九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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砲林弾雨

「おああああああ!?」

「ああああああああ!!」

「遊んでねえで早くしろ!」

「これが遊んでるように見えるか!?」

 

 目標地点まで残り一キロ。既にもう砲撃が大地を覆っている。

 馬鹿だろコレ! どんな火力投入してるんだよ!

 

「三分の一位は政府側だな。まともに食らったらお前でも相当痛いぞ」

「分かってら! なので警戒頼む!」

 

 ぶっちゃけもう見上げるだけでちょっと視界が暗くなるほどの砲弾の雨だ。弾ける奴は弾いて片っ端から避けてを繰り返してようやくここまで進んできた。

 しかしここに来て弾幕密度が跳ね上がった。アダムだけはまるで意に介さず突き進んでいるのだが俺達にそんな真似は出来ない。

 

「一体! 何が有るってんだよ!」

「新物質」

「それは分かってる!」

 

 場所はアイギスの勢力圏内、そこに真っ向から政府が攻撃を加えている。

 基本的にアイギスを刺激しないような消極策ばかりの連中にしては、極端過ぎる選択だ。

 その新物質がそこまで重要な代物なのか。まあそうなのだろう。

 

「その新物質にどれ程の価値が有るかって話だ!」

「未知数だ。公的にはな」

「公的ってのが不安になってくるな!」

 

 要するに裏があるって事だろうし間違いなくろくでも無いだろうし多分アダムはそれを知ってるし。

 何だこの見えてる地雷は。千桜さんの依頼じゃ無かったらどんな金積まれても断ってたぞ此畜生。

 

「俺は正体知ってるが……まあ今言っても意味がねえ。それの近くに行ったら答えてやるよ」

「あー分かったよ! 要するにまだまだかかるって事だな!」

 

 更に激しさを増した砲撃の雨にも向けて叫びを上げる。ええい、こうなったら無理にでも辿り着いてやる!

 

 

 

 

「……ちょっとだけマシになって来ました」

「それじゃあ氷嚢外す?」

「……いえ、まだ大丈夫です」

 

 横になったまま千桜が隣で座るリオに話しかける。

 

「そっか。……そういえばさ、何か依頼してたって聞いたけど……」

「666は後で絞めるとして……それ、興味あるんですか?」

 

 XXXへと頼んだある依頼。それに興味を持ってきたリオに念を押すように尋ねる千桜。

 その様子に好奇心を刺激され、リオはグイ、と身を乗り出した。

 

「興味ある」

「……まあ別に口止めもされていないので良いですよ。あの依頼は新物質の回収です。表向き」

「表向き」

 

 その言葉で後ろ暗い裏を察し、リオは少し声を低めた。

 

「アレは世界全域に出されている餌のような物です。資格者を見極める為の」

「資格者? それに見極めるって、あの依頼千桜の出した物じゃ無いの?」

 

 てっきり目の前の彼女が出した物だと思っていたリオは分かりやすい疑問符を浮かべ、千桜に問う。

 

「私はどちらかと言うと乗っかった形ですね……アレは定期的にそう言うのを探すんですよ。それに合致すれば運命だのなんだのと言って、自分の元に連れて行く。

 ……本当は私が行って要望を送るつもりだったんですけどね。頭を使い過ぎました」

 

 正真正銘限界を超えて脳を酷使し続けた千桜は、今まともに動ける状況に無い。という訳で代役としてXXX達を立てたのだ。

 

「比較的安全なルートも渡しておいたのでまあ何とかなるでしょう」

「……なんかそう言う希望的な事言う千桜って新鮮。録画してアイツに見せようかな」

「止めてください。割と恥ずかしい」

 

 至近距離で見ているリオがギリギリ判別できる程度に千桜が顔を赤らめる。が、リオからすれば熱の生なのか判別が付かない。

 

「熱で顔が赤くなってるのか恥ずかしがってるのか……ごめん、分かんない」

「熱です。気にしないでください」

 

 そう言って千桜は布団に顔まで潜り込んでしまった。

 

「……うん、本当に新鮮だな」

 

 普段の無な雰囲気からは想像も付かない弱さを見せる千桜に、微笑まし気な笑みを浮かべてリオは見守るのだった。

 

 

 

「うははははははは!!! そら、まだまだ酒はあるぞ!」

『飲め飲め。ほら、減っていないぞ!』

「……このアルハラ二人殺して良いかしらあ?」

「揉めたら貴方でもただでは済まないわよ……」

 

 完璧に出来上がった天道と極の絡みに青筋を浮かべたクリテルマが周囲に光の剣を浮かべ始める。エンヴィーも言葉では諫めているのだが既に制裁を与える用意を行い始めていた。

 一方、既に許容限界を遥かに上回る酒を飲まされ続けたバミューダは中毒を引き起こし掛けている体内を必死で中和していた。

 

「ふー……」

「何だい、幾ら酔っているって言ってもお粗末な術式だね」

「私は……数が……ある事が前提よ……」

 

 ガンガンと痛む頭と端から白くなって狭まる視界の中で必死に集中を維持して錬金術を組み続けるバミューダに会話に裂く脳の容量は無い。

 が、掛けられた言葉に返してしまう程今の彼女は理性を無くしていた。

 

「本気でまずそうだ。駄目なら手伝ってやるよ」

「大丈夫……別に死んでも……第二第三の私が……」

「今こっちに持ってきてるのは一人だけだろうに……」

 

 そろそろ限界を超えた弊害を出し始めているバミューダ見てアンキは諦め始める。

 更にその一方、新たなる乱入者は持ち込んだ酒を急激に消費していた。

 

「あー……クソが。数少ねえチャンスだってのによお……」

 

 苛立ちを酒で抑えていないと直ぐにでも爆発しそうなゼロエルは周囲にオーラとして分かる程不満を漂わせていた。

 

「あら、何かあったの?」

 

 酒飲み連中から距離を取り、エンヴィーがゼロエルに話しかける。

 しかし話しかけられた当人は巨大な溜息を一つ吐いたのみだ。

 

「言ってくれても良いんじゃない?」

「……あー…………アレだ、億年に一回有るか無いかのチャンスがな……ふざけんな、例外への道がよお……」

 

 酒の影響かまともに言うつもりが無いのか、断片的な上要領を得ないゼロエルの言葉をかみ砕いてエンヴィーは理解していく。

 その結果として彼女は、ゼロエルが普段から口にしている悲願……最強、と言う頂への可能性を逃した事を知った。

 

「……あなたがそう言うのを逃すなんて。珍しいわね」

「向こうから直接だよ! あのボケ機械が……依怙贔屓……あー……糞、運がねえ!」

 

 延々と虚空へ向けて愚痴を連ねる姿は、エンヴィーの知るゼロエルではあり得ない物だ。

 彼女の知る限りにおいてゼロエルはいつ何時も高笑いを響かせながら暴れ狂い手当たり次第に破壊をばらまく存在だ。この様に手持無沙汰に愚痴を呟くのは、始めて見る。

 

「まあ残念ね。諦めて切り替えなさい。ほら、お酒持ってきたから」

「ああ……クソ……」

 

 エンヴィーに手渡された酒を一息に飲み干し……ゼロエルが卒倒した。

 飲まされた酒は今現在も天道の飲んでいる酒……それを物理法則を捻じ曲げて凝縮した殆ど毒の域に踏み込んだ物。流石のゼロエルも昏倒する。

 

「悪いけど、今愚痴に付き合ってる精神的な余裕は無いわ」

 

 視界の端で遂にクリテルマと戦争を始めた飲んだくれ二人を捕らえ、エンヴィーは大きく溜息を吐いた。

 

 

 

 同時刻、アイギス領域内。

 

「……やっと、やっと着いた……………」

 

 約二時間。生きた心地が全くしなかった。

 アダムはまるで手伝わないわZZは勝手に駆け出すわ砲撃はどんどん激しくなるわ……クソだ。世の中。

 しかしここに来て完全に砲撃が止まった。……と言うかこの一帯だけ全く砲撃されていない。絶対におかしいが……例の新物質とやらの所為だろうか。

 

「そこんところどうなんだ、アダム」

「まあ当たりだ。そら、もう見えてるぞ」

 

 と、誘導された視線の先に……何かの破片が映る。

 特に変哲も無く、一見すれば石と見間違えてしまいそうになる物だが……不思議な事にそれが周囲と違う、と言う事だけは良く分かるのだ。

 

「……アダム、これって」

「破片だよ。塔のな」

「……塔……!」

 

 塔。

 コロニーの中でも観光地扱いになっている謎の場所。

 未だにまるで正体を掴めず、高さ十万キロメートル地点で異空間に消えている、九十世紀現在で尚絶大な未知を保つ異様な場所だ。

 確か塔の構造物は破壊方法が不明だった筈だが……何故破片が? そして何故この場所へ?

 

「疑問は有ると思うが……まあそれはちょっと後だ。今は()()()()()()()()()()()()()

 

 唐突に。唐突にアダムの口調が変わった。

 何度かその状態……アダムが交渉モードだの接客モードだの呼んでいる状態になったのは見た事があるが……俺達に使っているのは初対面以来だ。

 

「……何が……あるんだ?」

「申し訳ありません。到着してからのお楽しみだ、とマスターより命令を承っております」

 

 馬鹿丁寧に一礼をするアダムの姿は何処か不気味に見える。

 

「兄貴……こっからどうなるの?」

「何で俺に聞くんだ。アダムに聞け」

「アダム―。どうなんの?」

 

 普段の調子で聞きに行ったZZにもアダムは様子を変えず、気味の悪い丁寧口調で返して来た。

 

「これから貴方方はマスターの元へと行く事になります。それからの事はマスター次第となりますが……悪いように扱われる事は無いでしょう」

 

 言うなり俺達の体がぼんやりと光始める。何となく、どこかへ意識が遠ざかるような感覚がして──

 

 

 気が付くと俺達は、見た事の無い建物の内部に居た。

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