九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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進軍

 何もかもが軋みを上げる。

 投入される大量の兵器は埃を吹き散らすように破壊され、阻んだ防壁はそよ風を突き抜けるように何の抵抗も出来なかった。

 アダム達四人の侵攻を研究所は抑えられない。どれ程抵抗しようとも片手間に蹂躙されていく。

 そして、今四人に一切の油断は無かった。

 

「絶対に何か有るな」

「そうじゃの」

『そうだろうな』

 

 アダムの呟きに天道達が反応する。

 彼らは、ここが到底この程度では無いと感じ取っていた。

 アダムは何度も研究所を追った経験から、天道と極は直感故に。

 だがそれに反して迎撃に出現するのはガラクタ同然の兵器ばかり。例え棒立ちで攻撃を受けたとしても、傷の一つも負わない程度。

 それを見て増々アダム達の警戒心は膨れ上がる。

 

「……向こうの戦いも終わってねえ」

 

 ZZを預けた紅の里では、出現した獄地を迎撃するリオとアンキの共同戦線が展開されていた。そこにはなぜか三千屋敷の姿もある。

 その事を偵察機からの情報で確認しながら、撤退した七界神がそちらに向かうと言う、簡単に予想できた未来が一切訪れていない事にアダムは首を捻った。

 

「何がしたいんだ?」

 

 まるで目的の見えてこないアイギスの挙動を訝しみながらも、アダム達は止まらない。

 地球表面を五度は焼き払う程の集中砲火は、彼らからすれば腕を振ってかき消せる残り火だ。

 安々と抵抗を踏みにじり、研究所の奥へと歩みを進め──それを影が阻んだ。

 

『護衛用サイボーグYYYY、戦闘を開始します』

 

 急激に空間が切り替わる。

 世界にある法則を思うがままに捻じ曲げ、有利な状況を作り出しうる空間制圧能力を携えたサイボーグ。

 以前であれば体の表面に纏う程度であった法則も、今や月の直径にも届く広範囲を改変する。

 加えて桁違いに上昇した空間制御能力はYYYYに異常なまでの行動選択肢を用意する。そして、それを研究所最新の人工知能が制御するのだ。

 例えアダムであろうと楽には勝てない怪物は……エンヴィーがパチン、と指を鳴らしただけで物言わぬ人形へと還った。

 

「空間の制御で私に勝てると思われたのかしら? だとしたら私もまだまだね」

 

 世界を夢みる夢幻の女王は、優雅な笑みを浮かべたまま余裕たっぷりと足を進めて行く。それを見て、アダムが露骨に舌打ちをした。

 

「無茶苦茶な奴だ」

 

 先程行った存在の改変は、纏っている法則をどうにかしないと不可能な事だ。そのためには空間に対する干渉を行う出力、そしてそれを理解する経験、或いは頭脳が必要となる。

 エンヴィーはそのどれも使わず、単に自分の法則で上から塗りつぶしたのだ。

 根本の出力が違う。アダムを十としてエンヴィーは百を超えるだろう。あの白華と一時とは言え張り合ったその実力は本物である。

 

「頼もしいのう」

『敵にすればそれだけ恐ろしい』

 

 天道と極の二律背反な呟きは、エンヴィーに対するこの場の総意とも言って良いだろう。

 だからこそ、現状がおかしい。

 YYYYが瞬殺された事、規格外にも届く実力者が居る事、それが複数いる事。

 それを研究所が把握していない筈は無い。

 現に博士は一度確認しに来ていた上、アイギスとの交戦で時間も取られた。対策を打ってきてもいい筈だ。

 なのに向こうは無策。

 その事に強い違和感を覚えたアダムが、徐々に速度を上げる。

 ……そして、その時は来た。

 

「……よう、博士」

 

 蹴り破った扉が摩擦熱で蒸発し、その先に居た博士の姿を露わにする。

 アダム、天道、極、エンヴィー。圧倒的な四人を前にして、博士はまるで動じる様子もなく、淡々と中に浮かんだ映像を眺めていた。

 

「返事位したらどうだ? 人生最後のよ」

 

 答えは無い。

 その事にアダムはこれと言った反応をせず、その代わりと言わんばかりに博士の体を叩き潰した。

 

「む、何じゃ、これで終わりか?」

「まだだな。コイツはクローンを山ほど用意してやがる」

 

 その言葉通り、奥の扉が開きそこから全く同じ姿をした博士が現れる。

 新しい彼も、やはりアダム達に興味を示さず映像を眺め始めた。

 

『一体、何を視ている?』

「……ZZの預け先だ」

 

 やっぱ目え付けてたか、とアダムは吐き捨てる。

 映像に映された戦況は確実に獄地への不利と傾き続け、今にも趨勢が決するところまで来ている。到底、逆転は有りそうにない。

 アイギスにZZを奪う用協力を持ちかけた筈の博士の目的は、もう達成できない筈だ。

 だが、博士の目に諦念は浮かばない。寧ろこれから起きる何かを見ようとするような、極めて強い好奇に満ちていた。

 

「そんな所視て、一体何を企んでる」

 

 返事は無い。最初から期待していなかったアダムは、博士を焼却し次に部屋奥の扉へ照準を向けた。

 ゴン、と空気どころか空間の焼ける音が響き射線上の物質が悉く焼け消える。

 当然、部屋奥に存在した博士のクローン体も、その生成装置も纏めて焼失した。

 

 それを見てもアダムの顔は晴れない。絶対にまだ何か有ると確信しているからである。

 それは的中した。最悪の形で。

 

「……クソが」

 

 アダムの視線の先、()()()()()()

 今まさに倒れ伏した獄地の隣へと……博士が出現した。

 

 

 

 

「ああああああ!!!! テメエら! 絶対許さねえぞ! この獄地サマを! よくも! よくもおおおおおおお!!!!」

「喧しいです、死んでください」

 

 崩れ落ち絶叫する獄地に無慈悲に告げた千桜が、その喉へ姦の呪剣を突き立てた。

 響いていた絶叫は直ぐに血の噴き出る水音に変わり、少ししてごぽごぽとくぐもったもがき声に落ち着いた。

 

「……さて、それではこちらの方を続けましょうか」

「えー、まだやる?」

「それはまあ。私もまだ死にたく無いですし」

 

 先程の戦いでさえ、真面に汚れの一つも負っていない千桜に対し、常に特攻し続けていたリオは返り血も相まって全身血みどろの負傷塗れ、アンキも決して無傷では無い。

 しかし一切引く様子の無い彼女らを見て、溜息と共に千桜は指示を飛ばした。

 それに応じて三体の怪物が動き出す──直前に出現した男に全員が硬直した。

 

「……何の、用ですかね」

「分かっているだろう。そろそろ良い時間なのでな。回収に来た」

「させると?」

「妨害出来るとは思えんが」

 

 ギシ、と空間が軋みを上げる圧迫感を放ち始める博士に対し、千桜は額に皺を寄せて指示を出す。

 直後、背後に出現した666が博士の右腕をもぎ取った。

 

「取った!」

「まだです!」

 

 もぎ取られた右腕の切断面から、白い触手が出現する。

 それはその場の誰よりも早く動き、正確無比な回避を行った千桜を安々と追尾しその胴体を貫いた。

 

「千桜!?」

「っ、拙──」

 

 アンキ、リオ。その両方が触手の一振りでなぎ倒される。余りに速い、余りに重い。

 規格外──彼が呼称した創造の領域へ、片足を踏み込んだ程の強さ。それは夥しい実験の成果の一つであり、彼からすればスタートラインにも立っていない程度の物だ。

 

「さて、回収だ」

 

 悠々と歩みを進める博士は多数存在する家の一つに、迷いなく足を踏み入れた。

 

 直後、無数の武器と拳が襲い掛かる。

 だが、どれもこれも博士からすれば片腕を振るだけで終わる程度の物だ。

 

 歩みは止まらない。彼の作ったZZの位置は常に正確に把握されている。何処に隠れても無駄なのだ。

 

「っ──!!!」

「ZZ、来てもらうぞ」

 

 全ての抵抗、反撃、何もかもを踏みつぶして現れた博士は少年にとって絶望と同義だ。

 引かれる手はどうあがいても振りほどけず、喚く声は全く何の意味も成さない。

 ……襲来した、もう一人のサイボーグを除いては。

 

「ZZを離せ、死ね」

「漸く来たか。さて、どうしてみる?」

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