九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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胎動は遠く

黒雲はただ在るだけだ。

 世界の軛を呑まんと動いている今も、無数の攻撃を受ける中も、何も変わらない。

 何も変わらず、()()()()()()

 浴びせられる無数の攻撃へ最適な性質へと変化し変幻な対応を上回り変異し偏執的な後追いを無感情に対処する。

 千桜四石でさえこの変質に対する対策は打てていない。

 なぜならこれは後出しだからだ。

 グーを出された後、チョキで敗北したのでパーを出す。ただそれだけの事。

 どれだけ最適を打とうとも黒雲は瞬時に変化してしまう。

 故に千桜は立ち回りや攻撃位置、それら戦略で以て優位を取り続けるしか無い。どれだけ彼女が正確に変化を読み取り、変化に対応した攻撃を繰り出しても……黒雲はそれに対して変化するだけだ。

 いたちごっこを支えるのは垓の単位に到達したナノマシンの群れ。その全てがあらゆるエネルギーを食らい最適に変異する可能性の化身。

 黒雲は倒れない。

 

 

「化け物だな! これだけぶち込んでも駄目か!」

 

 片っ端から飛んで来る指示に従い、その合間にも無数の攻撃を行っているゼロエルだがそのどれもがまともな成果を上げていない。

 自分と同格は()()()()()来ているが、その二人に加えてカリオストロも有効な手段は取れていないようだ。

 

「しかし遅いな指示! まあ口頭だからしゃーねーけどよ!」

 

 音が止まっていると錯覚するほど馬鹿げた速度で戦う最中、それに追いつく指示が出ているだけ大したものだ、とゼロエルは声の主を評価する。

 とはいえ、現状はほぼ手詰まりだ。

 先程の()()()()──宇宙を軽く数兆消し去る予想の埒外へ外れた指示の結果──それでさえ黒雲の2%を消し去ったのみ。加えて言うならばもう対応された。次はその五十倍でも届かないだろう。

 

「口を動かす前に手を動かせ」

「うっせーぞ新入り!」

 

 新たに戦いへ参入した人物──単壊と名乗った──の忠告へ罵声を返して再度攻撃を敢行するゼロエル。当然有効打は無い。

 その上で代償は無慈悲に襲い来る。ゼロエルの右羽が付け根からもぎ取られていた。

 

「あークソ、攻撃ですらねえ!」

 

 瞬時に翼を生やしなおしたゼロエルが理不尽に咆哮を上げる。

 なにせ単なる強度であればビッグバンでも致命傷にならず、守りを固めればその数千倍すら防ぎ切る肉体がこうもあっさりと削り取られるのだ。

 組成を、守りを解析して行われる防御無視攻撃。ゼロエル達ですら理不尽だと叫びたくなる不条理な手段。

 それが黒雲にとっては攻撃でさえない事にゼロエル達は気付いていた。

 これはただの反応。黒雲に踏み込んだ存在を文字通り機械的に解析し、分解、吸収しているだけなのだ、と。

 

「今でこれならこの後──この終末が攻撃に入った後はどうなる事やら」

 

 

 飛来する。

 数多の宇宙から数多の存在が。

 例えば星を叩き割る拳豪が、銀河を呑んだ吸血鬼が、宇宙を焼いた罰の化身が、流星の涙を持つ少女が、星系を食らう魔物が、咆哮で天を割る厄災が。

 あらゆる存在がただ在るだけの終末を見、それが駄目だと確信する。

 

「アレがヤバ過ぎる事が幸いしてますけどね。それでもまるで足りません!」

 

 無数の指示の合間に現状の絶望を叫び、千桜は再度指示に戻る。

 他の世界から飛来を続ける存在は増え、彼女の指示も複雑さと量を増し続けるがその程度ならまだ余裕がある。

 問題はまるで足りない戦力。

 最初から何一つ解決しないこの問題は千桜の頭を常に悩ませ続けている。

 なにせ何一つ有効打が打てていない。

 連鎖反応を使い多元宇宙を千度焼き尽くす攻撃でさえ膨れ上がる黒雲の攻撃目標を切り替える事さえ出来ていないのだ。

 故に千桜はここに来て目的を完全に切り替える。

 

「グリガンは前方へ向けて破砕ハトメは右手を伸ばしエネルギーを反射エンヴィーは十二万度の炎を生成ゼロエルは下方の炎を凝縮ガファルドは左二度を七メートルに亘って切断……」

 

 指示の目標は黒雲を抑える事では無く、より大きく影響を伝播させる事。即ち、完全に現状戦力での対処を諦めた救難頼りの一手。

 少し前から平行しては居たが今度はそちらに注力した事になる。

 その結果として加速度的に来訪する存在は増えているが……やはり足りない。

 しかし、確実に成果は上がっている。

 存在の数も、強大さも確実に上昇して来ている。

 ならばこれを続けて……そう千桜が考えた時に、それは、来た。

 

「随分と尽くす物だ。無駄だとは分かっているだろうに」

「……今、無駄では無くなりましたので」

 

 双生の幼翁、アンドロギュノス・ヘルマプロディトス。まごう事無き極天の一角。

 その中でも頻繁に動きが確認されるこの存在は、来るのであれば最も可能性が高いとして千桜が念頭に置いていた。

 

「言っておくが大した事は行わんぞ。協定が有る」

「どうせ放って置いたら全部消し飛ぶでしょう。少しの手出しであれば問題ありませんよ」

 

 極天を相手に一切臆さず言葉を紡ぐ千桜を見て、幼翁が面白そうに笑う。

 

「成程、一理ある。とはいえ少しの手出しがアレ相手では致命的になる事を知っているのだろう? まるで詐欺師の手法だ」

「詐欺でも何でもしないと世界は終わりですよ。今更この程度でビビッてられません」

 

 その言葉で遂に堪えきれなくなったのか、幼翁の口から大笑が噴き出した。

 ひとしきり笑い、幼翁は未だ衰えぬ黒雲を見据え、言う。

 

「では、笑いの礼として手伝わせてもらおう。指示はどうする?」

「出しますよ。その点から仰角11.2度、方位23.4度、最高火力」

 

 了解、との一言と共に幼翁が──極天の有する最高の一撃が放たれる。

 それは今までの戦闘で行われた攻撃の威力全てを合算した物さえ虚無とする圧倒的威力。突き進む矛盾は存在全てを砕き、理不尽な出力で抵抗をねじ伏せる。

 光が素粒子単位で移動を行うよりも僅かな時間で行われた破壊は、最終的に黒雲の体積七十パーセントを削り取った所で停止した。

 

「さて、コレで作戦は次の段階に行くのだろう? 何を考えているのか見せてくれ」

「言われなくとも。まずは戦線に。指示はそこから出します」

 

 一切の油断なく黒雲を見据える千桜の眼前で、遂に終末が行動方針を変更し標的を敵対者へと切り替えた。

 

 

 

 巨大な黒雲になったZZが一瞬で消し飛んだ。少なくとも、俺にはそうとしか分からなかった。

 ZZの身を案じたのもつかの間、次の一瞬で自分が死んだと錯覚するような威圧感が体を襲う。

 千桜さんが声を掛けてくれなかったら本当に死んでいたかも知れない。

 

『さて、作戦は第二段階に移りました。ここからは貴方にも動いてもらいますよ。まずはアダムさんと合流してください』

「分かりました。……そっちは大丈夫ですか?」

『大丈夫ですよ。お気遣い無く』

 

 それだけ言って通信が切れる。

 正直、ここから見えている範囲だけでも全く大丈夫そうには思えない。

 さっきまでただ在るだけだったZZが、今や竜巻のように蠢いているのだから。

 

 

 

 腕のように伸びるそれは、無数のナノマシンが変化し寄り集まった巨大な分解装置。先ほどまでの停滞から一転、遂に攻撃を開始した黒雲にあらゆる存在は驚愕と、それに倍する絶望を強いられた。

 ある物は吹き荒れたナノマシンの風に呑まれ消え、ある物は伸びた腕に叩き潰された。ある物は黒雲の内から湧き出た無数の人型に蹂躙され、またある物は投射されたエネルギーに焼き尽くされる。

 

「遂にか! 作戦の二段階目! ここまでか!」

 

 ゼロエル達ですら油断すれば瞬時に消し去られる大嵐。集結した存在の中には自分と同格が新たに十人、格上ですら三人は居る。

 だと言うのに大嵐はまるで希望を見せなかった。

 防御は不可能、攻撃は吸収され、回避しようにも次元を突き破り膨れ上がる黒雲から逃げ続けるのは非現実的。

 多大な絶望を強いられる中、ゼロエルは笑う。

 

「ここまで上は高いか! ハハハハハハハハハハ!!!」

 

 まだその壁は超えられる、この壁を超えて見せる、と。ゼロエルは咆哮を上げるのだ。

 それを見て、極天が笑った。

 

「この世界は本当に面白い。上に恐れを抱かない者が多数いる。……むざむざ消滅させるのは惜しい」

 

 黒雲の大渦の中、幼翁はその力を解き放った。

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