九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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天上の決着

理屈が断たれる。道理が断たれる。無理が断たれる。万象が断たれる。

 それは切断の概念である。

 

「巡れ、廻剣」

 

 くるり、と。

 鉛筆を弄ぶかのように手の内に握った剣を、回す。

 それだけでカリオストロの認識する全てが両断された。

 ゼロエルも、例外では無い。

 

「……我にこれを使わせた事、褒めてやろう」

 

 その直剣はカリオストロの攻撃意思その物。

 相手を切ると言う目的の為だけに創り上げられた、攻撃にのみ目的を絞られた、純粋なる兵器である。

 それ故に、当然最も相手を害する能力は高い。

 錬金術の本意から外れた品な為、これを使った事自体がカリオストロにとっては屈辱であり、怒りが込み上げてくる物だ。

 しかし、勝利はした。

 

「その名、記憶には残しておこう」

 

 斬撃の嵐が吹き荒れる。

 それはゼロエルの肉体を微塵に切り刻み、極小の単位と無し消していく。

 嵐が収まった時、そこには何も無かった。

 時間も、空間も、()()()()()()()()()

 

「……何?」

 

 微細な残骸とは言え、カリオストロの感覚を逃れられる程だとは思えない。

 ならば?

 

「相手が確認できなくなる攻撃は効いてねえって言うだろ!?」

 

 虚無から、ゼロエルが現れた。

 この場で再生したのでは無い、何らかの手段を用いて姿を隠していたのだ。

 

 万物を揺るがす衝撃と共に、競り合いが始まる。

 カリオストロが振るった廻剣と、ゼロエルの繰り出した神形により作られた剣が、ぶつかり合い火花を散らす。

 その傾きは、ゆっくりとカリオストロへと近づいて行った。

 

「出力勝負なら俺に分があるぜ!? どうしてみる!?」

 

 じりじりと押し込まれる廻剣を前にしても、カリオストロの表情は変わらない。

 ただ、先ほどと同じく舌打ちをしたのみだ。

 

「開け、威槍」

 

 一つの呟きに合わせ、槍が突き出される。

 先刻振るわれた物より長く、遥かに鋭いそれは、ゼロエルの肩口を貫き、抉り飛ばした。

 そこで槍が止まる。

 

「出力勝負なら勝ってるっつっただろ!?」

 

 槍の穂先を握り込み、動きを抑える。

 どころか徐々に押し返し更にカリオストロを攻撃しようとしていた。

 

「……叫べ、凱弓」

 

 ぶわり、と布が広がる様に矢の雨が舞った。

 一切の切れ間なく無数に放たれる矢は、精確にゼロエルのみを狙い突き立つ。

 

「だからよお、んな小細工じゃ怯まねえっての!」

 

 全身に突き刺さる矢等意にも介さずゼロエルは槍と剣を更に押し込んだ。

 ずぶり、と剣がカリオストロの肩を切り裂き、ゆっくりと体の中心へ向かう。槍は根元が頭蓋へ押し当てられ、ミシミシと音を立てながらその内へと潜り込んでいた。

 それでも、カリオストロの表情は変わらない。何一つ常と変わらない、睥睨する視線を浮かべたままの怒りとも喜びともつかない様子。

 

「屠れ、鏖爪」

 

 瞬間の十六連撃。

 完全同時に放たれたそれは、ゼロエルの腕を断ち切り、顔を引き裂いた。

 当然それで怯む存在では無いが……腕だけは強制的に離れている。

 

 剣閃が閃く。

 引きはがしたゼロエルの体を断ち、切り殺すために。

 当然、ただ殺されるゼロエルでは無い。

 傷を負う傍から治癒し、機能を取り戻した部位を片端から使いカリオストロの剣を相手取る。

 だが、事削り合いにおいて異常な有利がカリオストロには在った。

 

(マジでブレねえ野郎だな!)

 

 どれだけの傷を負おうとも、どれだけ複雑な状況になろうとも、カリオストロは乱れない。

 機械が赤ん坊の駄々に見える程正確無比な判断が、どこまでも無機質に状況へ対処し続けていた。

 右腕を切り飛ばせば左腕、胴を薙げば上半身のみで、術式に介入すれば瞬く間に逆算し対処する。

 殴り合いながら数学と設計を同時に行う狂った作業を、何事も無く遂行する異常な状況判断能力がゼロエルを徐々に追い詰めていた。

 

「っ! やってらんねえ!」

 

 状況不利、そう判断したゼロエルは即座にその場を飛びのき距離を取る。

 削り合いでは無く、ゴリ押しの出力勝負へ戻すために。

 当然、その行為は読まれカリオストロは間合いを詰めなおすが……それを、ゼロエルは読んでいる。

 

 奔るは光。

 極限の域まで凝縮された()()()()がカリオストロの肉を焼く。

 さも当然のように損傷は修復していくがそれ以上の勢いが光には在った。

 

「そらそらそらそらそらそらぁ!!!」

 

 加えて光を目くらましに、ゼロエルが無数の攻撃を仕掛けている。

 剣に四肢、槍に弓矢。

 彼女の扱う武器として限界の領域まで引き出し、ゼロエルはカリオストロの体を完全に消し飛ばそうとしていた。

 当然、カリオストロは離脱を選ぶ。もとより出力勝負は不利と判断しているからだ。

 だが。

 

「そらよ!

 

 カリオストロの離脱地点に、既に来ていたゼロエルが追撃を行った。

 咄嗟に防御したが、間合いが完全に詰められ削り合い以前のごり押し勝負となる。

 不利な勝負はあっさりとカリオストロの体積を削り、修復以上の速度で延々と減少させていく。

 再び、カリオストロは離脱するが……再度、その先にはゼロエルが居た。

 

「分かりやすいんだよ、お前。現状の最適解しか選んでねえな!?」

 

 その言葉にカリオストロは答えない。

 確かにその通りではある。だが、わざわざその事を教えて来た以上ゼロエルはその先の対処も予測しているのだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただ今までと何も変わらず、自身の完全性に任せるまま完全な挙動を繰り返し続ける。

 

 カリオストロは完全である。

 それは見た目であり、在り方であり、精神であり、錬金術であり、そう言う物だ。

 カリオストロは完全である。故に、何をしようとも完全である。

 粗雑に振るった剣が正確無比な軌道を描き敵を倒し、ただ佇んでいるだけで身体が自動で敵を打ち倒す。完全であるが故に完全は維持され、体は損傷を修復する。それらに、カリオストロの消耗は無い。

 余りに理不尽な在り方だが、それこそがカリオストロなのだ。

 

 だからこそ、カリオストロは完全である。そして、それだけに留まりもしない。

 

「……無駄な事を」

 

 その呟きが全て。

 脳内にて組み上げられる錬金術は圧倒的な速度と制御を保ち、無意識に動く身体からは完全に切り離された落ち着ききった思考の元、最高条件で出力される。

 完全を越えた、超越。その域に至った以上、カリオストロに敗北は無い。

 

 完全性はどこまでも完全にゼロエルへ対処し、超越性は理不尽な程柔軟に状況へ対処する。

 不完全性までも内包した絶対的完全が、カリオストロ。

 それ故に、状況は不利にならない。

 例え一時的にゼロエルへ傾こうとも、即座に修正が成され再びカリオストロへと傾く。

 読まれ続ける行動は瞬間的に対処し、ゼロエルへと反撃を放つ。

 それへの反撃も正確に対処し、更なる反撃を。

 ゼロエルが完全を読むのなら、それを考慮に入れた完全を出力するのだ。

 

(ってとこか? 面倒な!)

 

 唐突に対処された現状にゼロエルは推論を組み立てる。

 それは概ね正解であり、絶望的なゼロエルの現状を的確に表していた。

 だから、勝負に出る。

 

「受けてみな! とっておきだ!」

 

 ゼロエルから迸る圧倒的極まるエネルギーを目にし、カリオストロは瞠目する。

 それは、到底受けの選択肢を視野に入れる事の出来ない程ふざけた物。

 だが、予測された絶望的な迄の攻撃範囲は回避などの選択肢を論外とする。

 それ故に、先制を取り……

 

「無駄だぜ!? 今更だっての! んな程度で止まるか!」

 

 止まらない。

 黒と白の圧倒的な爆発はゼロエルの身も焼き消しながらゆっくりと凝縮を始めていた。妨害しようにも、ゼロエルはそれを絶対に止めないだろう。

 

「……勝負、か」

 

 選択肢は、ここに来て一つの真っ向勝負のみ。

 カリオストロは四元陰陽を迸らせ、それらを完全に制御した光を放つ。

 それは錬金術全ての究極たる一撃であり、明確に破壊を目的とした最悪の錬金術。

 

破壊(グラム)

 

 

 黒と白が暴れ、ゼロエルを焦がす。

 それは最後の切札にして自爆寸前の技。絶叫の如くにゼロエルは叫ぶ。

 

「堕天変貌! 神威繚乱! 闇光交わりし至高よ! 奔れえええええええええええ!!!!!」

 

 迸る純粋なエネルギーはカリオストロの破壊と衝突し、到底あり得ない究極的な拮抗を引き起こす。

 肉体が爆ぜる、魂が摩耗する、意識が途切れる。

 カリオストロはその全てを無視できる。ゼロエルは、無視できない。

 

「だったら全部つぎ込むしかねえよなあ!!!」

 

 肉も、魂も、意識も、一撃に掛けとき放つ。

 その結果、徐々に、徐々に拮抗は崩れ始めた。

 

「っ!」

 

 カリオストロの目が見開かれ……直後、絶対的なエネルギーがその体をかき消した。

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