九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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黒欲

「っあああああああああ!!!」

 

 避ける。

 眼前を通り過ぎた頭部を。

 背骨に皮が張り付いているだけにしか見えない細い胴を鞭のようにしならせ、黒欲が頭部を鈍器代わりに叩きつけて来る。

 威力は今の俺でも一撃で粉砕される程。頭突き、というには余りにも過剰火力だ。

 

「伸ばせ、届かん」「もう少し右だ」「足が速い、欲しい」

 

 一人分の足が三の意思に動かされ、不規則な動きで距離を詰めて来る。

 その度に振るわれる頭部が鎖分銅のように俺を狙い、追いすがる。

 壁に当たった瞬間に豆腐を突き抜けるように穿ち、地面に当たればひびさえ作らず削り抜く。

 尋常ならざる威力が凝縮されている。もし衝撃を拡散させるように打てば地球だって砕くだろう。

 

「何だってんだよ!」

 

 この状況で乱入してきた厄介者への怒りを込めて、渾身の一撃を撃ち放つ。

 普段の俺の物とは威力も速さも桁違いなミサイルは、黒欲の身体へニ十発以上も突き刺さり、直後直径二メートル程の爆発を引き起こした。

 複数の爆発の交差点となった中心は、それこそどんな物質だろうと点まで押しつぶす。

 そんな思考は爆炎を切り裂いた黒い頭にかき消される。

 

「良い威力だ」「正確さも有る」「欲しい、その体」

「「「寄こせ」」」

 

 声が揃った。

 それを認識した瞬間、俺の体が悍ましい衝撃で後方へ吹き飛ばされる。

 何をされたのかはまるで分らなかった。予備動作も、攻撃の動きも、何なら終わった後の動きさえ。

 

「がっ!?」

 

 研究所の壁を片っ端から突き抜けて重力を振り切り地球外へ叩き出されそうになった所でようやく意識が安定する。

 慌てて反対方向にジェット噴射を行い強引に速度を殺して、地球からの離脱を阻止した。

 が、既に研究所が視界に入らない。僅か一瞬でここまで吹き飛ばされたのか。

 

「……マジで何なんだ」

 

 この局面に来てアイギスの乱入。最悪だ。

 来ているのが黒欲だけなら良いが……まずそれは無いだろう。

 

「生きている」「頑丈だ」「欲しい。殺そう」

 

 響いた声に、反撃等一切考えず防御と回避に全霊を注ぐ。

 そのお陰か、今度の一撃は避ける事が出来、同時にその正体を掴ませた。

 

 腕だ。

 

 黒々とした空間の穴から、それ以上に黒い、巨大な腕が出現して攻撃してきている。

 ただの一撃でこちらの意識を飛ばしかけ、正面からではまともに見る事も出来ない速さ。おまけに……連打して来やがった!?

 

「嘘だろ!?」

 

 避ける。避ける。避けるが掠る。

 掠っただけで体が大きく揺れる。ええいどんな威力だ!

 反撃等考える暇も無い。一瞬でも足を止めればそのまま負けだ。

 どうにかこの場所から離脱しないと……

 

「もう少しマシな動きしやがれ!」

 

 全力で退避しながら、背後へ向けて撃てる物を撃てるだけぶっ放す。

 着弾音が轟き続けるが、まるで倒せている気配が無い。その証拠に、直ぐ背後では攻撃の通り過ぎる風切り音が鳴り響いている。

 せめて相手の足を止めてやろうとヤケクソ交じりで片っ端から攻撃をかましていくが寧ろどんどん近づかれている気がしてくるのだが。

 

「まあまあの威力だ。聞いていた話より遥かに強い」「これを行いながら逃げている」「優秀だ、欲しい」

 

 直後、目の前に腕が出現した。

 まずい、このタイミングは駄目だ。避けられない!

 

「っどおおおああああああ!?」

 

 緊急的に体を切り離し、無理矢理避ける。クソ、パーツの二割がぶっ壊された!

 あの緊急回避でも当たるのかよ! どんな攻撃速度だ!

 泣き言が漏れそうになるのを抑え、逃げる。

 アダム達の所へ行かないと、()()()()()()()()()()()どうしようも無い。

 

「小回りが利く」「埋めろ」「潰す、渡せ」

 

 ぐちゃり、と空間が歪み無数の穴が開く。その先には恐ろしい圧を放つ腕。

 爆発的な勢いで出現した腕が勢いのまま空間を埋め尽くし、俺の退路を断っていく。

 最早黒い球体が膨張しているようにも見えてくる攻撃の波は、以外にも俺に有利に働いていた。

 

「……見えん」「おい、戻せ」「逃げられる、駄目だ」

 

 頭同士で意見が割れているのか、相手の視界を塞いでいるにも関わらず腕が戻らない。こっちは体を分解すれば割と無茶な隙間も通れるため、既に出現した腕は邪魔にならないのだ。

 問題は新しく出現する腕。

 異様に速く、一撃まともに貰えば行動できなくなる。

 加えてまだされていないが、腕である以上俺を掴む事位は出来るだろう。そうなったら本格的にどうしようも無くなってしまう。

 だから、今の内だ。今の内に逃げられるだけ逃げておく。

 

「おい、逃げるぞ」「さっさと外せ」「右だけで良いだろう」

 

 ぐわ、と音がしそうな勢いで檻のように黒欲を覆っていた腕が解ける。

 ……反対側だけ。

 何を揉めたのかは分からないが、俺が逃げていない側の腕だけ開いている。思ったより相手が間抜けだ。

 だが、楽観は出来ない。その間抜けな所を考慮しても向こうの方が俺より遥かに格上だ。

 

「逆だ、早く開けろ」「もう良いだろ、反対から出た方が早い」「ああ、逃げる」

 

 思ったより追って来るのが遅い黒欲を尻目に、さっさと特定したアダム達の位置へ向けて全力疾走を続け──

 

「やっぱアレだけじゃ無かったか!」

 

 アダム達は四人の七界神と戦っていた。

 アダムが相手しているのがキリカルと……カセカルか? 天道さんと極さんが天元と、エンヴィーさんが……多分、あの残像は白華だ。

 誰にも余裕がある様には見えない。ここに黒欲を追加すれば、一気に押し込まれてしまうだろう。

 

「要するに、俺がアイツを倒せばいい訳だ」

 

 そう口にする。

 恐怖は有る。一撃貰えば敗北は必至。そうでなくても残りの十分程で勝てなければ機能停止して負け、死ぬ。

 しかし、勝たなければ。

 

「……来い!」

 

 自分を鼓舞するように咆えた直後、黒の奔流と共に黒欲が姿を現した。

 

「見つけた」「良いぞ」「欲しい」

 

 初撃は右の頭部。

 ハンマーのように振り下ろされたそれを避け、距離を詰める。

 次は左の体の拳。

 ブレードを展開し真っ向から切り結ぶ。

 更に繰り出されたのは真ん中の頭。

 迎撃は不可能、再度振りあがろうとしていた右の頭を蹴ってズラし、相殺させる。

 

「おい」「邪魔だ」「そっちが邪魔だ」

 

 微塵も連携の取れていない三つの体の合間を縫って攻撃を繰り返す。

 横薙ぎに振るわれた頭の下を潜り抜け、撃ち込んだ砲撃の爆発に紛れて背後へ回る。

 ノーモーションで後ろへ叩きつけられた頭を首の所に盾を叩きつけて制動させ、隙を突いてブレードで切りかかる。

 

「もう少し離れろ」「胴を伸ばせ」「足の権限を渡せ」

 

 たたらを踏むようにつんのめりながら動く足のせいで全体のバランスが酷い程崩れている。振るわれる頭もびっくりするほど当たらない。

 痺れを切らしたのか向かって左の体が他の二つを巻き込むようにぐるんと大回りの攻撃を繰り出した。

 早い、が見切れる。

 

「素早い」「おい、巻き込むな」「腕を出せ」

 

 一番左の頭が雑に振り回される中。一番右の頭が腕を呼び出した。

 横薙ぎの衝撃波を飛びあがって避け、ブースターで空中制御を行い繰り出された黒い腕を避ける。

 が、攻撃の嵐が止まない。

 他の二人への頓着を捨てた無差別攻撃が無茶苦茶な軌道で俺に迫り、やはり巻き込みを躊躇しない黒い腕が奴の体諸共俺を叩き潰そうとしてくる。

 こいつ、出鱈目すぎるだろ!

 

「面倒だ」「もう考慮に入れない」「邪魔なら殺す」

「っ!」

 

 衝撃が体を叩く。

 振るわれた頭部の一つが当たったようだ。

 一つの足から伸びる三つの胴体。それは最早竜の首のように長く、その先端に黒い鉄球の付いた鞭のようにも見える。

 

 ただ紐につないだ鈍器を振り回すような粗雑な攻撃。だが、最早どこを狙っているのかさえ分からないそれは速度で劣る俺を何度も捉えかけていた。

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