九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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神への挑戦

 ある時は博士の実験に使われる光景が。

 ある時は台に固定されたまま遠隔手術を受けている。

 かれこれ二十を超える記憶を渡っているが、未だに博士の取った手段に肉薄出来る物は見つかっていない。

 そのくせ、例の黒い靄だけは増々出現ペースを上げていた。

 

「……これ、何体目だ?」

「四十七。数も数えられねえのか」

「これだけ出てると面倒になってくるんだよ……」

 

 更に言えば出てきても俺はやる事が無い。アダムが勝手に頭部へ手を突っ込んでくるだけである。

 まあ危険が無いのは良いのだが……それはそれとしてする事があんまり無いと言うのはどうにもいい気分では無いのだ。

 

「面倒なのはお前だろ。そら、次行くぞ」

「俺が面倒なのは割と分かってるよ」

 

 言い返しながらもアダムに付き従い、次の記憶へ移動する。

 見えた物は相変わらずの研究所……そして、五度目の博士。

 

「変質は順調、魂の進化も異常なし。問題は超越の領域を突破する事だ。法則の超越に必要な要素は満たしたが、その先に行く事が出来ん。……ふむ、他存在を吸収する機能でも付けるか?

 だがそれでの突破には一段下の領域で相手を喰らう必要がある。この横紙破りは可能となりえるか……」

「アダム、俺は何言ってるのか分からねえがお前分かるのか?」

「一応。ただ、これを実現したとなると……本気で途轍も無いぞ」

 

 要するに上限無く自分を強化できる、というアダムの説明に引きつった顔で答える。

 上限が無いという事は理論上無限であるという事だ。どんな存在でもそれに敵いはしないだろう。

 

「これが実現したかは兎も角……それが手段だとすると再現無しの吸収と強化? ならZZのナノマシンはグレイグーか?」

「グレイグー……」

 

 話には聞いた事がある。

 どんな物も材料にして自分を複製し、際限なく膨れ上がるナノマシンの暴走。その終焉である灰の惑星を指した言葉だ。

 

「アレ実現不可能とか言われて無かったか? 複製に使うエネルギーと自立稼働のエネルギーが絶対的に採算が取れないって」

「通常の法則ならな。法則の変質使ってその辺りを誤魔化せばそれこそ宇宙を飲み込むナノマシンの暴走が起きる」

 

 マジかよ。それじゃあ、ZZが完全に完成した場合は宇宙規模か? 実感が湧かない。

 あの間抜けなZZがまさかそこまでの可能性を秘めていたとは。

 

「あくまでまだ可能性ではあるがな。ただ、かなり高い。手段としても妨害策が少なく、一回起動すればそれっきりで良いんだから。

 ……こうなると問題は対策の打ち方だな。事前に攻勢プログラムでも仕込むか? 最悪人格式に組み込まれてる可能性があるが……」

「物騒な用語が幾つも聞こえてきたが……ZZの安全だけは保障しろよ? 仮に何かヤバいの入れても、絶対に無事になるようにな」

 

 散々色々アダムに言われたが、俺としてはZZを優先順位一位から下げるつもりは無い。ただもう少し自分も大事にしてみようと考えているだけだ。

 つまり、極限状況であれば迷わずZZを選択する。

 

「あーはいはい分かったよブラコン。そら、次行くぞ」

 

 

 ……その後、何度も記憶を巡りそれらしい物が無いか確かめたのだが、先ほどの物よりも正確な情報の入手には至らなかった。

 

 

 

「それじゃ、対策から始めていくぞ」

「おー!」

 

 ZZの記憶から戻って早々に次の事が。まあこういうのは急いだほうがいい。

 

「多分ZZに仕込まれてるのはナノマシンの自己複製機構。これにどうも格上を殺して吸収する仕掛けがくっついてる」

「起動させないようにはどうするんだ?」

「まともな方法じゃ無理だな。最善策ならZZを殺す事になる」

 

 当然、そんな方法は最初から却下である。

 

「となると攻勢プログラムを仕込んでおく必要があるが……さっきの検査でもヤバそうなのは見つかって無い。つまり、実際に何が動くかの判断が付かん」

 

 最悪、まだそう言う機構が仕込まれておらず、後から植え付ける用意だけされている可能性さえある。その場合今は碌な手段が取れない。

 

「予想できるの全部……は無理か」

「無理だな。ZZがパンクする」

 

 意識を切り替える補助演算装置だが、基本的にそれらの機能は俺達の脳を利用している。当然、起動するプログラムを阻害するなら、攻勢プログラムを仕込むのは俺達の脳だ。

 

「実用的なのを上から順に限界まで用意するって手も有るが……この場合後から組み込まれるパターンだと全部すり抜けられるのがな」

「攻める側の方が択が多いからな……守り側だとどうしても」

 

 さて、弱った。

 仕込まれた機能こそ判明したのだが、それを取り除く手段が無く、防ぐ方法も分からない。これでは何も出来ていないのと同じだ。

 

「一応、俺がリアルタイム方式でZZを調整し続けてヤバくなったら防ぐって手段もあるが……この場合ZZにトンデモない情報量をぶち込まれると俺の処理が停止する」

「目安は?」

「大体銀河系二百個分。外部の奴を演算するならその辺りで限度だ」

「……銀河系二百個の情報量とは?」

 

 何だがふわっとし過ぎていてよく分からん。

 

「データ量で概算出来る単位が無い。ヨタの十乗の十乗とか言っても面倒だろ」

「確かに言われても分からねえな……」

 

 多すぎると理解を飛び越えてしまう。そこまで行くとふわっとしているのと一緒だ。

 

「まあ要するに俺の弱点が出来るって話だ。それも完全な対策じゃない」

「それだったら寧ろお前がZZを直に守ってた方が良く無いか?」

 

 正直、アダムが動けなくなる可能性があるのはあんまり看過できない。だがその理由としてはZZを守れる人間が居なくなるからだ。なら、最初からアダムがZZを守っていればデメリットは無いような物である。

 

「俺抜きでどうあの研究所を潰すんだよ」

「そこは天道さんと極さんを送り込んで……」

「暴れられるなら何でも良いぞー!」

『……随分体よく利用されている気がするが』

 

 ぶっちゃけ体よく利用でもしないと俺では出来る事が無い。まあ、使える物も者も何でも使って生きて来たのだ。今更である。

 

「その場合は向こうの詳細な戦力の把握が難しく……」

 

 問題を解決すればまた新たな問題が。そしてその全てに対策を取っても研究所は新たな手段を取ってくる可能性が高い。

 それでも、少しでも可能性を高めるために取れる手段は片っ端から考えておくのだ。

 

 

 

 

 

「やれやれ、面倒な相手だ」

 

 研究所ルキシアにて、所長が溜息を吐く。

 先刻のゼロエルによる襲撃で施設の機能は七割が停止、パフォーマンスは平時の一パーセント以下に低下していた。復旧までにはもう少しかかるだろう。

 

「アレから読み取れる事は多かったが……やはり肝心なのは出力だな。こればかりは誤魔化しが効かん」

 

 例え完全な理論を組み上げ、状況を作り、式を完成させたとしても、それを動かす為のリソースが不足していては何も出来ない。

 その差を埋める方法は考案していたが……それでも時間がかかる。

 

「宇宙数十個以上のエネルギーを内包し、それを最高以上の効率で扱うか。全く羨ましい」

 

 我々に許されたのは余りに矮小な力だけだ、と博士が呟く。

 単なる理論や技術、効率と言う段階で言うのなら研究所のそれと、ゼロエルの行動で差はそこまで無い……どころか、一部においては上回ってさえいるだろう。

 だが、理不尽な程に隔絶したエネルギーの総量が埋めようのない差を作り上げていた。

 

「だがまあ、既に用意は終えた。後は起動の条件を満たすだけだが……失敗は慣れているとはいえ、集大成のような物にされると流石に気分が落ち込む」

 

 成功を神に祈るとしよう。

 そう言って博士は長い廊下を言葉と共に歩みを進め……その足が、畳へと降りる。

 

「……何の用だ、三千屋敷」

「流石に看過できないと判断しましたので」

 

 無表情を極めたような女──千桜四石が言う。

 その言葉に博士も一切表情を変えないまま答えた。

 

「今更お前が妨害した所で何も出来ん。何もかも遅い」

「ZZを殺す、という手もありますが」

「渡したスナック菓子はそう言う仕掛けか」

 

 XXXとの邂逅……その際にZZへ渡すよう言伝たスナック菓子は無事に彼の手へ渡り、五分としない内に胃の奥へと消え去っていた。

 そこに何かを仕込んだ、と博士は推測したのだ。

 

「どうでしょう。もしかするとWORLDで出会った際に認識の奥へ手を付けていたかもしれませんよ?」

「何だろうと問題ない。既にZZは完了している。何をしようと死にはしない」

「観測の閏間を縫うゆらぎの生存。元々万が一を作りやすい構造に加えて可能性さえあれば生存可能な作りですからね。生半可な方法では殺せないでしょう」

 

 ZZは運が良い。

 それは確率的に守られていると言っても良いからだ。

 九十九パーセント死ぬ状況では、ZZは死なない。必ず残りの一パーセントを引き当てるような体になっている。

 そして世の中、絶対に百パーセントと言う物はまず無いのだ。

 

「観測されていない情報は不確定である。それをここまでマクロな領域に持ち込み、破綻も矛盾も無く機能させた事は驚異的と判断しますが……そのゆらぎは私に通用しませんよ?」

 

 千桜の目が、どこか遠くを見るような物に変わる。

 不可能な筈の座標とエネルギーの同時決定。観測不能な情報の同時観測。即ち、万物の決定。

 決定論の体現を思索のみで行う神の如き超越的視座と頭脳。それこそが、千桜四石。

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「何だ、表情を作る事も出来たのか」

「面倒な。夢王に、最終兵器。二人がかりの防御とは」

 

 ZZは絶対安全である。なぜならアダムが守り、現在の居場所は夢王が守護している。千桜四石でさえ、そこを完全に定めるのは不可能に近い。

 

「……本当に、面倒な」

 

 この後、XXX達の会議がどうなるか、千桜四石の頭脳は早々に結論を出す。

 

『それじゃあ、突入には私も付いて行くわ。面白くなりそうだもの』

 

 この世の美の定義を歪める程の美しき微笑みを浮かべる女を無限の思考の渦に押し込め、千桜四石は舌打ちをした。

 

「それで、終わりならば早く返して欲しいのだが。代わりこそ用意しているが出来れば私も結果が見たい」

「……ええ。そうですね」

 

 そう千桜が呟き、背後の襖を開け、その奥へ何か指示を送った。

 直後、博士の肉体が両断される。

 

「イラつきました。貴方をぶっ殺して鬱憤を晴らすとします」

「む、それは予想していなかった。残念だ」

 

 血みどろに沈む博士は心底から残念そうにその命を途絶えさせる。

 その事にも千桜は大した感情を見せない。研究所では博士の記憶を受け継いだクローンが起動しているだろうからだ。

 

「本当に面倒な……」

「あなたが悩むなんて珍しいわね」

 

 背後から聞こえる姦の声にも、千桜は答えない。それ程に今の彼女は思考の海へと没頭していたのだった。

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