「それでお前ら、これからどうするよ」
「これから?」
ZZを巡るあの超越的な戦いから数日。
ようやく諸々の処理が終わったと言って家に来たアダムは、いきなりそんな事を言いだした。
「研究所は壊滅、博士も死亡が確認。要するにお前にずっとかかってた面倒な嫌疑が全部晴れた訳だ。今ならもうコロニー内で住めるぞ」
「マジで!?」
あの戦いで何が有ったのか、俺は殆どの事を知らない。
ただ途轍もない人達が戦って、それで俺は最後に何だか組み込まれたと言う印象が強いのだ。
しかし博士も死んでいたとは……
「政府連中としてももう拒む理由は無えだろうし、寧ろ手元に置いといた方が安全って判断だ」
「……ZZが危険な事にはならないよな?」
信用しろや、と蹴りと共にアダムが言い放つ。……まあ、信じてやろう。
「上から目線が腹立つな」
「おい待てふざけがごげッ!?」
コイツ追撃を……痛ってえ……ざけんなよ……
「……お前の……身体能力で……それやるな……死ぬ」
「人を見下す奴は死んでも構わねえが」
「良いだろ何か言った訳じゃねーんだから!」
「内心が気に入らねえ」
理不尽な!
「……まあんな事は置いといて……本気でどうするんだ? コロニーで暮らすか、このまま外で住むか」
「んー……今の所碌に金が無いしな……」
俺の記憶を取り戻すのに所持金のほぼ全てを使い切った。新しく家を買う金は無い。
借りると言う手段もあるが……このご時世に賃貸は大体問題塗れな場所なんだよなあ。
「まあ別に急ぐ話でも無え。金が溜まったらでも十分だろう」
「まあそうなるかなー」
一応今の所生活には困っていない。直ぐに結論を出す事でも無いだろう。
「で、ここに金になる話があるんだが」
「……お前、そっちが本題だろ」
「これがまた面倒な物でな。コロニー外で発見された新物質の確保何だが……思いっきりアイギスの勢力圏内だ」
「馬鹿じゃ無いのか?」
別に急いでいないと言ったばかりだし、そんな危険な所に行く筈も無いし……いきなり何なんだ。
「言っとくが、依頼してきた場所が場所でな……」
そう言ってアダムが紙を渡して来た。……手紙か、これ?
えっと、中身……は…………
「…………」
「三千屋敷。千桜四石直々の依頼だ。断りようが無いぞ」
……これは断りようが無い。
妙にサラッと頼んでいるし、断ったら脅すという事もさりげなく書いているし、自然に恩を着せるような文体をしている。……実際の恩も合わせてこれを断ったら碌な事が起きそうに無い。
「本当に一応だがヤバい危険地帯だけは避けた場所が指定されてる。まあ気休めみたいな物だが」
「本当に気休めだな……」
今度はデータで送られてきた地図が俺の意識上に浮かび上がる。……新物質のポイント以外、何もかも真っ赤な危険地帯だ。そのポイントもオレンジの警戒区域だし。
「で、いつ出発する? 期限が後三日だが」
「……それ、今すぐ行くしか無いんじゃ無いか?」
「それじゃあ出発だな」
「チクショー!」
「で案の定こうなったよクソったれ!」
砲撃の雨の中を死に物狂いで走り抜ける。何かついて来たZZは……剣で砲弾を切り払っていた。アイツあんなこと出来るように成ったのか。
例の戦いで色々な事が変わった。その中でも大きな──身近な物では──変化の一つ。それが、ZZの
アダム曰く、内側のプログラムを長時間起動していた影響で脳がそれを学習、一部の機能を限定的に使用可能となったらしい。
その結果として、ZZはかなり無法な強さを得ていた。
「とりゃー!!」
気の抜けそうな掛け声と共に、音の壁を突き破る蹴りが放たれた。
ZZの体は元々かなり拡張性があったらしいのだが……それを無意識的な領域で機能させられるようになったらしい。
つまり、ZZの体はコイツのイメージに沿って動く。
「ZZ、あんまり突っ込むなよ!?」
しかし新しい力を手に入れたZZは前にも増して無鉄砲になっている気がする。今も何だか積極的に砲弾に突っ込んで……おいそっちじゃない!
「うおー! おれは無敵だー!!」
「馬鹿そっちじゃないそっちじゃない戻れコラ!」
あーもう滅茶苦茶だあ!
「あー……頭痛い」
「まあ頑張ったからねー」
コロニー外、三千屋敷地下、ただひたすらに襖が四方にある部屋が続くだけの空間で、千桜四石が頭部に置いた氷嚢をリオの手によって交換されていた。
「リオ、冷蔵庫の二段目にジュースが入っていますので」
「はいはい、飲ませますよー」
先日の戦いで脳を酷使し続けた千桜は未だに続く頭痛と発熱に悩まされていた。
本来こういう時は彼女に従っている三人の怪物に世話をしてもらうのだが……かなり無茶な働きをさせ続けた結果、全員が休暇を取ってしまった。
当然無理に呼べば契約の都合上強制的に従わせることが出来るのだが……彼女がその札を切る前に、友人の一人であるリオが看病をしに来たのだ。
「しっかし……まさか千桜がこんな事になってるのを見るとは」
「私だって動けば疲れます。まあここまで酷使する事になったのは予想外ですが……」
「千桜普段から予想外が見たいって言ってるじゃん」
「出来れば体に負荷を掛けない感じが良いですね……」
「わがままな! 昔は未知が欲しくて無茶苦茶やったって聞いてるよ?」
「……それ、誰から聞いたんですか?」
「千桜が聞いて来るって……ヤバくない?」
冷蔵庫を漁りながら会話をしていたリオが、予想外の言葉に動揺して持っていたお菓子を取り落とす。
「今余り頭使えないんですよ……で、誰から聞いたんです?」
「えーっと……666」
「アイツ帰ってきたら埋めときますか」
「酷いと思うなー!」
ジパングの一角で、鬼が酒樽を一気に飲み干した。
それを見て透き通った人型が更なる大酒を煽り立て、応じて鬼は二回りは巨大な樽に手を付ける。
横から見ていた魔はその様子に呆れた顔を浮かべ、友人の一人に話しかけた。
『一気、一気、一気!』
「ごっ、ごっ、ごっ……」
天道が己の体躯に数十倍する巨大な樽を持ち上げ、その内に入った酒を飲みほしていく。
ただの一滴でさえ人間を気絶させる程常識や法則を飛び越えた酒気が込められた恐ろしい酒は、最早極悪な域で酒に対する強さを発揮した天道によって見る見るうちにその量を減らしていった。
「ハァ……うむ、美味い! 矢張り酒は良い!」
『お前の飲みっぷりは見ていて気持ちが良いな。億年氷を渡した甲斐が有った』
人外の怪物であろうと容易に酔い潰すこの酒は、この場に集まった者全員が材料を寄せあった物だ。
水は極が、米は天道、エンヴィーが仕込みを行い横入りしてきたクリテルマがそれを絞り、いつの間にか来ていたアンキが量産とろ過を同時に行い、バミューダがその作業を短縮した。
「それにしても意外ね。まさかあなたがこんな場に来るなんて」
「……アンキに引っ張られたのよ。山ほど居るんだから一人くらい良いだろって」
「実際そうだろ? 今も二十億程が不眠不休で頑張ってるらしいじゃないか」
戦いの後、カリオストロは以前にも増して己の研究に籠る様になっていた。
世界の調停者でもあるかの存在が全てを投げ出している以上、誰かにそのしわ寄せは回ってくる。
「大体世界を勝手に作ってそれの管理を放り出す神経自体が……」
「あの世界彼が作ったの? 道理で完成度が高いと思ったわ……」
「何やら衝撃的な話がされておるの」
『何でも良い。飲むぞ』
「応!」
小難しい話を意識から叩き出し、天道は酒樽へと手を伸ばす。対抗するように極も氷で作ったグラスに酒を注ぐのだった。