ウイイイン、と静かな音を立ててZZの詰められた円柱状の機械が動き続ける。
単純なスキャンから空間的な干渉率、強度、靭性、性質、年数まで全部測ってくれる優れもの、との事だが……
「アダムお前冗談でもそういう事言うの止めろ。気が気じゃねえ」
「あー分かった、次からは冗談では言わねえよ」
「本気でやるのも止めろよ!?」
……これ以上無い位不安になってくる。こいつ結構な頻度で無茶苦茶するんだよな。さっきもゼロエル相手に暴言吐きまくってたし。結果見えてるだろ。
まあ一応趣味の悪い冗談では有るのだろうが……偶にその辺の加減を間違えて突っ込んでいく事があるのが質悪い。
「お前何でそう空気とかそういうの読めないんだ……」
「読む気がねえからな」
……本当にムカつく事にこいつ空気を読もうと思えば読めたりする。だが大抵の場合丁寧に話していても毒塗れの内容だったり、丁寧じゃ無い時は罵詈雑言の嵐を吹き荒れさせている。
政府は何を思ってこんなのを用意したんだ? 他人と会話するだけならこいつよりそこらの五歳児の方が適任レベルだぞ??
「人の事を内心でも悪し様に言うんじゃねえよ」
ゴン、と脳内に鈍い音が響く。
「痛ってえな! そう思われたく無いならもう少し性格と口調と精神性と態度を直して我慢と節度と礼儀を覚えろ!」
「要求が多い。初対面で殴らないで十分だ」
「人としての最低限! 後お前結構初対面の相手ぶっ飛ばして無いか?」
アダムの会っている相手が悪いのかも知れないが、大抵コイツは誰かと戦っている気がする。
……まあ、アダムの事だから煽るような事言ったり喧嘩売られたら全部買ったりしてるんだろうな。
「売られた喧嘩は買ってこそだ。気兼ねなくぶん殴れる」
「何だそのとち狂った信条。暴力に憑りつかれてるのか?」
一体全体何がどうなってそんな信条を持つようになったのか。
……考えてみれば俺はアダムの事を殆ど知らないな。
一応政府に付いている事と、地球程度五秒で爆散させられる超出力。未来予測の演算能力に全身粉々でも瞬時に復帰する修復能力。
どれもこれも今の地球文明で作れるとは到底思えない超スペックだ。
研究所でもアダムレベルを見た事が無い。
そしておまけに何度か見せている強化形態。あの状態では超銀河団級とか言った頭の悪い単位を平然と使用していた。それがハッタリ無しの場合……到底、人類の作って良い物じゃない。
「……お前ってさ、何か隠してる事あったりする?」
「言う予定が一生無い事なら無数にあるが」
「……なら良いや」
別にアダムが言わないならそれでいいのだ。変わらず罵声を飛ばし合って偶に殴りあう……そうなったら俺が一方的にボコボコにされるだけだな。
そんな思考をしていると、ピーと鳴った音が検査の終了を告げた。何だか古来の洗濯機を見ているようだ。
「どうだった?」
「……お前、どんな作りしてるんだ?」
装置から出て開口一番、検査の結果を聞いたZZにアダムが困惑を以て答えた。
「一部の技術に俺並みかそれ以上のが使われてやがる。何だこの素粒子単位のナノマシン」
「え、おれそんな凄い?」
アダムの言葉に、ひく、と口の橋が釣り上がった。
アダム以上の技術? そんな物、絶対に厄ネタに決まっている。
「未観測状態での状態の揺らぎを利用して何ヶ所も稼働させてるな……全身量子コンピュータみたいな物だ。何でこれで安定してんだ」
「よく分からんけどおれ凄いんだな?」
「勿体ない位凄い。宝の持ち腐れ、猫に小判、豚に真珠」
片っ端から見合わないと言う意味の諺を上げてZZに罵倒をぶつけるアダム。
だが正直俺もその言葉をぶつけたい。何だアダム以上って。ZZに持たせて良いスペックじゃないだろ。馬鹿に危険物を持たせるなって言われなかったのか。
「……と言うか、アダム。お前今まで気づかなかったのか?」
「気付くかアホ。政府が散々検査してただのナノマシン型サイボーグって結論出してんだ。わざわざ後で調べねえよ」
あの無能共本格的に役に立たねえな、とアダムが呪詛をぶち撒く。
しかしどちらかと言うと無能と分かっている連中の言葉を信用したアダムに責任がありそうな物だが。
「……それで、目的は?」
適当な思考と話を打ち切り、本来の検査目標を口にする。
「謎だな。正確に言うなら、広すぎて分からん。なにせ不確定性原理を悪用した、観測で現実を歪める裏技みたいな手段で動かしてる。応用的に使えば人間が想像できる範囲は大抵実現できるぞ」
「……本当か?」
アダムの口から言われてもまだ信じられない。あの天然おバカなZZにそんな超越的な可能性が眠っていたとは。
「ただ、それを踏まえてもデカい謎がある。お前、実験が進むって言われたんだな?」
「ああ、言われた」
あの時、俺が自爆を決めた一言。確実にこれから先ZZに何かが待ち受ける事の示唆。記憶を取り戻した今、忘れる筈も無い。
「どう考えても実験段階じゃない。とっくの昔に完成してやがる」
「……そんな馬鹿な」
あの博士はどう考えても実験が継続中だと言っていた。そして、アレがその判断を間違えるとは到底思えない。
なら、人類が想像できる全てを実行しうる何かでさえ、まだ目的途中?
「その話が本当と仮定すると……本当にその博士、神を目指しているようね」
「エンヴィーさん」
向こうで話していた筈のエンヴィーさんが唐突にこっちへ出現した。もうその事に突っ込みはしない。
と言うか、何だ、神って。
「何ですか、神って」
「神は神よ。全ての始まり、究極絶対の一。あらゆる存在が目指す到達点。
人のように姿を真似た物、宇宙のように規模を真似た物、機械のように精密さを真似た物。
全部が全部、神を目指しているの」
闘神なんて物もその一つね、とエンヴィーさんが言う。
闘神……神に並ぶ程強い者。それは、確かに一つの到達点なのだろう。
「ただまあ……私たちみたいな存在でも、影も形も追えない超超越存在だから、正直理解してる人なら真面目に追っかけるのは止めてるわね」
ゼロエルはまだまだ手を伸ばすみたいだけれど。
そう言ってエンヴィーさんがどこか憧れるように視線を上に向けた。
多分、羨ましいのだ。
自分が遥か昔に諦めた道を、未だに諦めなど欠片も浮かべず邁進する存在が。
そう思うとあの粗暴極まる暴君天使と、優雅なこの人に関わりが有るのが凄く自然に思えて来た。
「……神ね。そんな所にいないのによくやるよ」
「……アダム何か知ってんのか?」
「言わねえ。言うつもりもねえ」
そう言ってアダムは大きく溜息を吐いた。
「取りあえずそれが博士の目標と仮定するが……それでも絞れねえな。神へのアプローチは無限にある。存在するもの全てが神に近付く手段なんだから」
先程エンヴィーさんが言っていた事は、転じてそれだけ方法の多さを現している。それこそ、何も絞れない程に。
「予測……と言うか現実的な手段の推測とかは出来たりしないのか?」
「それを言い出すと現実的な手段が無くなるな。神に一歩でも近づいた連中何て存在しないんだから」
……明らかにさっきまで出ていた情報に喧嘩を売るようなアダムの言葉。だが、それを聞いてもエンヴィーさんに変化は無い。
多分、エンヴィーさんも、ゼロエルさんでさえ神へのスタートラインには立っていないのだろう。
「……それじゃあ……どうする?」
「ZZの記憶を覗く。良いな?」
「良いぜ!」
凄い良い笑顔でZZが言い放つ。お前が良いなら良いんだが……博士が何か仕込んでたりしないのか?
「間違いなく仕込まれてるな。それ対策でお前も連れて行く」
「……え?」