九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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極天の片鱗

「確かにIから干渉は禁じられている。だが、それはあの方の意向の前に考慮する物では無い」

「成程。その場合私は実力行使に出るしか無いが……どうするかね」

 

 死が、吹き荒れる。

 

 極天の感情とはそれだけで他者を害し、用意に殺す程の物。それはゼロエル達ですら例外では無い。

 

「……!」

 

 身体が生命活動を止め掛けた。復帰したのは自分の意思では無い。

 単に、目の前の幼翁が剣呑な雰囲気を抑えただけだ。

 

「見ての通り、私たちが争えば碌な事にはならないが」

「それも考慮に値しない。寧ろ、私としては壊れた方が都合がいい」

 

 次元の向こうから聞こえる声の主に、幼翁は肩をすくめ、溜息を吐いた。

 

「そうか。それでは場所を変えさせてもらおう」

 

 そう呟いた瞬間の事。

 なんの前兆も無く声の主と、幼翁が消失した。

 場所を変える、と言う言葉が真実であれば本当に場所を移しただけなのだろうが……その場の誰も、極天の移動は感知できなかったのだ。

 

「……桁違いめ」

 

 ゼロエルの呟きが、()()()()()()()()

 先程の消失と同時に、虹と黒華も姿を消していた。連れて行かれたのだろう。

 圧倒的な格差を思い知り……それでも尚、ゼロエルはそこを見据えるのだ。

 

 

 

「さて、ここなら良いだろう」

 

 遥か果て、多元宇宙の、全てを内包する泡(オムニバース)の、遥か外。

 圧倒的な無がどこまでも無い、無へと彼らはたどり着いていた。

 

「ああ、確かにここなら影響も出にくいな」

 

 姿を見せた声の主は、そう言って軽く笑う。

 銀の髪が揺蕩い、痩せすぎな程細い身体が不健康な印象を与える男だ。

 だが、間違いなく彼は極天の一角。幼翁をして油断出来る相手では無い。

 

「しかし、まさか双生の幼翁と戦う事になるとは」

「そちらも中々有名だろう、反逆者、ウルテミ」

 

 ウルテミ、と呼ばれた男は不気味な笑みを浮かべ、それに答えた。

 直後、幼翁から波動が放たれる。

 それは矛盾。防ごうとも、避けようとも、耐えようとも、真逆の結果が出現しそれを強制する幼翁の力。

 対して反逆者はそれを撃ち返す。

 如何なる力にも反抗し、受け入れないという異様な特性。それこそ彼の二つ名の由来。

 

 絶対即死と、それを弾く力。両者の間で凶悪な力が拮抗する。

 無が砕け、泡が弾け、手近な宇宙が塵も残さず消し飛んだ。

 

 バチン、と響いた音と共に途方も無い大爆発が巻き起こる──

 

 

 

 

「……きろ、おい起きろ間抜け」

「……あ……アダム?」

 

 視界一杯にアダムの顔が映る。え? アレ? 何があったん?

 

「知るか。取りあえず虹が降ってきてお前は気絶した。その後の事は俺も分からん」

 

 何かゼロエルは帰って行ったしな、とアダムが呟く。

 辺りを見渡せば何やら錬成陣を記しているカリオストロの姿──マジかよまだ動いてんのか!?

 

「一旦落ち着け、向こうにこっちをどうこうするつもりは無いらしい」

「……信用できるのか?」

「信用するしかねえな。特に何も出来ねえんだから。後、ずっとああやって書きまくってるからな。話しかけてもまともに答えやしねえ」

 

 見れば、カリオストロは真剣な表情で無数の錬成陣を記してはそれを書き換えまた別の物を作り上げたりを繰り返している。何をしているんだろう……

 

「おっと、どうやら全部終わったらしい」

 

 ふわり、と空中からアンキさんが舞い降りた。割と全身ボロボロに見えるが……大丈夫なのだろうか。

 

「しかしカリオストロは一体何をやってるのか。負けたってのは聞いてるけれど、組んでる陣が途轍もないよ、全く」

 

 そう言ってアンキさんが地面に降りる。

 というか、アンキさんでも何をやってるのか分からないのか。これは俺が考えても駄目そうだな。

 

「あの、色々とありがとうございました」

 

 この人には色々とお世話になった。……殺されかけもしたが。まあ、助けられた事の方が多い、のか?

 

「別にいいさ、今更だ。ああそれと、例のカトラとか言った学士、どうするんだい? 向こうに残る理由は無くなったけれど?」

「えーっと……」

 

 取りあえず一旦戻って連絡を……あ、その前に例のリストを集めておきたいな。

 

「あの、すみません。これって作れたりします?」

 

 アンキさんに例のリストを渡す。とはいえ事実上の目標は異常純水だけだ。

 吸血鬼の牙辺りは当初の予定通り自力で探す。

 

「これならどうにでもなるよ。ちょっと待ってな。後、他の物……天使の輪ならさっきの戦いの影響でそこらに散らばってるよ。キラキラ光ってるだろ? 集めて来な。

 それと、吸血鬼の牙は王都から南西に住んでる連中が居る。そいつらに頼むと良いだろ」

 

 そう言ってアンキさんは飛び立った。

 ……取りあえず残ってる人たちにも声を掛けて、今の内に集められる物を集めておこう。……時間を掛けたらまた変な騒動に巻き込まれそうだ。

 

 

 

「酒か。まあ良いぞ、持ってけ」

 

 鬼族の秘酒……入手。匂いを嗅いでいるだけでくらくらしてきた。

 

『氷ならいくらでもある、好きにしろ』

 

 一億年前に凍った氷……入手。手で触ることが出来ないな、くっつく。

 

「え? 髪? いーけど何に使うの?」

「ちょっと記憶を戻すのに……」

 

 闘神の髪……入手。普通の髪とどう違うんだろう。

 

 そして後は視界に広がるキラキラした物を集めていくだけなのだが……

 

「これ、物質か?」

 

 持っている感触こそするのだが、全く重さが無い上に光が煌めいているせいで、視界に何か出来の悪いエフェクトが掛かったようにしか見えない。何なら乱反射した光と区別がつかないぞ、コレ。回収には時間がかかりそうだな……

 

 

 

「熱心に集めるわねぇ」

 

 地面を駆け回り光輪の残骸をかき集めるXXXの姿を見て、エンヴィーが笑う。

 読み取った記憶は彼女でも容易に読み取れない程厳重に封鎖されていた。それだけ封鎖の主は知られたくなかったのだろう。

 

「一体、どれだけの運命を背負っているのかしら」

「ええ、私も気になるわぁ」

 

 クスクスと笑うエンヴィーに、声が掛かる。

 振り向けば黒髪を螺旋状に切りそろえた女──クリテルマが微笑を浮かべていた。

 

「あの子、一体何があってああなっているの? 不思議な位色々と引き寄せているけれど」

「さあ? それは私でも分からないわ。厳しい過去ではあるのだけれど、今のような運命を引き寄せる物は見えてこないもの」

 

 宙を舞う二人の会話の焦点は、彼女らからすると有象無象でしかない程矮小なXXXへと向けられていた。

 分からない、だからこそ面白い。

 しかし、中には分かった方が面白い事もある。

 だからこそ、クリテルマは一つの事を尋ねるのだった。

 

「あの子の過去、教えてくれないかしらぁ?」

「ええ、良いわよ。あなたの疑問の答えは無いと思うけれど」

 

 ゆらり、と浮き上がったエンヴィーが空に映像を映し出す。

 と、それは急激に広がり二人の姿を包み込んだ。

 

「それじゃあ、一人の少年の過去十年分、流していくわ」

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