九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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記憶の先に

「……買うぞ」

「早くしろよ」

 

 折角人が決意を決めて億単位の買い物に再び手を出そうとしているのに煩い奴だ。

 まあそんなアダムの事は放って置こう。今は目の前の物……表示された購入ボタンを押す事に集中だ。

 

 先日遂に騒動の決着が着き、吸血鬼の牙と異常純水の二つを入手、加えて集められる物を一気に集めた結果……残る物は呪いの籠った釘一つとなった。

 という訳で戻ってそれを購入することに全神経を集中させている。

 高い。めちゃくちゃに高い。

 何だか小難しい説明──一般にそう呼ばれる物よりも純度が高いだの万年物だの──が書かれている説明欄を何度も読み直し、エンヴィーさんの言っていた物と相違が無いかチェックし続ける。

 ……単純極まるメモに書かれた括弧の中身を何度見直しても変わりはしない。説明書きも同じだ。

 よし、やるぞ、買うぞ……

 

「さっさとしろ!」

「あー!!!」

 

 コイツ人の背中を……あー、買っちまった!

 

「お前なあ! 人が悩んでるところをなあ!」

「どうせ買う一択だろ。時間掛けるだけ無駄だ」

 

 確かにそうだが! それでもこの金額は時間を掛けるだろ!

 それに、覚悟……と言うか純粋に悩む事がもう一つあるのだ。

 

「カトラさんにもちょっと無茶して貰ったし……」

 

 帰って来てから色々と説明をして、その後の判断は任せる上でこっちで出来る事はしてみると言った──要するに体のいい丸投げみたいな物だが、カトラさんは快く了承してくれた。ほんとに良い人だ。

 という事で作って貰った壊晶を売りさばき、俺の手元に必要金額の最低限を残して金をカトラさんに渡した。

 そんな経緯もあってさっき釘を買った俺の手元にはもうまともに使える金が無い。またバイト生活だ。

 

「だったら尚更悩むのは無駄だな。オラ、届いたぞ。とっとと持ってけ」

「おう……ただ、ちょっと不安だな。博士が消した記憶だぞ?」

「知りたいっつったのテメエだろがよ」

「そうだけどさあ……」

 

 何と言うか、びっくり箱だと分かっていて開けると言うか……続きものの知らない本を読むときのわくわくと、何とも表現しずらい未知の既知に触れる不安があるのだ。

 しかし、一度決め、集めた以上最早見るのは義務の域だ。

 そして俺は意を決してエンヴィーさんの元へと足を進めた──

 

 

「それじゃあ、始めるわ」

「お願いします」

 

 アダムとZZ……それに加えて天道さんと極さん、後なぜかゼロエルがその光景を眺めていた。

 現在俺は椅子に座らされ、頭にエンヴィーさんが手を当てている状態である。

 一応目は閉じているし後ろから手を当てられているのだが、何と言うか感覚だけで色々とくすぐったい。

 そんな余計な事を考えていると唐突にエンヴィーさんの手が動いた。

 集めた品をすり潰したり混ぜ合わせたりして出来た膏薬を手に擦り込み、何やら陣を俺の周囲に書き、中心に釘を打ち込んだ。

 急激に力が集中しているのが目を閉じていても分かる。竜巻の中心に居るような、静止してるのに動くような矛盾した感覚。

 それらが一気に体の中へと潜り込み……直後、俺は全てを思い出した。

 

「……駄目だ」

 

 まずい、まずい、忘れていた事がまずい。具体的に何も知らないのがまずい。

 一つ確かなのは俺が生きていると駄目な事。俺が生きていると実験が進む。わざわざ博士は俺を生かした。確実だ。

 判断は一瞬、俺は自分の頭部を握り潰そうと──

 

「落ち着け!」

 

 アダムがその手を止めた。

 やめろ、離せ。俺が生きていると駄目だ。ZZが、ZZ!

 

「落ち着けっつってんだろ!」

 

 途方も無い力で俺の頭が床に叩きつけられる。座っていた椅子がねじ切れた。

 響いた音は床がへこんだ音、俺の頭には傷の一つも無い。

 

「離せ! 駄目なんだ!」

「喧しい! 何が駄目だ! 自殺しようとしやがって!」

「自殺!?」

 

 ZZがアダムの言葉に驚いた。

 ああくそ、コレでまた死ねなくなった。

 駄目なのだ。俺が生きているとZZが生きていられなくなるのに。

 

「取りあえず何が有ったか詳しく話せ。一々お前の思考を考える程暇じゃねえ」

 

 

 

 アダムの言葉に従い、思い出した事を話す。

 博士に会った事。博士が俺がいると実験が進むと言った事。……それにZZが関わっている可能性が極めて高い事。

 

「……無駄な心配……じゃ切り捨てられねえな」

 

 これ以上ない程苦々しい顔でアダムが言い放つ。

 博士の行動はアダムにも予想が付いていない。目的も不明なまま。

 分かっているのは博士がZZを実験に巻き込もうとしている事、それに俺が関わっている事。そして、それらの阻害がアダムでさえ難しい事だ。

 

「だからと言っておまえが死ぬ理由にはならねえぞ、アホらしい」

「兄貴死ぬなー!」

「……でも」

 

 俺が生きている事でZZに不都合が起きるなら、俺は死ぬべきである。

 それが兄として出来る数少ない事なのだから。

 

「んな間抜けきった考えはまあお前らしいが……兄貴名乗るなら生きろや。ZZと一緒によ」

「無理だ。お前も知ってるだろ。博士は()()()()()

 

 アダムに天道さん、極さん、加えてゼロエルにエンヴィーさん。この場の全員が圧倒的と言う言葉も置き去りにする驚異的な実力者ばかり。

 だけど、それでも、博士を出し抜く何てこと予想も出来ないのだ。

 

「あーそれは良く知ってるよ。俺も追ってるが尻尾を見せねえ。

 で、それが何の問題になる。お前が死ぬ必要は無い」

「……自分で言った事も分からないのか? あの博士の計画を邪魔する方法が無いんだぞ? 俺が死ぬしか、無いんだ」

「んな訳ねえだろ」

 

 アダムが俺の胸倉をつかみ上げた。

 

「無いなら見つける。見つからねえなら作る。その程度信じられねえのか?」

 

 友人だろがよ、とアダムは呟いた。

 

「おれも兄貴死んだら悲しいし…‥泣く!」

「…………」

 

 アダムが怒りを浮かべて俺を見てくる。ZZは本気で悲しそうだ。

 ……うん。

 俺は……人を信じるのが苦手だ。

 大体疑ってかかるし、信じる時は大体打算ありき。特に自分の事なんて出来るだけ任せたくは無い。

 けれども、それでも。弟と親友位になら……思いっきり、託しても、寄りかかっても良いかも知れない。

 

「……分かった。アダム。信じる」

「それでいい。お前はいつもの間抜け面でどうでもいい事に悩んでろ」

 

 そう言ってアダムが俺から手を離した。……いや待て何だ間抜け面って。

 

「兄貴! 取りあえず研究所潰したら何とかなるか!?」

「潰せたらもうアダムが多分潰してる……けど、探すのはどうにかしてみた方が良いだろうな」

 

 思考は切り替える。

 俺が死ぬのでは無く、生きる事に。生きて、意地でもZZを生かす事に。

 俺はまた新しく一歩を歩きだした。

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