九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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ZZ

「ええい、まるで手ごたえが無いぞ! 質の悪い!」

 

 天道が振るう金棒が黒雲を通り抜ける。どう考えても当たった手ごたえでは無い。

 そのくせ振るう度に金棒は虫食いのように穴が開き、あっという間にボロボロになって行くのだから始末に負えない。

 

『こちらも似たような物だ。何をやっても効果が無い!』

 

 絶対零度の大渦が、まるで通用しない。

 湧き続けるナノマシンは冷気と言う物まで分解する異常性を見せていた。

 

「あっちは大変みたいね。クリテルマ、どうするの?」

「当然攻撃一択よぉ。……それでも通用する気がしないけれどぉ」

 

 空を埋め尽くす光の矢も、天を覆う光の盾も、平等の黒雲に飲み込まれた。

 今半ば自棄気味に打ち続けている光の砲撃も、大した被害を与えている様子が無い。どころか、撃つ度にダメージが減っている。

 

「学習能力が高いわねえ。私みたいに一芸しか無いと大変よぉ」

「もう少し身に付けたら? 私みたいに」

 

 パチン、とエンヴィーが指を鳴らす。

 その瞬間に炎と氷が乱れ舞い、雷が奔ったかと思うと全てがガラスと化し乱舞する。そうかと思えば鉄の雨が降り、一瞬の間に何もかもが溶け落ちた。

 黒雲の対応が間に合うよりも早く、無数の攻撃を繰り出す事の出来るエンヴィーは間違いなく天敵だろう。

 惜しむらくは根本的な出力不足。彼女の攻撃では到底有効打になり得ないのだ。

 

「あなたももう少し鍛えたら?」

「……そうね。久々にそう言うのやって見ようかしら」

 

 各々が培ってきた強さを挫かれる最中、どこか余裕を漂わせて今後を話す二人。だが、両者とも内心そこまで涼しい訳でも無いのだ。

 どちらかと言えばやせ我慢的に無理矢理優雅な態度を取る二人であったが、彼女らは余裕が無い時こそ危険であると知っているのだ。

 

「それじゃあ、まずは連携の取り方から練習しましょう?」

「あら、私についてこれるかしら?」

 

 ふわ、と浮かび空を舞う二人はまるで踊るような軌跡を描きながら黒雲へと攻撃を浴びせかけるのだった。

 

 

「……あの博士、一体何を作ってんだ」

「俺に言うな。お前に分からないのに俺が分かるか」

 

 愚痴のように呟くアダムに反せる答え何てそんな物。当たり前の事でしかない。

 現在、俺達は変化したZZから少し離れた場所で待機していた。

 と言うのも……

 

「もう一回確認するぞ。戦力が揃って、今のZZに風穴開けたら──」

「俺が突っ込んで応答信号を送る。……五回も言わなくて良いぞ」

「馬鹿に分かってるか不安でな」

 

 この野郎ぶん殴ってやろうか。いやまあ、不安なのは俺も一緒だから良いんだが……

 まさか俺が作戦の要になるとは。

 

 千桜さんの作戦とは、ZZに攻撃を加えて大ダメージを与える。その時点でZZは防御に重点を置くので、そこで俺を介して信号を送れば停止する、と言う物だ。

 信号さえ送れば確実に停止する、とは言われた物のそれを送るタイミングがかなり重要なようだ。どうしても緊張するし不安になる。

 しかし……今現在見えている光景からは、そもそもそのタイミングが来るのかさえ怪しく思えて来た。

 

「XXX、ちょっと離れるぞ。迎えに行く必要が出来た」

「おう、行ってこい」

 

 俺の返事が終わる前に飛び立っていたアダムを見送り、黒雲のようになったZZへ向き直る。

 ……絶対助けてやるからな。

 

 

 

「現状は──」

 

 新たにやって来た他世界の存在へと現状の説明を行い、死地へ放り込む。

 そこにこれと言った感情が入り込む余地はなく、作業的にアダムはそれを行っていた。

 最も、今のZZを無視すれば全員死ぬので戦っても遅いか早いか位の違いではあるのだが。

 そんな状況でアダムが最も苦心しているのが、他世界の存在達を指揮下に入らせる事だ。

 これを感知して向かってくる存在なんて大抵が超越的領域に踏み込んでおり、それに見合うだけの自負……プライドを有した存在だ。

 当然、誰かの指示を受ける何て考えようともしない連中ばかり。普段であれば叩きのめして従わせるであろうアダムも、そんな時間が無い以上懇切丁寧に下手にでて頼む、と言う手段しか取れない。

 幸いにして広がる終末の脅威を間近にし、それに対する指揮の適切さを知った存在達は大半が大人しく指揮下に入るのだが……

 

「何故我がそんな物に従わねばならん。ふざけるな」

「そう言われましても……現状では彼女の指揮が最適なのです」

 

 物わかりの悪い奴と言うのはどこにでもいる。質の悪い事にこの存在はアダムより格上、下手に出ようとも増長するのみだ。

 最悪殴り倒して従わせる、と言う手段も取れない相手にアダムが頭を悩ませた所……天上より飛来した一撃が目の前の存在を焼き尽くした。

 

「雑魚に構っている暇は無いだろう。早く戦力を送れ」

「……その大事な戦力が目の前で消し炭になった訳だが」

「今この状況で彼女の指揮下に入らん存在等戦力では無い。早く次に向かえ」

「言われなくとも行くっての。上から目線が」

 

 露骨に舌打ちで返しながらアダムはカリオストロに背を向ける。間違いなく今は助けられたのだ。

 その事は双方共によく理解している。それ故にアダムの内心は煮えくり返っていた。

 

「クソが」

 

 その結果出て来たのはその一言。それだけ言ってアダムは次の場所へ向かう。

 徐々に集結のペースは早まり、自身を複製しながらの対応に追われるアダムは、それでも一つの驚嘆を有していた。

 千桜四石の指示である。

 

 

「ガンヴァレアは右上トルハトムはハディアートの救援へエンヴィーは十四秒攻撃の後撤退してネバルドと交代単壊はゼロエルの補佐に回り治癒を七秒……」

 

 矢継ぎ早に繰り出される指示はどれもこれもが違う場所へ届いている。

 絶え間なく吐き出される言葉を脳内で違う宛先に分け、名を使う事で目的の存在へのみ届ける異様な精密さ。指示その物は明瞭且つ対象が必ず理解できるように調整され、場合によっては言語も何もかも即座に切り替える。

 戦場全域を完全に理解し、新たな救援の存在も即座に把握し的確に対応してのけていた。

 

「カリオストロは二秒後に上昇後下方に火をヴァ―トレは三秒時間を戻してリオは目の前をぶん殴ってゼロエルは前方二キロを円柱状に消し飛ばして……」

 

 使っている術式の都合上発声が必須になる為、どうしても指示が遅れる場面が出る。それを補う為にまた新たな指示を出し、自分で投げた糸の上を渡るような綱渡りを極限の状況で成立させる。

 神の如き頭脳はそれを平然と行うが……それでも尚、千桜の焦燥は消えない。

 

(冗談じゃない! まるで戦力が足りない!)

 

 未だにあの黒雲はその動きを鈍らせてすらいない。世界の軛を取り込んだが最後、急激に誰も手が付けられない勢いで膨れ上がると言うのにそれを妨害することが出来ない。根本的に攻撃力が足りていないのだ。

 最適、相性勝ち、何の意味も無い。

 百のパーを繰り出しても不可説不可説転のグーに勝つ事は出来ない。余りに差が大きすぎる。

 それでも、万が一。億が一。十の十乗の十乗の十乗の彼方へ消える確率の彼方だとしても。逆転の一手に鳴り得る存在を探し求めて。

 

(最低限度の破壊は許容してそれを足掛かりに影響を伝播させてより外部を呼び込む。そのためにはハドラマルスの方面を放棄し──)

 

 神速の思考は不可能な二正面作戦を可能にする。即ち、ZZの抑え込みと戦力の補給。他世界への影響を大きくし、それによって訪れる存在を増やす。

 捨て身に近い一手ではあるが確実に有効である。

 とはいえ、賭けである事に変わりはない。確率は上がるかも知れないのだが、元々が低すぎるのだから。

 

(やらないよりはマシだと思うようにしておきましょう。精神衛生に良くない)

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