壁から泥で作られた人型が湧き出す。
即座に殴り飛ばして破裂させるが、根本的な対処にはならない。
何故ならまた直ぐに湧き出すし、倒した相手もその内に復活するからだ。
だから、走る。
湧いて来る敵が追い付くよりも遥かに早く、進路を遮る最低限だけを殴り飛ばし。
「ZZー!!! どこだー!!!」
迷路のように入り組んだ地下通路内を走り始めて三十分。ZZ達の痕跡すら見つけられていない。
相変わらず……どころか更に激しさを増した揺れが、俺の不安感を煽り立てる。
「取りあえずもう少し落ち着け間抜け。道見落としてるぞ」
「え、ああ、マジだ」
視界の端にあった下りの階段を見落としていた。
ZZとの通信で凡その場所は把握できていた。その一つが、かなり深いという事だ。
どうも深度一千メートル近くという途轍もない深さに奴は行ってしまったらしい。その所為なのか今は通信も繋がらず、精確な場所も知ることが出来なくなってしまった。
一応アダムが予測演算で位置を算出してくれてはいるのだが、それも割と大雑把。詳しくは駆けずり回って探すしかない。
「うおおおおおおおZZおおおおおお!!!」
「だからうるせえよ間抜け野郎!」
「っ! おおおおおおお!」
渾身の叫びと共に力を振り絞り、迫り来たゴーレムを押し返す。
あれから倒したゴーレムは三体。周囲にはまだ九体いる。状況としてはかなり厳しいと言っていいだろう。
だが、誰も諦める事など無い。
「ハ!」
放たれた回し蹴りはゴーレムの足を払い、地へと叩きつける。
その隙に呪文を唱えたエルミがゴーレムの体を凍てつかせ、動きを封じた。
「助かった!」
「お礼は後!」
レアスの言葉に厳しい現状で返し、彼女は前を見据える。
ロドムが飛び上がり、ゴーレムの頭部を蹴り飛ばすと同時にZZがその足を蹴り飛ばし、体を崩させる。
間髪入れずに呪文を唱え、その動きを封じていく。
四人は、時間を稼ぐ作戦に徹していた。
「ZZ! そっちは任せた!」
「分かった!」
レアスが大剣を横薙ぎに振るい、一体のゴーレムの胴をくの字に折る。
そこに襲い掛かろうとしていたもう一体へ、ZZが躍りかかった。
「っしゃ! ロドム! やって!」
「応!」
ZZ越しに拳を振るい、精確にコアを打ち抜く。
同時に殴られたZZはその部分だけを粒子に変え、拳をすり抜けさせたのだ。
「よし! そっちに任せてばかりも……いられねえな!」
力任せに大剣諸共ゴーレムの体を振るい、打ち上げる。
降って来たゴーレムのコア目掛けて突き立てた大剣は、寸分違わずその場所を貫いた。
「無茶はしないでよ! 時間を稼ぐ事が優先でしょ!」
「こんなのはまだ無茶じゃない! 俺はもう少し行けるぜ!」
「俺もだ!」
「おれも!」
もう……とエルミが呟くが、彼らが頼もしいのは事実。
それなら、こちらもやる事をやればいい、と彼女は一層呪文に気合を込めるのだった。
「っせい! やっ! と!」
ゴーレムの拳を避け、或いはすり抜け、反撃を放つ。
粒子状の体は瞬時に如何なる形状にも変わり、常に最適な攻撃を繰り出す……理想的な攻撃ではあるのだが、生憎ZZの技量はそこまで達していない。
その代わりに一つの変形を作り上げた後はそれを生かすような立ち回りを心掛けていた。
「そおい!」
三日月のような反りと二メートル程度の長さを持つ大太刀を腕力のみで振り回し、ゴーレムの足を断ち切る。
だが、見る間にそれは修復されていった。
「頑丈だー!」
いくら攻撃しても直ぐに修復され、まるで倒せない。通常であれば逃走を選ぶべき相手だが、ZZは臆さず立ち向かっていく。
なぜなら、しっかりと勝つ方法はあり、それは自分の頑張りにかかっているのだから。
その一方、そこから少し離れた場所で勝利へ最も重要な立ち位置に居る彼は頭を抱えていた。
「……なん……だ、これ」
余りにも異常な錬金術の防護を前に、イフラマは呻き声を上げた。
中央の制御装置は見つかった。だが、それを止める手段が無い。
幸い排除するための仕掛けは無かったのだが……それも、ミスを続けたら出現するかも知れないのだ。
なぜなら、目の前にある巨大水晶は彼をして干渉さえ出来ない圧倒的な防御が張られている。そこに、解体者の排除が含まれていないとは考え辛い。
「……ミスは命取り。でも……」
やれるのか。彼は自問し、その余りに小さな可能性に絶望する。
数千桁単位のパスワードの、一つの欄にさえ万単位の答えが存在しうる。
そんなロックをミスなく一発回答しなければならない程、この防御は万全且つ強固なのだ。
「……いくら何でもおかしい」
だからこそ、そこに違和感が生まれる。
セキュリティとは強固であればある程柔軟性を失っていく。どう考えても
ならば、何が考えられる?
「……あのゴーレムは、メインじゃない?」
イフラマは思考を加速させる。
もしもあのゴーレムを操作する機能が、この水晶に刻まれた錬金術の中核でなかったら。もしも、これを利用して防護を形作っているだけならば。
「……あった!」
予想の根拠は、予想以上に容易く見つかった。
水晶の内に浮かぶ錬成陣。その隅に取って付けたように加わる周囲と違う陣。
必要な技能は解体では無く、精密な切除。そう判断し、イフラマは慎重にその作業を開始した。
爆弾解体にも似た、一瞬でも隣の錬成陣に関われば即座に反応し防御が起動すると言う一切の油断が許されない状況。
そこにあって尚、彼の脳内に疑問が浮かぶ。
(なら、この水晶は何の為に……?)
疑問はあるが、手は精密そのもの。彼も、立派な錬金術師なのだ。
そして、遥か天上。全ての趨勢を決める決戦は尚も続いていた。
「あー頑丈だなおい! しぶとい奴はモテねえぞ!」
ゼロエルが咆哮と共に振るった剣は、カリオストロの体を引き裂き諸共に多元宇宙を切り裂いた。
だが、カリオストロの動きは止まらない。
肉体は瞬時に元の形を取り戻し、その行動は一切淀みなく続けられ、結果的に何一つ阻害されずカリオストロは攻撃を行った。
「お前が我を語るな。不愉快だ」
輝きは熱。京単位で小宇宙を焼き尽くすそれは、全周を薙ぎ払いゼロエルを巻き込んだ。
だが、その程度で倒れるような戦いではない。
「図星突かれてキレたか!? そりゃ悪い事をした!」
光熱を切り開き突き立ったゼロエルの飛び蹴りにもカリオストロは動じない。
自分の体を貫く足など見向きもせず、至近距離に来た敵へ向けて弓を撃ち放った。
「っとお! あっぶね」
体をその場で回転させ、矢を受け流したゼロエルだがカリオストロから離れてしまった。
直後、一つ一つが優にゼロエルの肉を貫く矢の濁流が降り注ぐ。
宇宙の元素の数さえ超える莫大な数は、しかしゼロエルの振るう剣に阻まれ届かない。
「んな目くらましが今更通じるかよ!」
斬撃の球体が尾を引きながらカリオストロへと襲い掛かる。
一閃、二閃、三閃。
全て同時に振るわれたそれは、異常に精確なカリオストロの剣技で対処される。
だが、ゼロエルは怯まない。
更に力を込め、更に速度を上げ、完全たるカリオストロを出力のみで押し切らんと裂帛の気合を発する。
「っ、猪か、お前は」
さしものカリオストロも一瞬怯み、距離を開け……ゼロエルが、光の奔流を撃ち放った。
「ハハハハハ!!! 随分なミスだなこの野郎! くたばりやがれ!」
反撃もさせぬとばかりにゼロエルの剣が舞い、カリオストロをズタズタに切り刻む。
右腕、胴、首、頭、左足、左肩……瞬間の再生も追いつかない程の速度で攻撃され続けたカリオストロは、戦いで初めてその顔を歪ませ、舌を打った。
「……逃げられると思うなよ?」
直後、ゼロエルの体が二つに裂けた。