死屍累々であった。
銀河さえ埋め尽くす無数の人山。その全てが悉く斃れている。
バミューダ・アロの抵抗は複数人での集団戦により、完全に封殺されていた。
「何じゃ、もう終わりか」
『まあアレだけやればな。寧ろ。ここまで抵抗出来た事を褒めるべきだろう』
崩れ落ちたバミューダの前で、天道と極が呟いた。
集められた強者達は戦いが終わってからは特にする事も無く、各々勝手に放浪している。
この場に残って居るのはこの二人と、シルバリティアのみだ。
「うん、やっぱり彼は面白い運命にある」
「お主もそう思うか? 私もアレは色々難儀な事になると思っておってな」
『私も同意だ。これだけの縁があるとは』
三人は、この場にいないサイボーグの少年の事について談笑する。
特に目を引くような所は無く、弟思いでこそあれど実力は到底伴わない。
生きる傍らで踏みつぶしてしまいかねない程、弱い存在。
それが、なぜか自分達の様な実力者と縁を持ち、尚も生き延びている。
その事が、超越者たる彼ら彼女らにとっては不思議であり、興味をそそられる物だ。
「そう言えば気になっていたんだけど、彼、あのアダムと言っていた機械人形にいつ知り合ったんだろう? 恐らくそこが縁の始まりだと思うのだけれど」
「知らんの。聞いた覚えも無いし……」
『そうだな。気になりはしたが、特に聞く事でも無い』
XXXがいつアダムと知り合ったのか。その事について語られた事は無い。記憶を見た時でも、その辺りは本題でなかったため誰も見ようとしていないのだ。
「戻ってきたら見てみようか」
「うむ、面白そうじゃ」
『そこまで興味は無いが、見ると言うのなら同行させてくれ』
圧倒的な力を有する存在達が、矮小な物の事を平然と娯楽扱いする様子がそこにはあった。
平然と天体を砕き、万年を生きる超越者達にとって、生きる事とは娯楽である。
当然何事も続ければ飽きが来る。故に彼らは二つの道を選んだ。
一つは、精神を木石のように成す事。
どれだけ飽きようとも、それであれば平然としていられる。
最も、元々の時間感覚がおかしい物が多く、そうなっているのかいないのか、傍から見てもかなり分かり辛いのだが。
そしてもう一つは、常に娯楽を追い求める事。
その場合、彼らは自分達より寿命の短い物を標的にする事が多い。なぜなら、娯楽とは短い間隔の方が多く生まれてくる物だからだ。
「しかしまあ……」
そこで、シルバリティアが話を切り、天を見上げる。
そこには超越者たる三人をして、尚圧倒的極まる絶大な力を有する者どうしが戦いを繰り広げていた。
「一体何を思ってあそこ迄の力を手に入れたのか」
「生まれつきじゃろ。そうでなけれあれ程の力なんぞ持つ必要が無い」
『それか、何かの副産物か、だ。力を目的としていなくても手に入る事は多い』
話題が、圧倒的な力を有する二人へと移り変わる。
彼らからすれば、力とはそこまでして手に入れる物では無いのだ。
「……そう言えば前に、アレ程では無いが相当なのと戦ったな」
『あの白い女か。あれも相当だったな。……確か、あれは何かに従っていると言う話だったが』
「おや、私の知らない話かい?」
話は以前彼らの戦った、白華へと移動する。
天道は全く見えない程馬鹿げた速度を有する白い女を相手に戦った記憶を思い返していた。
「まるで見えん程早い。こっちが一手打つ間に十も二十も行動してくる。あれは厳しかったのう……」
「それも、生まれつき得た力かな? どうだろう?」
「どうじゃろうな……動きは見事な物じゃったと思うが」
がやがやと会話を繰り広げ、時間が過ぎていく。
周囲では天上の戦いの影響で破壊がまき散らされ、地殻変動が引き起こされているが三人は気にも留めない。
と、一際大きい揺れと共に地が引き裂かれ、そこから二つの影が飛び出した。
「やった、地上だー!!!」
うおおおおおおおようやくの地上だ! 太陽が眩しい! もう地下は嫌だ!
「兄貴―、おれあの人らとお別れしてくるわー」
「おう。しっかりお礼言っとけよ!」
アダムにZZと一緒に冒険してくれた人たちを引き渡し、安全な場所まで連れて行ってくれるよう頼む。
まあ、今安全な場所があるのかは分からないが。
「……一体どんな規模の戦いだよ」
バミューダ対俺の呼んだとんでもな方々の戦いは終結しているようだが……問題は、上だ。
未曽有の光が煌めき、残光をたなびかせた一閃が走る。
今この大地が砕けていないのがただの奇跡でしかないと思わせる異常な力の衝突。到底安全な場所なんてあるとは思えない。
「早く終わってくれよ……?」
思わずそんな言葉が口から漏れる。
言った所で何かが変わる事は無い。あの戦いは俺の意思なんて介在する余地は到底ないのだから。
「取りあえずあの四人は適当な街に送っといた。あの連中なら自力で戻れるだろ」
「助かる。……で、どうする?」
「逃げるなら早い方が良いだろうな。規模が次元違いだ。俺でも何も出来んぞ」
……正直、する事は全てしたのだ。さっさと帰って身の安全を確保したいが……その前に最低限俺が声を掛けた人達を回収しておきたい。
まあ、俺が何を言った所で聞いてくれるとは思えない……
「っ!?」
天から、光が迸った。
明らかに今までの物とは質が違う。さっきまでのと比べても更に圧倒的な規模。
横を見ればアダムも見上げている筈だ。これは……
光が落ちる。それはまさしく天の落下であった。
「……カリオストロ」
天上より落ち、地に叩きつけられたその姿を間違える事は無い。例え十キロ離れていても正確に認識してしまうだろう。
だが、最大の障害と見ていたこの存在が倒れているという事は……
「俺の勝ちだああああああああああ!!!!!!!」
歓喜の咆哮が響いた。
さっきまで繰り広げられていた途方も無い戦いの当事者が上げた声にしては余りにも単純で、それ故に強い感情が籠っている。本当に嬉しかったんだろう。
「……これで、終わり、か」
続きに続いた騒動の末。その終着点がようやく見えて来た。
視界には無数の破壊痕が刻まれた大地と、ぐちゃぐちゃにかき回された天空。地下も崩落しているし、問題は山積みだろう。
まあ、うん。俺達の所為では……うん。取りあえず、面倒な事になる前にさっさと逃げよう。
「アダム、あの人らに話つけてくれ」
「お前がやれ」
「畜生やっぱそうなるよな……」
勝手気ままに世界を放浪しているであろうあの人達の事を考えると物凄く頭が痛くなってくる。
まあ、体が痛むよりはマシか。しゃーない、取りあえず近くの天道さんから……
それが降った。
地響き……じゃない、世界が揺らいだ。
そんな感覚、それが真実だと確信してしまう。
ゆっくりと、それが立ち上がる。
三メートルを超える身長、宇宙のような羽、そして絶望的な威圧感。
「…………何なんだよ」
思わず漏れた声は、目の前の存在を知るが故に。
「アイギス七界神、虹……」
その顔は、世界でも有数に有名な顔だ。
ありとあらゆる媒体で有数の危険存在と語られる極限的な力の象徴。それが、なぜ、今、ここに。
「消耗しているな、結構」
言葉は、疑問に対する回答の一つだった。
狙っていたのだ、ゼロエルとカリオストロが戦い消耗したこの瞬間を。
「では死ね」
宇宙が動く。何もかもが動く。
何も出来ない──
「ひっさしぶりだな! クソゴミ共がよぉ!」
先程まで繰り広げられていた戦いのそれにも匹敵する、途方も無い衝撃が辺りに轟いた。
この天体こそ壊れないように配慮しているが、それは威力が互いに伝わったという事でもある。
「前に俺の事数で囲んで落としたチキン連中だろ? 今更何のようだ!? ああ!?」
答えは無い。
ただ、虹と呼ばれた男はその腕を振りかぶった。
直後、衝撃が前方を薙ぐ。
宇宙が、次元が、世界が、遥か彼方多元宇宙の果てまで貫かれた。
単なる拳の一撃は、それ程の破壊力を秘めていたのだ。
「っう! ハハ! いいな! 殺し合いだ!」
負傷と消耗をした状態でありながら、ゼロエルは戦いに向けて笑い……そこへ、黒影が襲い掛かった。
「……あ?」
疑問の声を上げたのは襲撃者であった。
今のタイミング、ゼロエルは反応出来ない。当然、この武器は体を貫いている筈だ。
なのに、返って来た感触は何か硬質な物に阻まれたような物。
そこで、襲撃者は顔を上げ、貫こうとした相手を見る。
「……我の戦いに、横槍を入れるか」
「ああ!? 何が横槍だ! テメエの負けだ! 俺の勝ちでな!」
「喧しいぞ。我はまだ生きている」
騒ぐゼロエルの言葉を切って捨て、カリオストロは襲撃者へと向きなおる。
「ヒヒヒヒャヒャハハハハハハハハ!!! 何だ、何だよ、動けんのかよ! 鬱陶しい! 死んどけよ!」
まるで影法師のような姿。闇に溶け込めば輪郭さえおぼつかなくなる暗黒。にも関わらず、表情が読める。
アイギス七界神、
「黒華、油断はするな」
「ああ、ああ! 油断はしない、しないとも! 油断なく無残に滅茶苦茶にぐちゃぐちゃにごちゃごちゃに殺して終わりだよ!」
叫びと共に武器を握る。
鉄杭としか例えようのないそれは、指の間に握り込まれまるで獣の爪のように突き出ていた。
ゼロエル、カリオストロ、虹、黒華。
四者が牽制を利かせ、状況が膠着する。
もしこの場で全員が同時に衝突すれば、間違いなくこの宇宙……こんな小さな範疇では無く、それらを内包する大泡の大宇宙が壊れていく。
それ故に誰も動けない。
だが、ゆっくりと、空気が張り詰め……
「時間を掛けるな」
塗り替えられた。
「今回は急ぎだ、外から壊すだけでも良いだろう」
塗り替わった。
宇宙を用意に破壊する四者、彼彼女らが、一斉に動きを止めた。
違う、余りに違う。
隔絶し過ぎている。
響いた言葉だけで分かる絶望的な力の差。蟻と宇宙でさえ比較にならない。
「あの方から、そう言われていただろう?」
時空に開いた狭間から、その声は響いていた。
その声の主に、ゼロエルは一つだけ辺りを付ける。
隔絶した圧倒的な存在。絶対者、頂点。
「極……天……」
呻くように漏れた声は、彼女の精一杯の抵抗であった。
「おや、知っているのか。なら話が早い。抵抗は無駄だ、死んでくれたまえ」
間違いなく、そう願うだけでもゼロエルを殺すに足る力を有している絶対的な存在が、何もせずにわざわざそう言ってくる。
滑稽な程違和感に満ち溢れた状況だが……それを笑う余裕は、この場の誰にも無かった。
「下らない冗句は品位を落とす、止めた方が良い」
男とも、女とも、老人とも、赤ん坊ともつかない、或いはそれら全てを重ね合わせたような声だった。
「それで、Iから干渉は禁じられた筈だが」
生まれたての老人、無数の人生を生きた赤子。二つの矛盾が違和感なく成立し存在を形どる。
双生の幼翁、アンドロギュノス・ヘルマプロディトス。
極天の一角が、姿を現した。