「……う」
「起きましたね? 既に体の修復は完了していますので現状を。
ZZさんが例の博士によって仕込まれていたコードを実行して世界を滅ぼそうとしています。疑問は有るでしょうが聞くつもりは一切無いので黙って協力してください」
「ZZに何が!?」
目覚めて早々、爆弾発言が脳内に叩きこまれる。
何だ、ZZに何があった!
「ああなりました」
指さされた先に見えるのは天を突く黒雲の渦。到底意思がある様には見えず、当たり前だが人間にも見えない。
……アレがZZだってのか?
「アダム、アレは──」
「その女の言う事で十分だ。嘘も騙しもねえ」
「っ……お前! 防護はしておくって……」
「してたよ。何が有ったか知らねえが、ZZが全部無視して起動しやがった。アイツにんな権限無い筈だし、そもそもヤバい所はあいつも分かってた。何でこうなったのかは分からん」
「だからって──」
「言い合ってるだけ無駄です。時間無いので」
割り込んできた無表情極まる顔に無理矢理仲裁された。
……この人、三千屋敷の……
「千桜四石です。以前会いましたね」
「あ、あの時はどうも……」
取りあえず挨拶をしておく。こういうのは大事だ。
……いや冷静に考えるとしている状況じゃないな。駄目だ、まだテンパってる。
「状況の整理も説明も終わってからです。今はアレをどうするかを考えないといけません。
まず最低限の戦力が必要なのですが……現状全く足りていませんね」
千桜さんの言葉に辺りを見渡せば、天道さんや極さん、リオさんにゼロエル。それに加えてエンヴィーさんと……魔界であった十王の人達と魔王さん。更にクリテルマと呼ばれていた人。更に更にアンキさんとバミューダさん。……なんか後ろの方にカリオストロさんが居る。
「コレで足りないんですか」
「まるで足りていません。アレ──今のZZさんは、極天です」
極天。
その言葉は何度か聞いた事がある。
曰く、頂点。曰く、神の座。曰く、最強の場所。
俺では想像も付かない圧倒的な存在がたどり着く一つの極致。今のZZがそれだって?
「厳密に言うならまだだ。アレは無限に膨れ上がるが、それが一つの臨界点を突破した時に極天にたどり着く。今はまだもう少し下だ」
「それも後三十五分と二十五秒までです。その時点でアレは極天になります」
ゼロエルと千桜さんが言葉を交わす。
……まだ極天では無い、との事だが正直そこまで短時間でなってしまうならもう誤差みたいな物な気がする。
「まあそんなまどろっこしい事は置いておきまして、現状の対策が必要です。
戦力こそ論外なので解決とは行きませんが……時間稼ぎであれば何とか。それでも好転は絶対にしませんが……ここからは賭けですね」
「賭け」
何を? と言うか何が? 今の話を聞いている限りでは賭けも何も解決が不可能としか言われなかったが。
「アレだけの存在が出現したのなら他の世界からも色々と来る可能性は高いです。加えてアレの性質上存在する物を片っ端から食らい始めるので、他世界の連中も無視はできません。ほぼ確実に戦闘に参加するでしょうね。
問題は気付く数です。出来るだけ多く来ないとただアレの餌になって終わりですし、時間がかかればこの世界が丸ごと飲み込まれて終わりでしょう。
という訳で取りあえずの総評としては、時間を稼いで来るかも分からない救援を待つ、と言う事になります。よろしいですね」
「駄目だなコレは」
「駄目じゃのう」
『駄目だろうな』
「だーめだ」
全員見事に諦めている。ゼロエルに至っては本を開いてるし。……アイツ本とか読むのか。
「まあ無謀なのは分かりますけどね。これ以外手は無いですよ。一応今後の作戦もありますけど、最低限の戦力が無いと取れませんし……事前に伝えてはおきますが目的を間違えないでくださいね」
一応あの作戦は戦力が揃うまで繋ぎの物らしい。さて、一体どんな──
「作戦の中核はXXXさん、貴方ですよ」
「へ?」
膨れ上がる。
浸食し、飲み込み、膨れ上がる。
物質を、法則を、概念を、何もかも吸収し分解し自身に組み替え際限なく。
ZZと呼ばれていた終末は入力された目的に従い、自身を増殖させていく。
その上でそれは緻密であった。
無数のナノマシンは機能的な代替を行い続け、常に最適に変異を行う。
生物がタンパク質から出来上がる細胞を最適な物に変質させて成長するように、それも役割を作り上げ、変わるのだ。
ある場所は浸食を担い、ある場所は頭脳を、ある場所は迎撃を、ある場所は伝達を、ある場所は防御を。
それらの分担が終末をより強固に作り上げ、迅速な活動を可能としていた。
その一部が信号を上げる。
攻撃されている、と。
「尋常じゃねえな! 今ので風穴も開かねえか!」
ゼロエルが笑みと共に吼える。
宇宙であろうと貫く光の槍は、黒雲に触れた傍から分解されその威力を散らされた。どころか、大半が相手のエネルギーにされただろう。
どれだけの威力を込めようとも即座に吸収され、有効打を与えることが出来ない。
恐るべきはエネルギーの性質、法則によらずそれを行われる事だ。
例え触れる物質を消滅させる光であろうと、逆に侵食する暗黒であろうと、等しく終末に飲み込まれてしまう。
よってゼロエルは、この終末の脅威性を対応力にあると判断した。
(何をどうしようと確実に対応を変えてくる。夥しい数による総当たりでの分析。丸ごと消すなら分析が間に合う前に消し飛ばすか分析出来ない手合いを使うしか無えが……前者ならそれこそ宇宙が京単位で消し飛ぶ威力が最低限だ。それも時間が経てば経つだけ必要な威力も上昇するだろうしな。
分析不能も難しい。実質無数にパターンは取れるが、向こうも大概無数だ。やるとするならこの数相手に逆に分析して一個一個違う性質をぶつける事になる。
んな真似は俺じゃ無理だ。更に上の連中なら出来るかも知れねえが……そんな奴らがこれに気付く頃には更にえげつなく膨れ上がってるだろうな)
絶望的な現状を攻撃の度に刻まれながらゼロエルは動きを止めない。
彼女はこんな所で諦めるつもりは毛頭無いのだから。
同じ頃、ゼロエルの真反対で黒雲へ攻撃を加えていたカリオストロは彼女を超える分析を行っていた。
「対処が早い。常に流動的且つ最適への固定性も高い。考えうる理想上の万能性。
目覚めよ、目覚めよ、目覚めよ。それは火、始原にして至高、開闢の灯、炎よ」
燃えよ──言葉が紡がれると同時、宇宙を数億単位で焼き尽くす超温度の炎が出現した。
だが、その程度で黒雲は揺るがない。
純粋な熱を片端から取り込み、自身を複製するエネルギーに変える。
そのプロセスが確立されるまでに黒雲の総体積0.002%が減少しているが……その程度、瞬きの間に増殖していく。
加えてそれからカリオストロは一つの事を見出していた。
「学習している。予測をしているな。かなりの精度」
思考の洪水が口から漏れるように出た言葉は、端的且つ正確に対象の脅威性を表している。
攻撃のパターンを完全に読まれてしまえば如何なる物も通用しなくなるだろう。また、飲み込まれた際の抵抗もより難しくなる。
その絶望を前にしてもカリオストロの探求心は止まらない。
「極天。頂。近い。……一体どういう理論で出来上がっている?」
カリオストロは思索を止めない。絶望の狭間、恐るべき攻勢の中であっても。
同時刻、地上にて両者を遥かに上回る思考を行い続ける存在があった。
(一番二番三番が対応限界四から二千七百六十二億までが無傷足す一から三京迄だ増殖から見て配置の変更は天道とエンヴィー大気の流れから見て世界に変質が高い為外部からの存在が近づいているのでアダムに回収と説明を対処地上への被害を避けるために666を使用対象は宇宙相手防護……)
終末を無数のブロックに分けそれを全て予測しながら現状を整理し最適を動かし、指示を出す。
カリオストロの思索さえ蝸牛の歩みのように置き去りにする異常高速並列思考は数万年単位の未来予知さえ可能とする。
それを以てして尚、あの黒雲は読めない。
(情報が多すぎる。処理落ちみたいになってますね。全く、私の限界がこんな所で理解できるとは)
まともに想定していなかった自身の限界。それに向き合いながらそれを誤魔化すように思考を組みなおす神業で以て、千桜四石は適切な対処を行い続ける。
全ては世界を留める為に。
だが、絶望はまだ始まってもいないのだ。