で、四人の一団が遺跡を守るゴーレムを相手に立ち回っていた。
「そっち行った!」
「分かった、任せてくれ!」
幅広の剣を担いだ男……レアスと名乗った彼が、身の丈程もあるその剣を振るい、鋼鉄のゴーレムへ叩きつける。
鈍い金属音が響き渡り、剣は少しも食い込まずに表面で停止する。だが、同時にゴーレムも動きを止めていた。
「次は私!」
紺色のローブを着た、杖を持った女性……エルミが、呪文を唱えた直後、雷が杖先より迸りゴーレムのコアを損傷させた。
「オラアアアアアア!!」
薄手の服を纏った筋肉質な男……ロドムの放った拳が、傷ついたゴーレムのコアを打ち抜く。
三人の連携攻撃でようやく一体。しかし、周囲を囲むのは十体以上のゴーレムの群れ。
だが、彼らに悲壮感は無い。
何故ならば知っているからだ。このゴーレム達は制御されており、どこかにある制御装置を破壊すれば全ての動きが止まるのだと。
だからこそ、白衣を羽織る少年……イフラマは駆ける。仲間たちの作った隙を無駄にせず、この地下都市のどこかにある制御装置を見つける為に。
「よっしゃー! かかってこーい!」
「向こうに何かあったー!」
全く違う内容の声が響き渡る。
三人と一人の距離は離れ、例えどれだけ大声を出そうとも耳に届きはしない。
しかし、別れた彼らに聞こえたのは、同じ声であった。何故なら──
「レアス―! おれが抑えてるから頼むー!」
「よし、任せろ!」
今この場で三人と共にゴーレムと戦う少年と──
「イフ! こっちの曲がり角には無かった!」
「ありがとうございます!」
制御装置探しを手伝う彼は全く同じなのだから。
ZZは、自身の体を分裂させていた。
以前魔界にて色々と追い回された経験からZZが編み出したこの技は予想以上の使い勝手で重宝されている。
「そりゃー!!」
足先を鋭く尖らせた飛び蹴りが一体のゴーレムのコアを貫き。
「ZZさん、お願い!」
「分かった!」
体をロープのように伸ばしゴーレムの動きを止め、魔法を当てる補助をする。
彼らとの数日間にわたる冒険は、着実にZZを成長させていた。
「ZZ! そっちには!?」
「こっち無い! だから──」
制御装置を探す二人は、最初から目を付けていた目的地の前で佇んだ。
一応ここに来る途中でも探したが、それらしい物は無し。完全に左右対称に作られたこの都市で、片側に無ければ反対にも無いだろう。
そして、制御装置がどのような物であれ都市全体をカバーするのなら、中央にあるのが道理だ。
それ故に彼らは最初から中央を目指し、そして今、当たって欲しくない一つの予想の的中と共にたどり着く。
「……やっぱり、防衛用の奴がいますよね」
中央の塔へ入る道を阻む、二体のゴーレム。それは間違いなく重要な物がその背後にあると言う事を示していた。
「……イフ! おれがこいつら止めとくから、先に行ってて!」
「ちょっと、それは……」
「おれ頭あんまり良くないから制御装置とかよく分からん! けど、イフは出来る!」
自信満々に言い切るZZに、照れたようにイフラマが頬を掻く。
「……分かった。なら、一つ約束です」
「なに?」
「後でしっかり合流する事!」
「分かった! うおおおおれは強いぞー!!」
言うやいなや雄叫びと共に突っ込みゴーレムの注意を引いたZZの背後で、イフラマは錬成盤を取り出した。
下敷き程度の大きさのそれは、錬金術師が錬成陣を即興で書き上げるのに適した物。優れた術師程大きさは小さくなり、達人ともなれば手のひら程度の物で機能させる。
その点で言うなら、彼の実力は中堅程度だが……少なくとも、その速度だけは中堅の域を超えていた。
「陰りよ。風よ、土よ、光を隠し、意識を隠し、わが身を隠せ」
姿隠しの陣を僅か数秒にて組み上げ、イフラマはゴーレムの横を走り抜ける。大切な仲間と、新しくできた友人の為に。
宙が、割れる。
多元宇宙を切り裂く剣と、宇宙さえ引き寄せる圧倒的な力。
その衝突は、圧倒的な破壊で出力された。
今の二人を内包する宇宙などとうに壊れ、その周囲、大宇宙でさえ砕け、多元宇宙が軋みを上げる。
泡の如く連なる無数の宇宙群が片端から両断され、壊れ、潰れていく。
恐るべきはそれでさえ余波という事だ。
「おおおおおっ!!!!」
渾身の剣戟は、カリオストロの創りだした剣──兆単位の宇宙を圧縮した物──により阻まれる。だが、更にもう一撃が。弾かれようとも、尚も。
「っ!」
戦いを始めて、今、ようやくカリオストロが一歩、下がった。
「ハァ! 下がったな! ハハハ! そこがお前の限界か!」
ゼロエルの攻めが、激化する。
振り下ろし、薙ぎ、切り上げ、切り下す。
一瞬が永劫に感じられる程一切の間を置かずに振るわれ続ける剣閃は、カリオストロをして防御に回る程の物。
未成熟な少女の体躯は、考えうる限り限界的に体を翻し続けてそれを成していた。
神速、と言う言葉が似合う二刀の閃きはカリオストロの守りでさえ断ち切るだろう。
だが、それでもカリオストロの守りは破れていない。その事にゼロエルは焦燥を覚えていた。
(不気味な程精確! この速さなら少しは乱れるだろうがよ!)
こちらの攻撃に対し、必死に守るでも、躱すでも無く、ただ当然のように体を動かし、剣閃を捌く。
明らかにカリオストロには余裕がある。だが、それを目に見える形で出力はしていない。
つまり、見えない所……脳内等で何かを行っているとゼロエルが判断するのには十分であった。
(何か大規模な攻撃でも準備してやがんのかぁ!? だとしたら上等だ! 真っ向からぶち抜いてやる!)
顔を見せない謎の策にも、まるで自信を崩さずゼロエルは笑う。何故なら、彼女にもまだ見せていない物は有るからだ。
そして、時は来た。
「貫け、槍よ」
創り上げられたのは、槍。
だが、カリオストロの手にかかればそれは、万物を貫く無敵の槍となる。
長さ精々一メートル。だが全てを凌駕する。それが、カリオストロの手より放たれた。
「はっ! ショボい物作りやがってよ!」
バチン、とゼロエルの右腕から
それは、神の威。神の力、その片鱗。
「
爆縮する力は唯一点へ向けて放たれた。
超越を越え、圧倒し、万物をかき消す。
万物を貫く槍か、万物をかき消す神威か。
矛盾の結末は……カリオストロの体積七割の消失で、答えられた。