九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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過去─XXX(2)

「……なあお前、そんなに聞いて楽しいのか? どうせ出られないんだぞ?」

「え? 楽しい!」

「そうか……」

 

 案の定これは俺の教育能力を調べる試験との事だが……予想以上の成果を上げているらしく、継続を言い渡された。言い渡されてしまった。

 いやあの、割とキツイ。というか限界に近い。

 延々と質問責めにされるわ私物を勝手に使われるわ飯は食われるわ……何と言うか、自分の時間が無い。

 

「兄貴―! コロニーってどんなとこなの?」

「……色々な奴が住んでる所」

「どんな奴!?」

「……右手から振動波出したり、プラズマレーザー撃ってきたりするような奴ら」

 

 恐らく大きくズレているとは思うが、俺の記憶の中でコロニー内の人間というと、そんな奴らしか思い浮かばなかった。……今も大概ではあるが、あの頃に比べるとかなりマシだろう。寝て起きても死ぬ心配をしなくていいんだから。

 しかしそれはそれとして今もキツイ事には変わりが無い。なにせ、寝れないのだ。

 現在時刻深夜三時、ZZが寝よとする俺に延々と質問をするせいで寝れない。眠い。

 

「じゃあさ! どうしてここ来たの!?」

「……拾われた……」

 

 駄目だ、瞼が落ちてきた。……博士、俺にもこんな機能残してたんだな……眠い。

 

 

 

「っ!」

 

 いかん、寝てた! ええい、試験に悪影響がでる!

 

「あ、兄貴起きた!」

「……何だその、兄貴って」

 

 何か寝る前にも言われてた気がするが、別に俺弟居ないんだけど。そもそもいたとしてもお前じゃないだろうし。

 

「博士が言ってたぜ! おれとXXXは兄弟機だって! だからおれ弟! XXXが兄貴!」

「……メンドクセエー」

 

 あの博士コイツ面倒になって俺に押し付けたんじゃないか? その位面倒だぞコイツ!

 しかもまあよりにもよって兄弟かよ。何故血縁関係に。マジで何考えてんだあの博士。

 いやまあ、別に兄弟機はそう言う意味じゃないのだが……それはそれとしてコイツは間違いなく勘違いするだろうし、多分博士も分かってるだろ。

 

「別にそう呼ぶのは良いけど、俺が眠たくなったら寝かしてくれ……」

 

 分かった! と元気だけは良い返事を返してくるZZに、多分今夜も寝れそうに無いなという確信が募っていった。

 

 

 

「制限時間三十秒、戦闘試験を開始します」

 

 審査員の声が響くと共に俺はその場を駆け出した。

 目の前に居るのはキャタピラで動き、装甲の張られた搭乗部に砲塔を付けた一般的な戦車……に見える、研究されている新型戦車だ。

 従来品と同規格の外装を流用可能なのにも関わらず速度、旋回性能に五十パーセント以上の性能向上をやってのけたらしい。加えて砲火力は倍にしたとの事。直撃すれば俺でも重症を負うだろう。

 当然一般的な歩兵では相手出来ないだろうし、軍用のサイボーグでも一対一は厳しい筈だ。だが、俺は一般的ではない。

 

「ハアアアアア!!」

 

 叩き込んだ回し蹴りが、戦車を一瞬浮かせて横に倒す。即座に復帰し見た目からは想像できない加速力と機動性で走り回るが、そのどちらも俺より劣る。

 精々時速百キロ程度では俺に遠く及ばない。俺ならやろうと思えば三百キロは行けるし、直線に限って言えば音速さえ超える。この戦車は俺の敵じゃ無い。

 

 ズン、と体を揺らす重低音。

 戦車が俺を目掛けて砲撃を放った。

 それは小回りを重視していたとは言え、時速二百キロは出していた俺に寸分違わず突き進み──装甲に弾かれた。

 

「っと、コレは弾けるのか」

 

 接近前に安全を取って広げていた装甲が役に立った。相当演算能力の高いシステムを使っているのかあっさりとこっちを追尾してきた砲塔だが、念の為というのは良い物だ。

 

「ならま、ビビる事も無い!」

 

 懸念していた砲撃も、用意してさえいれば防げるのだ。

 突貫した俺の手によって物の数分で戦車は爆破解体された。

 

「戦闘終了。実験機XXXは所定の位置で待機を行って下さい」

 

 そんなアナウンスが響き、俺は所定の位置──この戦闘試験室入口付近に戻った。

 しかしどうしたのか。普段なら所定の位置では無く命令があるまで自室待機なのだが。

 嫌な予感と共に待機を続けていると、案の定部屋に入って三度目のアナウンスが鳴り響いた。

 

「戦闘試験を開始します」

 

 ただそれだけを音声は告げ、後は何も言わない。

 制限時間無し、標的も無し──いや、反対側の扉が開いた。あれが次の標的か。

 しかし、戦闘実験二連続は珍し……い……

 

「兄貴ー! 何でんなとこいんのー?」

「ZZ!?」

 

 間違って入って来たのか。そう言おうとして、ここの博士達がそんな間違い等許さないだろうと言う事に気付く。

 なら、戦闘試験の相手とは……

 

「……え? 兄貴ー、何してんのー?」

「……何も聞いて無いのか?」

 

 知らねー、と言い放つZZに、俺は考えを巡らせる。

 わざわざ相手に戦闘を伝えない意味とは? ZZと戦わせる意味は?

 ……つまるところ、そんな思考は無駄だという事だ。

 俺を兵器として作り上げるなら……兵器に、思考は不要なのだろう。

 なら、この場の正解は。

 

「いぎゅっ……?」

 

 ZZ(こいつ)を、破壊する事だろう。

 前蹴りがZZの鳩尾に突き刺さり、呻き声を上げさせる。動きを止めた内に変形を済ませ、顔面に砲撃を撃ち込んだ。

 重量が詰まった砲弾は、着弾少し後に起爆し相手を完膚なきまでに破壊する。いつもと同じだ。それが、例えだれであろうとも……

 

「……あ、兄貴?」

 

 声が、響いた。

 ……こいつも改造されていたのはまあ、いい。だが、今の一発を食らって意識があるのは……いや、分かっている。加減してしまったのだ。

 さっきの砲撃は普段より勢いも威力も劣っている。それこそ、ちょっと改造を施されただけのサイボーグでも耐えられる程度に。

 

「っ!」

 

 拳を振りかぶり、ZZを殴り飛ばす。力が入っていない。蹴る。これも精々が生身の一撃だ。ZZは揺らいでもいない。

 

「……兄貴、止めろよ」

 

 その言葉を耳に入れないようにして、右手を剣に変えた。

 振るう。相手の首を切り落とす為。

 だが、それは首に届くどころか数センチは手前で止まってしまう。

 

「……何でだよ」

 

 コイツを殺さないと試験失敗だ。そうなったらどうなるかは分からないが……少なくともまともに生きている事は無いだろう。

 だから殺さないといけない。いけないのに。

 

「何で動かねえんだ……」

 

 手は、動いてくれない。体も、俺の命令を拒んでいた。

 ……いや、命令を拒んでいるのは俺だ。俺が、殺せと言う命令に逆らっている。

 高々一週間と少しだ。何があった訳でも無い。迷惑を掛けられ続けて、実害もあって、コイツを殺さないと確実に不利益がある。

 なのに、殺せない。……俺は、ここまで甘い人間だったのか?

 

「実験機XXX。戦闘試験を完遂せよ」

 

 そう言われるが、体は動かない。動かす気も、無くなって来た。

 だらん、と腕が下がる。無防備な状態だ。

 

「兄貴! 人の事何発も殴んな!」

「……」

 

 それでいいのか、とツッコミたいが今は返す言葉が無い。この後の事は大体決まっているのだろうし、コイツも処分される可能性が高いだろう。

 そして、俺に関してだけは可能性ではなく間違いなく処分されるのだ。

 ……今更、情が湧いた、か。

 別にここに拾われるまでの間に人を殺さなかった訳じゃ無い。生きる為、身の安全を守るために十人以上殺している。

 だと言うのに、その相手が知り合いというだけで俺は出来なくなるのか。……卑怯者の言い訳みたいだ。

 

「XXX。戦闘試験を完遂せよ」

「……できません」

 

 その一言を漏らすのが精いっぱいだった。この後俺は処分されるのだろう。なら、せめて、ZZがいつも言っていた兄のような振る舞いを──

 

「それは良い。成程、良い反応だ」

「……!?」

 

 間近にて、声が響く。聞きなれた声、いつも俺を改造する時主任を務めていた、あの男。

 博士が、なぜこの場へ!?

 

「正直な所、躊躇なく攻撃したお前を見て少し焦った。だがまあ、加減はしていた様だ。何よりだよ」

「……何を、言って」

「この試験の目的はお前の反応では無い。()()()()()()()()()()

「補助……人工知能?」

 

 何だ、何を言っている、この博士は。

 

「何、主意識の自由意思を無視した行動を取る事が出来るのかの確認だ。

 実験機XXX、戦闘コードZE、指定標的を破壊せよ」

 

 意識が、落ちる──

 

 

 目が覚めた時、目の前にあったのはバラバラになったZZであった。

 

「……は?」

 

 何が? 何で? なん、え?

 

「試験合格だ。おめでとうXXX。私室に戻っておくと良い」

 

 そう言って博士は部屋を出ていく。

 なにが、あった?

 なんで、ZZが?

 

 

 ああ……俺か。

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