「……厄介だな」
俺の記憶からYYYYの姿を除いたアダムが呟く。
覚えている限りでも相当に面倒な力の持ち主だった筈だ。素の俺では到底手も足も出なかった。
戦闘用の補助人工知能を乗っ取れなかったら危なかっただろう。
「あんとき兄貴どうやったの?」
「博士がパスワード使いまわしてた」
ダメ元でやって見たのだが、それでなんと出来てしまったのだ。あの博士割とセキュリティに関してはガバガバな所がある。
確か結構な頻度でセキュリティに引っかかって研究員から文句を言われていた筈だ。
研究所の秘匿もあの位雑だったら良かったのだが。
「……これが五年前。今はどこまで完成している?」
ブツブツとアダムが呟き続ける。奴のCPUが限界まで稼働しているのだろう。
この件は完全にアダムに任せる事になる。俺達では碌な手段が思いつかないからだ。
そして十分前に飛んで行ったゼロエルが帰ってこない。どこかに行ってくれたのは良いが、どうなったかは言ってほしいのだが。
「……ZZ、俺らに出来る事って有るのか?」
「応援!」
「頑張れーアダム!」
「うるせえぶっ殺すぞ」
ガチでキレた様子で怒鳴られた。……大人しくこっちで対抗策を探しておこう。
「博士相手で問題なのが俺らの制御が奪われる事なんだよな」
大元が博士にある以上、停止も戦闘も自由に操られてしまう筈だ。
エネルギーを減らしまくって補助人工知能に投げれば勝手に動いてくれるのだが、その場合は俺の制御も出来なくなる。更に言えばZZにこの手が使えるかが分からない。余り当てにする手段では無いのだ。
「何かアダムに頼んでみたら?」
「結局そうなるな……」
博士相手だと俺らに出来る事なんて殆ど無い。……いやまあ、普段から俺らがアダムにできる事はあんまり無いんだが。
「一応あの研究所の間取り位なら伝えられるんだが……あそこ結構雑に変わってる気がするんだよな」
例のYYYYが施設内部の空間に干渉しているのか、脱出の際に幾つも不自然な間取りになっていた。多分こっちが襲撃を掛けると成ると一気にえげつない迷宮にもなるだろう。
「じゃあさ、全体のサイズとかわかんねえかな。そしたら何かめっちゃデカい奴で踏みつぶせるし」
「めっちゃデカいので踏みつぶせるならサイズ測る必要無いな。大陸並みの物ぶつけたら良い」
確か火星辺りに用意されたスペースコロニーがそのくらいの大きさだった筈だ。いくら研究所が大きいと言ってもそんな無茶なサイズはしていないだろう。
「それよりも空間遮断を貫く方法が欲しいな。アレをやられると何も出来なくなる」
物理的な破壊力ではまず突破不能な絶対防御。更には線状に生成する事で無敵の攻撃にも成り得る技術。
政府でもまだ実践投入には至っていない技術だった筈だが、あの研究所は五年前の段階で俺たちを苦しめる領域にまで完成させていた。
「鍛えようぜ!」
「俺ら生身じゃねえから鍛えても意味無いだろ。……カトラさんとかに頼んでみようか」
何かあの人なら空間の障壁とかぶち抜く方法を知っていそうだ。
……何だか頼ってばっかりだ。出来たら何かお返しをしておきたいのだが。
「後は何か対策出来そうな物は……」
思い返すだけでも無数に厄介な物が浮かんでくる。が、その殆どが俺達ではどう足掻いても対処不能な物ばかり。
例えば空間制御の法則生成。
字面だけでも間違い無く厄介だし、実際これをやられると俺では手も足も出なくなる。
アダム達規格外な連中なら無視して攻撃出来るらしいのだが……当然、俺もZZもそんな事出来ない。対策も、まともな物が思いつきもしないのだ。
同じように厄介だが対処が出来ない物が次々と思い浮かぶ。
観測変質性量子消失砲、電磁力型物質解体、認識時自己崩壊型情報災害……ええい、知っているだけでも三つ出て来た。これに加えて俺らの知らない物まであるとなると対策何て到底無理だぞ。
「……駄目だな。どれもこれも俺らじゃ対策取れない」
「やっぱ鍛える?」
「状況判断とかならまあ意味があるだろうけど……博士相手にそれがどこまで通じるかは謎だな」
正直、博士を相手にするのに俺程度ではかなり厳しい。何年生きてるかも分からないあの妖怪じみた野郎を生半可な事で出し抜けるとも思えないし、例え出し抜けたとしても向こうは次の手を打てばいいのだから。
……やっぱり本拠地を突き留めてアダムに突入して貰うのが一番か?
「そーらよっと。ゼロエル様のお帰りだぜ」
……帰って来たよ。面倒なので来ないで欲しい。
「あ? 何だその顔は。俺が折角来てやったってのに」
「……ありがとうございます」
何だコイツ酒飲んだおっさんかよ。滅茶苦茶に鬱陶しい。
「何だ帰って来たのかよ。で? 研究所は消し飛ばしたんだろうな?」
「逃げられたよ今畜生」
「役立たずが」
「あ?」
……またアダムがボコボコにされている。アイツ、自分より格上でもあんな感じ何だな。馬鹿だと思う。
「取りあえずになるが、連中の出方が分かった。
直方体の空間内部を丸ごと研究施設にしてやがったな。後面倒なのが無駄に良い目だ。隔離空間を解析して来やがった」
「雑な作りってだけじゃねえのか……」
ドン、とゼロエルがアダムの頭を踏みつぶした。……アイツ、本気で馬鹿だ。
「ま、この位だな。もう帰って良いか?」
「……はい」
一度も呼んで等いないし、早く帰って欲しい。何だコイツ勘違いした中年オヤジか?
そんな俺の内心は口に出せば速攻で血祭に挙げられるだろう。
ともかく、ゼロエルは飛び立ってどこかに行った。今はそれを喜んでおく。
「……アダム、何処までどうにかなりそうだ?」
「割と全部。あのボケナス天使の情報が役に立つのが腹立つが」
……あの情報から何が読み取れるんだ? 正直滅茶苦茶に適当過ぎて何言ってるのかよく分からないんだが。
「要するに博士に気を付けろ、だ。あのレベルの化け物が作る隔離空間を解析してくる奴って事がよく分かる。
更に言えば研究所を空間的に遮断しているんじゃなくて、遮断した空間内部に研究所を作っているって事だ。この場合は空間の解体を行えば一気に全部叩き潰せる」
「……お前名探偵みたいだな」
俺ではあの語り口と情報からそこまで理解することは無理だ。
それでも、取りあえず情報は手に入った。後はどうするかを聞きたい所だが……
「露骨にこっち見てくるのやめろ。今から言うんだから。
取りあえず、今後の作戦だが……まずZZを徹底的に検査する」
「え」
「え」
……え?
「え、じゃねえよボケ。まず博士の進めてる実験の目的を把握しねえと駄目だ。その為にZZを調べられるだけ調べて推測できる部分を出来るだけ埋める」
「兄貴おれめっちゃ不安なんだけど」
「おいコラアダム、ZZの体をバラバラにするとか言うんじゃないだろうな」
「んな訳ねえだろ。今から二時間程検査装置にぶち込むだけだ」
……それなら、まあ……いや、何か不安だな。
「……俺にも確認させろよ?」
「別に良いが、見てて面白くは無いぞ?」
「ZZの身の安全が心配だ」
「俺を信用するって言った矢先にそれかよ」
「それとこれとは別だ」
何と言うか、お前には色んな意味でZZ預けるのが危険な気がするんだよ。
「そうかよ。解剖し損ねた」
「おいお前コラ、今なんつったおい」
「うるせえ、それじゃさっさと始めるぞ」
「おいコラ人の質問に答えやがれー!!!」