「おうあー」
口から間の抜けた言葉が漏れる。ここ最近の騒動から一転、今は何もすることが無い。
だが、それは良い事だ。無駄に広い部屋の中でゴロゴロと転がるのも人生には必要だろう。特に色々あって疲れた後などは。
全く、この数日は色々あり過ぎた。金がほとんど無くなったと思いきや訳の分からん秘境にかっ飛ばされてとんでもない奴らの戦いに巻き込まれて、挙句アイギスまで出張って来た。
「……良く生きてたな、俺」
思わずそんな言葉が口を突いて出る位にはヤバい事のオンパレードだった。まあそれも終わりだ。
今手元には十年は暮らせるだけの金がある。何か不測の事態が起こってもまあ対応できるだろう。
「……なんか本でも買うかー」
金がある。することは無い。なら、暇をつぶせるものを買おう。便利な事に前の家には無かった宅配機能がこの家には付いている。
指を振って端末を出し、適当な本を調べる。が、ここ最近の情勢もあり余り新しい本も出ていない。
「んー」
特にお目当ての物は無い。こういう時は無理に買わずに別の物を見た方が良いだろう。
「服は……別に要らねえな」
体の機能で服ならいくらでも出来る。
……困った、金の使い道が無い。ついでにすることも無い。
ここ最近の忙しさは別にしても、それまで怪物討伐だの日雇いの仕事だので一日の大半はどこかで動き回っていた。それがいきなり無くなったせいで何もすることが思いつかない。
「……何か飯でも注文するか」
基本安い簡易食ばかりだったが、今は金がある。このくらいの贅沢は大丈夫だろう。
……レストランとかはよく分からないな。
適当な所から取りあえず割と高そうな物を選んで注文する。
その瞬間に置いてある転送台に出来立ての料理が出現した。湯気の立つ丼は非常に旨そうな匂いを発している。
「相変わらず早いな……」
一体どうやって作っているのか。俺の頭では分からない。どうも作り置きをしている訳でもないようだし。
スプーンを使って、肉と米を口に入れる。
「うっま」
肉の味とタレ、それが米に沁み込んで絶妙な旨さを出している。
一口一口に神経を尖らせ出来る限り味わう。これは美味しい。今まで食っていた物とは桁が違う。
「やっぱ高いだけ有るな……」
初めて食べた丼の味に浸っていると、騒がしい足音が聞こえてきた。
「兄貴ー、何その良い匂い」
「これ」
「おおー」
丼を見たZZの口から涎がこぼれる。汚えなこの野郎。
「後で拭いとけよ……」
「兄貴だけうまいもの食ってずるい」
「ならお前も頼んだらいいだろ。別に俺一人の金にはしてねえし」
そう言ったらZZも速攻で同じ物を注文した。
暫く二人で同じ料理を食べる。ZZは一心不乱に鰻にかぶりついていた。
「顔中タレまみれだぞ、お前……どうやったらそうなるんだ」
「もががが」
「何か言うなら食ってからにしてくれ」
口が開かないくらい詰め込んでやがるこいつ。もう少し味わって食った方が良いんじゃ無いか?
「もも……ゴクン、兄貴、これめっちゃうまいな!」
「高いしな」
高い物は大抵良いものだ。安い物との違いが良く分かる。
「ごちそうさまでした」
美味かった……
出来たら毎食これにしたいくらいだ。いや、多分飽きるな、それは。
「ごちー」
ZZも食べ終わっている。……片付けろや。
「どっか行くんだったら器片付けて涎拭いてからにしてくれよー」
「へーい」
渋々と言った様子で片付けている。自分で食ったんだから当たり前だろ。
さて、食事もし終わった、何か適当に…… 何をしよう。
これと言ってしたいことが思いつかない。本は特に欲しい物が出ていないし、見たいような放送も無い。ゲームは一つも持っていないし……。
「いや、いっそ買ってみるか」
無いなら買えばいい。今は割と金が有る。だが。
「……何買えば良いんだ?」
調べてみた物の色々ありすぎて良く分からない。レビューで判断しようにもどれもこれも似たような評価だ。
……俺が幾ら考えても駄目だな。こういうのはZZに聞いてみよう。
「ZZ、何かいいゲームとか知らないか?」
「え、兄貴ゲーム買うの」
「金余裕あるし、暇だし」
「じゃあWORLD買って!!」
「ワールド?」
ZZから聞いて調べてみると、最近……いや、五年ほど前に出たゲームらしい。フルVRの没入型、地球再現完全オープンワールドMMORPG、総プレイヤー数十億以上。
「……うーん」
良く分からん。半分以上知らん単語ばっかりだ。
「どんなゲームなんだ、これ」
「何かレベル上げてジョブとか設定してやる奴だってさ」
「……?」
駄目だ、ゲーム関連には弱い。
「……まああれだな、やったら分かるだろ」
「兄貴って結構動いてから考えるよな」
「人生動いてなんぼだろ」
取りあえずヤケクソでもいいから動けば何かが有るかもしれないしな。