九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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吸血鬼の牙

「どうだったかしら?」

「暇つぶしには良い物ねぇ」

 

 ふわふわと空を漂う二人の言葉がゆっくりと流れていった。

 一人の少年の記憶を見終え、思い思いの感想を呟いている。

 そこで、クリテルマは記憶の一人に焦点を当てた。

 

「あの博士と言われていた人間、どうなったのかしらぁ。何か色々と目的が有るみたいだったけれど」

「流石にそこまでは分からないわ。ただ……記憶を閉ざす手段手段が尋常じゃあ無いわね。魂の領域に踏み込んでいるわ。それさえ手段の一つでしか無いとすると──」

 

 神でも目指しているのかしら、とエンヴィーが呟く。

 彼女らでさえ到底不可能な目標ではあるが、それを目指す者は多い。大抵の存在は途中で力尽き、それを超える命を持つ物だろうと絶望するような余りにも高い壁。

 それに挑むのであれば博士の行いも理解はできる、とエンヴィーは締めくくった。

 

「まだまだ遠そうだけれどねえ。あのアダムに破壊される程度じゃ、スタートラインにも立てていないわぁ」

「そうね。もしかしたら壁の高ささえ知らないかも知れないわ」

 

 でもまあ、面白そうね。

 そう言ってエンヴィーは、視線をXXXへと向けた──

 

 

 

 ……なんか寒気したんだが。

 風邪? いや、俺が風邪ひく訳ないしな……何だったんだ? ……後でアダムに見てもらうか。

 それは兎も角、ようやく集まったぞ、天使の光輪。

 一応袋に入れてあるが……大丈夫かな? 駄目だったらゼロエルを呼んで、くれるよう頼んでみるか。

 さて、コレで残りは……釘と、牙。

 釘に関しては戻ってから買う……あ。

 

「ヤバい、何も手に入れてない」

 

 色々と騒動があり過ぎて大元の目的である金稼ぎを忘れていた。……まずいぞ、今の手持ちで足りる金額じゃない。

 ええい、どうにかならないか……?

 

「ZZ、何か持ってたりしないか?」

「持ってるよー」

「よくやった!」

 

 ZZが懐から石ころのような物を複数取り出して来た。

 さて、ここで三つの問題が発生する。

 一つ目はこれが高く売れるか、という事。これで安値だったりしたら今回の旅の意味が殆ど無くなる。

 二つ目はそもそもこれを持って帰って大丈夫か、だ。これに関しては一応この場でも調べられる。

 そして、最も重要な三つ目。

 この石は、ZZが自分で手に入れた物だ。それを俺の都合で貰うのはどう考えてもまずいだろう。

 

「兄貴ー、何か困ってるんだろ? 使ってくれよー!」

 

 何だろう、凄く、何かが痛い。これが、心か……

 

「馬鹿やってんじゃねーぞ。それとそれただの石ころだ。ほぼ価値無いぞ」

「何だ使えねえ!」

「じゃ返して!」

 

 ZZのポケットに石を詰め込みながらアダムと今後について話し合う。専らの内容は金だ。

 

「金が……金がねえ……」

「カトラの奴に壊晶でも貰え。あれならそこそこ高く売れる」

「マジで!?」

 

 一瞬で解決が見えて来た。やっぱアダムは凄い。

 しかしそれはそれとしてコイツには余り頼りたく無いのだが。

 

「で、金はまあどうにでもなるとして、吸血鬼に貰いに行くって話だろ。さっさと行くぞ」

「王都の南西だったっけ? そんな雑な感じで分かるようなもんなのか?」

 

 

 

「分かる奴だコレ」

 

 あの後直ぐに出発した俺達が目にした物、物凄く豪奢な城であった。おまけにそこかしこにザ、吸血鬼と言わんばかりの意匠が張り巡らされている。

 黒に逆十字、棺桶に蝙蝠……誰が見ても一瞬で吸血鬼の住処だと分かるだろう。更にそれが上から見ても分かるほどの広範囲に広がっている。見落とす処か十キロ先から視界に凄い存在感で入っていた。

 

 さて。

 吸血鬼と言う存在は俺も初めて相手する物だ。一応仕入れた情報では、周囲とは悪い関係では無い為、出来るだけ真っ当な誠意ある対応をして行きたい所ではある。

 ではそれを念頭に置いて……向こうから襲い掛かられた場合はどうすればいいのか。

 

「うわっ!」

 

 結論、反射的にぶん殴った。

 本当に反射的に出た手とは言え、十トン百トンを持ち上げ振り回す俺の腕力である。殴られた吸血鬼──牙が有るのが見えた──は面白い位くるくる回りながら宙を舞い……華麗に地面に着地……しようとしたようだががくがくと震える膝が今にも崩れ落ちそうだ。

 

「こ、これはこれは。親愛なる人間の方達……人間? まあいい、人間の方達がこの地に何の用かな? 生憎左程何かがある場所では無いが……」

「兄貴あの人無かった事にしようとしてない?」

「さっき俺ら襲い掛かられたのにあの態度は無いよな」

「君たちは反撃してきただろう! そもそも本当に人間か!? 体からまともな音がしていないのだが!?」

 

 何だか騒がしい人だ。吸血鬼と言うのは皆こんな感じなのだろうか。まあいい、今は牙が貰えたら何でも良いや。

 

「済みません。ちょっと貴方達の牙が欲しくて」

「牙? 錬金術の材料にでもするのかね? ……しかしそう安々と渡す訳には」

「うるせえなごちゃごちゃ引き延ばすなよ。牙差し出すか置いて死ぬか選べ」

「何で私が命の選択を迫られているのだ!?」

 

 面白いなこの人。

 

 

「……兎も角、君たちは我々の牙が欲しいのだね?」

「はい、三本あれば」

「まあそれなら別に良い……と言いたいが、生憎私の分も合わせて二本だけだ。他の連中に声を掛ける必要があるが……」

 

 ちょっと問題があってな、と吸血鬼……アルテミラ、と名乗った……は困ったように唸る。

 

「少し前から一族の予言に長けた者が、世界が滅ぶと言って気をおかしくしていてな。信頼のおける力だけに一族全員がパニックを起こしている。

 それに加えて先ほどまでの尋常じゃ無い振動に破壊、力の衝突! もう全員が全員怯えて地下に引きこもってしまった」

「貴方は何でそうしていないんですか?」

「私か? 何、世界が滅ぶのならそれを見てみようと思ってね。正直ちょっと後悔したが」

 

 何だあの力は……と遠い目をして呟くアルテミラさんからは何だかとても親近感を感じるのだった。

 

「それも今は収まっているようだが……一族の説得は難しいだろうな」

「じゃあお前から三本捥げばいい」

「アダムー、二から三は引けねえんだぜー」

「九九も出来ねえボケナスは黙ってろ。

 吸血鬼の再生能力なら二本どころか十本ニ十本行ける筈だが?」

 

 ううむ、とその言葉にアルテミラさんは押し黙った。

 成程、再生能力があるなら何十本歯を抜こうと関係ないな。いっそ金策で百本くらい貰っていくか?

 

「そこの君は何か恐ろしい考えをしていそうなので先に言っておくが……私の再生能力は不完全なのだ。

 私以外の一族は些細な傷も直ぐに再生していくのだが、私だけどうにも一旦致命傷を負わないと再生が働かないんだよ」

「じゃ致命傷を負わせればいい」

「痛覚は私にもしっかり存在する! そんな物騒な事を言うんじゃ無い!」

「安心しろ、苦痛は無い」

 

 ぎゃああああああああああああ、と響き渡る悲鳴と共に大量の牙が量産されていく……

 

 

 

「兄貴ー、これこんなに要る?」

「高く売れるからな、あるだけ有って困らない」

 

 それになんか折角体を張って生産して貰ったのだ。捨てたりしたら絶対悪いだろう。

 一応見返りとしてアンキさんにちょっと用立てをしてもらえるよう言って見るが……本当にこんな物で良いのだろうか。

 

「良いよ。ってかこの程度じゃ過剰な位だ。一応アレはこの世界のパワーバランスの頂点だからな」

 

 頂点なのか……何で俺がそんな人との関りがあるんだろう……普通……じゃねえけどただの一市民だぞ、俺。

 

「……お前の立場で一市民ってのも違和感あるけどな」

「俺個人としては一市民のつもり何だよ」

 

 現状への文句と疑問を語りながら、音速で空を駆けていく。

 と、そこへあっさりと小さな球体が追い付き、並んで飛び始めた。これは……

 

『頼んでたの、出来たよ。取りに来な』

「分かりました!」

 

 球体から響いたアンキさんの声に、思いっきり返事を返したのだった。

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