九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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記憶の海

 どぷん、と沈む感覚がする。

 海に潜った事は無いが、それが近いのかも知れない。

 周囲には無数の光が煌めきその中にZZの記憶が浮かんでいる。

 現在、俺はエンヴィーさんの手を借りてZZの記憶へと潜っている所であった。

 

「飲まれるなよ。変に意識し過ぎると混ざるぞ」

「おおう」

 

 予想以上に危険な場所だ。出来るだけ早く用を済ませたい所だ。

 

「そういや、何で俺を連れて来たんだ? 何が仕込まれてても役に立つ気がしないぞ?」

「博士はコイツとお前が兄弟機っつったんだろ。で、お前が生きて無いと実験に支障が出るとも言った。

 なら、お前は何かの形でZZと反応し合ってる筈だ。何か厄介な防御機構があったならお前経由で楽にぶっ壊せる可能性がある」

「……本当か? そうだとしても、最優先はZZにしてくれよ?」

「分かってるよブラコンクソ野郎」

「何でこの流れで罵倒されなきゃならねえんだ!」

 

 無茶苦茶言ってくるアダムと軽く揉めながら、記憶の道を進んで行く。

 浮かぶ光に映る記憶は、俺がZZと出会う以前の物も多数含まれていた。

 

「これだ」

「何時のだ?」

 

 見えている光景からは、どうも俺と会った頃のようだが……その頃に博士から何か言われていたのだろうか。

 光に手を差し込んだアダムの後を追って、俺も手を差し込む。

 一瞬眩んだ視界が戻ると、周囲はあの研究所へと変わっていた。

 

「一応どっちからも干渉は出来ねえが……ヤバい情報とかは普通に伝わるからな」

「ヤバい情報?」

「知ってるだけで知るような呪いに近い奴だ」

「何それ恐い」

 

 そう言うの出たら守ってくれよ、とアダムに頼み込んで記憶を進む。

 と、視界にZZの姿が入った。

 

「あれ見てたら良いのか?」

「それでいい筈だが……まあそれだけで終わらねえよな」

 

 その言葉の意味を聞く前に、出現した物で強制的に理解させられる。

 それは黒い靄が人型に寄り集まったような、不思議な程立体感の無い何かであった。

 音は無い。ただ、周囲へとゆっくり広がって行く。

 

「記憶ごと消し飛ばす気だな」

「さっき言ってたのどうするんだ!?」

「取りあえずそこに立ってろ」

 

 言われた通りに立ったまま待ち……俺の頭にアダムの手が突っ込まれた。

 痛……くは無い。ただひたすら不快感が凄い。

 

「あー……そら!」

 

 カチリ、と鍵を捻る様にアダムの手が回る。その瞬間、広がろうとしていた靄は一瞬の内に消え失せたのだった。

 

「よし、急ぐぞ」

「おう」

 

 靄を相手にしている間にどこかへ行ったZZを追って、俺達は走り出す。

 一分としない内に姿自体は見つかったのだが……場所が問題だ。

 

「……ここ、見た事無い部屋だな」

 

 場所も内装も全く覚えが無い。一応研究室じみた雰囲気ではあるのだが、ZZしか見当たらないのはどう考えてもおかしい。あの研究所はそこかしこに研究員がいた筈だが。

 

「コイツはここで何やってるんだ」

 

 アダムの言葉に思考から戻ってZZの方を見る。

 あいつは部屋の中央に置かれていた手術台のような物に寝転がっていた。

 これで他に誰かが居れば改造手術の最中だと判断できるのだが……人はおろか、自動制御のロボットでさえ現れる気配が無い。これはどういう事だ?

 

「……ん?」

「どうした?」

「成程」

「いやだからどうしたんだよ」

 

 お前だけ納得されても困るんだが。せめて何か言ってくれ。

 

「単純だよ。今が手術中だ」

「……誰もいないし、ZZに傷の一つも付いて無いぞ?」

 

 幾ら何でもこの状態で手術しているとなると、相当厳しい。出来ない事も無いだろうが精密機械の塊みたいな俺らにやるなら、どうしても人は必要な筈だが。

 

「傷何てつかねえよ。ZZが自分でやってるんだ」

「……外部からの操作?」

「そうだろうな。外から信号で肉体を作り変えられてる。殆どナノマシンだから出来る事だな」

 

 アダムの口調的に普通の手段では無いのだろう。という事は、態々それを選んだ理由がある筈だが。

 

「そこまでして隠したかったのか?」

「その線もあるな。しかし面倒な事しやがって。これじゃ何されてるか分からねえ」

 

 せめてもの抵抗なのか、アダムが記憶のZZを何度もスキャンするが、芳しい結果は得られていなさそうだ。

 

「駄目だ、分からん。次だ」

「次?」

 

 そう俺が尋ねると同時、周囲の景色が一気に揺らぎ、全く別の物に変わる。どうやら次の記憶に移ったようだ。

 

 少し先でZZが誰かと話している。相手は……

 

「博士……」

 

 俺の言葉に露骨にアダムが顔を顰めた。多分俺も似たような顔をしている。

 あの男の顔は思い出すだけでも嫌な気分になってくるのだ。

 

「身体に異常は無いか」

「無い!」

「そうか。今の所問題は無しと」

 

 それだけ言って博士は立ち去って行った。……何について話していたのだろう。

 

「多分改造について何だろうけど……一体何を組み込んだんだ?」

「ここじゃ分からねえだろうな。次行くぞ」

 

 再び周囲の景色が変わる。

 目の前に、手術台に乗せられたZZの姿が浮かび上がった。

 先程と違うのは、博士が執刀している事だ。

 

「……随分無茶苦茶やってるな。魂単位での組み換えに変質、おまけに物質の変容と解体……錬金術かこれ」

「そんなに無茶苦茶なのか?」

「無茶苦茶だ。何を間違っても人間一人に組み込む物じゃねえ」

 

 そう言い放つアダムは、目の前の光景を記録しようと躍起になっている。俺も何か出来る事は無いだろうか……っ!

 

「後ろに出た!」

「任せろ」

 

 再度俺の頭に手が突っ込まれる。また鍵を回すような音と共に、出現した靄は消え去って行った。

 

「ピンポイントで仕込むような間抜けな事はしてねえか。それだったら怪しい場所が絞れるんだが……」

「結局総当たりだな」

 

 フン、とアダムが鼻を鳴らして周囲の景色が切り替わる。

 今度は戦闘試験室のようだが……ZZはまともに戦った経験が無いと言っていた。なら、コレは……

 

「やっぱあいつにも仕込まれてたか」

「俺と同じやつ……戦闘補助人工知能」

 

 見据える俺達の目の前で、ZZの口から無機質な言葉がこぼれ出た。

 

『第一段階限定解除。排撃機構ジェノサイダー、起動。終端神格到達用サイボーグZZ、実験戦闘を開始します』

 

 ヴン、と振動音を立ててZZの姿が消失した。

 俺では目で追えない。が、アダムからすれば余裕な速度らしい。平然と目線が空を走っている。

 

「と言うか何と戦ってるんだ」

「まともに描写されてねえな。こいつの記憶だから仕方ねえが」

 

 多分真球状のドローンみたいな奴だと思うが、とアダムは付け足した。

 視界の中で火花が散り、床が爆ぜる。

 途轍もない速度で両者が戦っているのだが、一向に姿が見えるようにならない。いやこれ、どんどん加速して無いか?

 

「予想当たりだ。既に光速の五パー出てる」

「光速の五パーセントでこの部屋の中飛び回ってるのか……」

 

 俺では逆立ちしても勝てそうにない。まさかZZにここまでのポテンシャルが有ったとは。

 前々からスペックだけは高いと思っていたが……これ程との予想はしていなかった。

 

「そろそろ決着だ」

「っ!?」

 

 アダムが言い終わると同時、地響きが俺の体を揺らす。

 視界に入ったのは、俺の身長より巨大な直径をした球体と、それに槍を突きたてたZZの姿。

 

「……とんでもないな」

「そうだな。さっさとこっち来い」

「何だ一体……あ」

 

 振り返ればまた例の黒い靄。今度はかなりデカい。

 

「さっきの地響きみてえなのはこれが出現したからだな。面倒な、ほっとくと全部食い荒らしかねねえ」

「なら、さっさとやってくれ!」

 

 三度、鍵の回る感覚。黒い靄は少しだけ抵抗のそぶりを見せた物の、やはり先ほどまでと同じく空間に溶けて行った。

 

「それじゃ、次だ」

「まだ終わらねえのか……?」

 

 正直、ちょっと疲れて来た。まあZZの為だ、とことんまでやってやろう。

 

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