九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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アイギス七界神

「やっぱり来たあああああああああ!!!!」

 

 畜生不安が大当たりだ! ええい足が速い!

 

 現在こっちに向かってきたニ十機程のサイボーグから逃げている。場所はヤケクソで飛び込んでしまった研究所内部。

 アダムから引き離されたこの状況は非常にまずい。一応念の為の備えはしているのだが、あんまり切れる手札では無い。

 

「くっそ、こいつ等出鱈目に速い!」

 

 全力で走っているのに全く振り切れない。背後に向けて何度か砲撃も放ってみたが、逆に散々撃ち返される始末。

 今も弾幕の嵐を無理矢理縫いながら走っている状態だ。

 目の前を通り過ぎた砲弾に恐々としながら必死で駆け抜ける。だが、スペックでも技術でも完全に上回られた上に向こうの方が数も多い。逃げ切るのはまず無理だ。

 こうなると切札を切るしか無いのだが……その場合でも切るまでの時間が足りない。

 更に言うなら切った後暫く動けなくなるので出来ればアダムの近くで切りたいが……クソ、逃げ場がないからって研究所に飛び込んだのが間違いだ!

 最初にさっさと使っておけば、という後悔も今はしている余裕が無い。何とか捕まる前にせめて位置情報だけでも知っておきたいが……

 

「っだあ!?」

 

 背後を通り過ぎた高周波ブレードを展開したセンサーでギリギリ感知し、寸前で避ける。

 もう反撃は諦めて全力で逃走にのみ専念しているが、そうでなければさっさと捕まっていただろう。

 それ程に、相手は強い。

 一機一機が俺を超える性能をしており、付け込めそうな所などまるで無い。

 補助人工知能と目的を限定された脳が圧倒的なシナジーを作り上げ、極めて柔軟かつ正確な状況判断を行い俺へと迫る。

 

「もう少し弱点とかあっても良いだろ!」

 

 無情なまでに俺の全てを上回る量産機は、じりじりと距離を詰めてくる。

 走り回り続けた研究所の中では現在地も分からず、残された手段は切札だけとなっていた。

 一応これを切れば場所は分かるだろうしアダムとも合流できる可能性が高くなるのだろうが……それでも時間のロスが発生する。極力そう言うのは減らしておきたい。

 が、状況はそんな思考を待ってはくれない。ええい、抱えて死ぬより遥かにマシだ!

 

 閃光が視界を薙ぎ払う。

 単に踏み出しただけの足に相手は一切反応出来ない。

 常識を遥かに超えて加速した意識と、当然のように呼応する肉体。

 湧きあがるエネルギーは通常を水滴のように思わせる程。

 それらを使い、俺は追って来ていたサイボーグを消し飛ばした。

 

「……とんでもない力だ」

 

 バチン、と変形を納めて呟く。

 以前バミューダ・アロを相手取る時に使ったアダムによる俺の体の強化。それを再び使っている形になる。

 前回との違いはアダムがこっちに回すリソースが無い為、演算能力等は大幅に落ちる事、そして稼働時間が十五分な事。そして終わった後は丸二日は動けなくなるとのお墨付き。

 ううん、漫画とかの超パワーアップ的な奴だ。見るのは良いがやるとなると嫌だ。

 

「ただ、これも使わねえと勝ち目が無いのがな」

 

 アダムに天道さん、極さん、エンヴィーさんまで含めたあの戦力でさえ足止めを食らっている。その事実が研究所の異様を物語っていた。

 使える手札は多い方が良い。今の状態ならばあの正面の戦場に乱入しても問題は無いだろう。天道さん辺りと交代して、博士をぶっ殺してもらおう。

 

 そう考えて天井を突き破ってアダム達の所へ戻り──それを実行する前に、()()によって天井が貫かれた。

 

「何だ!?」

 

 咄嗟に挙げた声は唐突への驚愕。次に飲んだ息は……異様への恐怖だ。

 

「人だ」「面白い」「欲しい」

 

 三人だ。

 二本の足から、三人の何かが生えている。

 一人分の足から生えるのは、三人の胴体。

 そしてそれはまるで枯れ木のように細く、骨の浮かんだ胸部へと繋がっている。

 顔には目も鼻も耳も無く、のっぺりとした黒い球体の様だ。そこに、白い歯と赤い口内を覗かせた口が付いている。

 それが、三つ。

 肩から続く腕も胴のように細く、骨と皮だけに見える。そのくせ、どう考えても異常な腕力で紙のように研究所の壁を引きちぎった。

 

「あの実験機だろう」「それなら引き渡すか?」「欲しいな」

 

 三つの口が、全く同じ声で違う言葉を話す。

 俺の足が動かないのは、その異様に気圧された……からでは無い。

 その姿を知っていたからだ。

 

「アイギス七界神、黒欲──」

 

 

 

 

「ああ面倒くせえ!」

 

 突如降り注いだ光線がアダムの体をえぐり飛ばす。

 その事に罵声を吐き、砲撃点を見据えたアダムが……目を見開く。

 

「前の言葉、果たしに来たぞ」

 

 金属がこすれ合うような耳障りな音。全身を覆う鋼鉄の装甲。

 アイギス七界神、キリカルが強襲を掛けていた。

 

 いや、それだけでは無い。

 

「黒欲は先に行ってしまったか。アレは制御が効かん」

 

 触手の塊が、たまたま人の形をしているとしか形容出来ない姿。

 肉の潰れるような声は、聞く物の不快感を奏で顔を顰めさせる。

 アイギス七界神、カセカル。それがキリカルと並んで出現した。

 

「……何の用だ、アイギスのゴミ共」

「何の用だ、とは随分な事だ。襲撃を掛けたのはお前達だろう」

「……テメエら」

 

 一つの可能性にアダムの頭脳はたどり着く。

 

「この研究所、アイギスと通じてやがったな!?」

 

 世界を侵略する異界の厄災。如何なる対話にも応じようとせず、襲来より百余年、銀河系外にまで広がっていた人類版図を太陽系にまで押し込め、必死の抵抗をねじ伏せ続ける恐怖の軍勢。

 肩入れをする事その物が大罪であり禁忌となる行為である、アイギスへこの研究所は手を貸していたのだ。

 

「何、そう驚く事でも無い。キリカルとカセカルはここの供出品と言うだけだ」

 

 白衣の男が出現する。

 平然と一大戦力を譲ったと言い放つ博士に、流石のアダムも愕然とした。

 

「博士、相も変わらず無謀な研究に勤しんでいるようだ」

「ああ、そちらは先日オールト雲外殻要塞を攻め落としたと聞いているが」

 

 旧知の仲のように──いや、実際に旧知の仲なのだろう。

 勝手知ったる様子で話し出すキリカルと博士。それを見てアダムは体内のエネルギー炉の出力を一段跳ね上げた。

 

「生成エネルギー上限レベル2へ移行、目標、太陽系級存在」

「ふむ。キリカル、カセカル。この場は任せる」

「命令はもう受けないが……その行動は丁度取ろうと思っていた所だ」

「了解」

 

 各々異なる言葉を返し……双璧の怪物が、アダムへと襲い掛かった。

 

「何じゃ、こっちは放置か!?」

 

 そこへ躊躇なく横槍を入れようと天道は金棒を振るい……止められる。

 

「いえいえ、貴方方は私が相手致しますとも」

 

 慇懃に笑う胡散臭い笑みを浮かべた男。その姿に天道は心当たりが有った。

 

「天元か! あの時以来じゃな! 殺し合うか!」

『何だ、知り合いか? 私もこいつには興味があるが』

 

 極寒の冷気と、星系をかき乱す程の膂力。

 二人の超存在を相手取って尚、天元の笑みは崩れない。

 

「随分余裕があるわね。あの人、それだけ強いようには見えないのだけれど……」

 

 あなたはどう思う? とエンヴィーは新たに出現した純白の女へと問いかける。

 返事は、無い。代わりに異常な神速を以て白華はナイフを振るった。

 

 

 

 呪詛、暴力、星、光線、腐食。

 数多の致死が飛び交う戦場が、紅の里に作り上げられていた。

 瞬き一度の間に星の竜巻が出現し、もう一度でそれが打ち砕かれる。

 一瞬の間に天変地異を鼻で笑う厄災が巻き起こり続ける異様な戦場。

 其処へ、乱入者が一人。

 

「そらそらそらそらそらそらそらそらあ!!! この獄地サマに喜び勇んで殺されなあ!」

 

 アンキの星に、黒い球体が衝突する。

 それは砂山でも貫くように硬質な岩で形作られた星を貫き、迫る。

 

「っ! 痛った! 何で出来てるのさ!」

 

 黒球を素手だ弾き、リオが叫ぶ。

 拳の先端は赤身が掛かっており、先ほどの衝突の威力を物語っていた。

 

「変な奴だね。何がしたいのかはっきり良いな」

「あの糞餓鬼を寄こせ、だとよ! 総帥もよく分からねえ指令を出す!」

 

 ケケケ、と笑いながら無数の黒球が宙を舞う。その一つ一つが星を砕き、肉を潰す圧倒的な武器。

 そこに剣が振るわれた。

 

「渡す渡さない以前に、ここから生きて帰れるとお思いで?」

「何だ、頭良いって聞いてたが! 思ったより間抜けだな!」

 

 高笑いと共にその場の全員を敵に回し、獄地が全開の攻撃を開始した。

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